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ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約

2020年02月02日 16時26分29秒 | その他・一般

前回まで
・ゲーセンは「風俗営業」である。
・一般に「フーゾクエーギョー」と言われる業態は「性風俗関連特殊営業」である。
・ビデオゲーム機による賭博事犯が1981年より爆発的に増加し大きな社会問題となった。
・1984年、ビデオゲームを扱うゲームセンターを警察の監督下に置くことを主眼として「風営法」は「風適法」に改正され、ゲームセンターは新たな「風俗営業」となった。
・これによりゲーセンは、営業には警察の許可を要するようになり、また深夜の営業ができなくなった。


******** これより今回の話 ********
風適法は1985年2月から施行されました。これに伴い、ゲームセンターは「風俗第8号営業」となりました。それ以前の風俗営業は第7号営業が最後の項目で、それはパチンコ、パチスロ、雀荘などの遊技業だったので、風俗営業の中に二種類の遊技業カテゴリーができたことになります。業界では、このふたつの遊技業を、「7号」と「8号」と呼び分けることで区別をつけていました。

その風適法も、2016年にやや大きな改正があり、その際に風俗営業のカテゴリーは5種類(関連記事:ゲーセンと法律の話(1):まずは風適法の解説から)に減少したのですが、それまでの2種類の遊技業は、「4号営業」と「5号営業」にそれぞれ変更になっただけで、ゲームセンターが風俗営業から外されたわけではありませんでした。

さて、ところで、5号営業の許可を要する要件とは何でしょうか。実はこれ、設置される設備によって判断されます。どんな設備を設置して行う営業が第5号営業の許可を要するかは、風適法の下位法令である「風適法施行規則」の第3条で定められており、そこでは以下の5種類を挙げています。

【風俗第5号営業の許可を要する設備】
(1)メダルゲーム機
(2)テレビゲーム機
(3)フリッパーゲーム機
(4)遊技結果が表示されるゲーム機
(5)カジノゲームの設備

(1)の「メダルゲーム機」は、理解は難しくありません。もともとメダルゲーム機は海外のカジノで稼働するゲーム機を由来とするもので、これまでもさんざん違法な賭博営業に使われてきた実績もありますので、賭博犯罪を防止する意図からすれば筆頭に挙げられるのも然るべきものと思います。

(2)の「テレビゲーム機(「ビデオゲーム」としないのは、条文の記述に倣っているため)」は、少し難しいです。国会で、テレビゲームを稼働させるゲームセンターを風俗営業とすべしという議論が行われた時にも、「インベーダーゲームと賭博に使用されるポーカーゲームが全く異質なものであることは明白ではないか」という反論もされましたが、「インベーダーゲーム機も基板の交換で簡単にポーカーゲーム機にすることができる」、つまりやろうと思えば偽装は容易であるという理由で却下されています。sigmaの創業者である故・真鍋勝紀氏は、この検討の際に業界にとって不利な証言をしたとして、一時業界内で猛烈に批判されたこともありました。真鍋氏は別にゲーセンの風俗営業としたかったのではなく、単に事実をフェアに述べただけだと思うので、気の毒なことでありました。

(3)の「フリッパーゲーム機」については、テレビゲーム以上の疑問を感じます。確かに本家の米国でも70年代までフリッパー・ピンボールを禁止する地域が残っていましたが、風営法が改正されようとするころには解禁されています。ゲーム結果に対する褒章として与えられるクレジットが問題視される場合もありますが、フリッパーゲームはそこまで問題視されなければならないほど大量のクレジットを払い出す、射幸心を煽るようなゲームではありません。ビンゴ・ピンボール機(関連記事:埼玉レゲエ紀行(1):BAYONの記録その1)であれば、確かに大量のクレジットを払い出す可能性のあるゲーム性であるため、かつて日本でもGマシンとして使用されていたことは警察も把握していますが、ビンゴ・ピンボール機をフリッパーゲーム機に偽装することは現実的には不可能です。

強いて言うならば、次に挙げられている「遊技結果が表示されるゲーム機」に準じる理由であればまだわからないこともありませんが、それでもわざわざ独立した項目として名指ししておく必要はないと思います。「ゲームマシン」紙も、風適法施行直前の85年2月1日号のフロントページで「まったく釈然としない」と論評しています。

(4)の「遊技結果が表示されるゲーム機」は説明が必要です。施行規則では、「遊技の結果が数字、文字その他の記号又は物品により表示される遊技の用に供する遊技設備」としています。つまり、ゲームの結果を何らかの形で残す機能を持つものはギャンブルに流用され得るという解釈なのだと思います。このことから、例えば「ダーツ」というゲームの場合、スコアを手計算で行う昔ながらのハードダーツは対象とはなりませんが、スコアを自動的に計算して表示するエレクトリックダーツは対象となります(ダーツについては後々重要な話に絡んでくるので、この部分は覚えておいていただければと思います)。

なお、この項目には「人の身体の力を表示する遊技の用に供するものその他射幸心をそそるおそれがある遊技の用に供されないことが明らかであるものを除く」という付け足しもあり、明らかにギャンブルに転用し得ないと判断される設備は除外されています。これには、打撃の強さを測る「パンチングボール」の類や、占い機などがその典型例として挙げられます。また、「モグラ叩き」も、経過を観察するとの留保は付いたものの、とりあえず風適法の対象機種からは外すとされ、こんにちまで見直しが行われたことはありません。

(5)の「カジノゲームの設備」が(1)のメダルゲームと分けてあるのは、このジャンルの設備がコインオペレーションではないからでしょう。このような設備が普通のゲームセンターに設置されるケースは(今は)少ないですが、「カジノバー」という業態で一般的です。つまり、「カジノバー」が風適法によって受ける制約は、通常のゲームセンターと全く同じということです。

よく、「カジノのゲームでパチンコみたいに景品(法律上は賞品)と交換するような営業をすればいいじゃん」と言う人がいますが、カジノバーはこのように5号営業に属することをご存知ないのでしょう(UFOキャッチャーなどのプライズ機についての説明はここでは省略します)。

以上5種類の遊技設備を設置して行う営業は、「風俗第5号営業」として所轄の警察署の許可を要します。ただし、若干の例外が認められていて、ホテルや旅館、大規模小売店、遊園地に設置されるゲームコーナーは、いくらかの要件を満たしていれば、許可を要しません。また、ゲームの専業店ではない、一般の店舗にゲーム機を設置する場合は、ゲーム機の設置面積の3倍が店舗面積(厳密には、店舗のうち客の用に供する部分の面積。つまりバックヤードやカウンター内などは含まれない)の10%以内であれば、許可の申請は省略できることになっています。ただし、その場合でも、稼働するゲーム機そのものについては風適法の制約を受けます。

「風俗営業になったからって、別に許可さえ受ければいいんでしょ?」と思う向きもあるかもしれませんが、風俗営業にはこれまでになかった制約がいろいろ発生します。

【風俗営業の制約(概略なので表現は不正確です)】
(1)営業時間:深夜営業ができない
(2)立地条件:住宅街、学校、病院などの近くでは開業できない
(3)人的要件:未成年者、犯歴があり一定の期間を経ていない者等には営業許可が降りない
(4)管理者の選任:資格の条件を満たす専任の常駐管理者を置かなければならない
(5)事業所の管理:従業員名簿の作成保存、施設の構造や設備の管理

風俗営業となる以前では、町中の商店がいきなりインベーダーハウスを始めることも簡単にできましたが、風俗営業となってからはそう言いうわけにはいかなくなり、警察の監督を受けるために業界にとっては負担が重くなる面倒ごとが増えました。

しかし、許可を与えるということは、そこで行われているビジネスが正当なものであることを行政が認めるということであり、それまで世間一般からは真っ当な産業と思ってもらえていなかったゲーム業界としては、営業許可というお上からの「お墨付き」を受けるのはむしろ良いことではないかという前向きな考え方も、ないこともなかったようです。余談になりますが、性風俗関連特殊営業は許可を要さず、届け出だけで営業できます。これはなぜかというと、中でナニが行われているのかチェックできない業種では、お墨付きを隠れ蓑として暴走する業者が現れても、当局による実態の把握のしようがないという事情があるからです。

◆風適法が施行された1985年の業界のできごと
 ・セガ、「UFOキャッチャー」発売(2月)、体感ゲームの走りとなる「ハングオン」発売(7月)。
 ・sigma、3フロア560坪の大型店舗「ゲームファンタジア・サンシャイン」オープン(7月)。
 ・オペレーターの業界団体AOU設立(10月)
 ・ビデオゲーム基板の端子の共通仕様JAMMA規格が制定される(11月)。




HANG ON(SEGA,1985)のフライヤー。二つ折りの表紙側(上)と中(下)。

(次回「新概念「特定遊興飲食店」の誕生」につづく)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (tom)
2020-02-02 21:06:55
確かに難しいお話ですねぇ。

大雑把に申し上げても、どのようなゲーム自体にも「必ず勝ち負け」があって、コレだけでも射幸心の対象ですから…

Unknown (nazox2016)
2020-02-17 21:54:29
tomさん、コメントありがとうございます。
そうなんです、勝ち負け、優劣が付くあらゆるゲームで賭けが行われているのに、なぜことさらコインマシンだけ雑に括られて規制されなければならないのかと思います。

ワタシは、大人がゲームを遊べる施設があるといいなあと思っています。アメリカには「BARCADE」と称する、ゲームが楽しめるバーがあちこちにあります。日本もそんなのができるといいなあといつも夢想しています。

ところで、こちらにコメントをいただくと、登録したメアドにお知らせメールが届くはずなのですが、なぜかこのところその知らせが届かず、前回いただいたコメントにも今日まで気づかないままでおりました。大変失礼しました。
Unknown (名無しさん)
2020-04-02 02:06:20
カジノゲーム設備(トランプ台、ルーレット台)が規制対象設備であることは、ゲームセンター以外にも影響を及ぼしました。
ファミレスなどでトランプ遊びをしていると必ず店員に制止されますが(トレーディングカードゲームだと見逃されるにも関わらず、です)、これは店内でトランプ遊びをするのを認めると、無許可で「トランプ台」を客に提供していることになるからです・・・
Unknown (nazox2016)
2020-04-02 22:08:03
うーん、これは・・・ どうでしょうね。風適法施行規則の第三条には単に「ルーレット台、トランプ台」としか記述されていませんが、トランプで遊んでいればそれが何であろうとトランプ台とみなすという考え方は、風俗営業とする要件である「トランプ台」の定義を揺るがすものですし、一般的な社会通念に照らしてもかなり無理な解釈だと思います。また、同規則には「トランプ遊技に類する遊技」という文言があり、トレカゲームを「この「類する遊技」とみなす方が、普通のテーブルをトランプ台とみなすよりもずっと納得しやすいと思うのですが、こちらは見逃されているんですよね。

微妙なケースの判断はその地域を所轄する警察が行うので、地域的な差でそのようなことはあるかもしれないとは思います。もしくは、そのファミレスが他の客への迷惑になると考えて、テキトーな理由付けをしている可能性も感じます。

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