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ゲーセンと法律の話(3)新概念「特定遊興飲食店」をゲーム業界に活かせないものか

2020年02月16日 19時00分01秒 | その他・一般
前回まで
・2016年、風適法に少し大きな改正があり、風俗営業は第8号営業までの8種類から、第5号営業までの5種類に減少した。
・第5号営業の許可を要する遊技設備は、下位法令の「風適法施行規則」で、5種が定められている。
・風俗営業とされた業種は、深夜の営業ができない、営業できる地域に制限がかかるなどの制約がある。


******** これより今回の話 ********

2016年の風適法改正により、風俗営業は第5号営業までの5種類に減少しました。これは既存の風俗営業の定義を整理・統合したことによるものですが、たった1つだけ、風俗営業の対象から外された業種がありました。それが、クラブやディスコなど客にダンスをさせる営業である「旧第4号営業」でした。

この旧第4号営業は、古くは「ダンスホール」という業態が存在し、そこでは売春を媒介するなど風俗上の問題が生じる実態があったことが風俗営業とされる理由となったと聞いています。しかし、当初は社交ダンス教室まで含んでいたなど一般的な社会通念に照らしておかしいと思う点がもともとありました。

とは言うものの、一方では確かに、ゲーセンと同じく少年非行の温床となりうる環境を提供する営業が行われていた事実もありました(関連記事:ゲーセンと法律の話(1):まずは風適法の解説から)。それがなぜ風俗営業から外されたのか、ワタシはよく理解していません。

ただ、ダンスをさせる営業は風俗営業でこそなくなりましたが、この法改正により、全く新しい概念である「特定遊興飲食店」というジャンルが風適法内に新たに設けられ、ダンスをさせる営業はここに加えられました。「特定遊興飲食店」は、所轄の警察署の許可を要するという点は風俗営業と変わりません。しかし、風俗営業ではないので深夜でも営業ができます。「特定遊興飲食店」とは、「遊興」、「酒」、「深夜」の三要素すべてを備えている業種です。これに該当する業態には、ダンス施設のほか、ライブハウス、カラオケパブ、ショーパブ、スポーツバーなどがあります。

ところで、かつては2万軒以上あった第5号営業も現在は4000軒余りにまで減少しています。これには、大規模店舗が増加し、多数の中小規模店舗が閉業したという事情もあるので、軒数の比較だけで一概に衰退しているとは言えないところもありますが、昨今はその大規模店舗の閉業も目立つようになってきており、ゲーセン業界は虫の息と言ってよい状況になっていると思います。このようなゲーム業界の再活性化のためには、新たな客層を取り込むことが可能な新しい業態の出現が望まれますが、風適法の縛りがある限り、そのような飛躍は非常に難しいです。

ゲーセンが風俗営業に組み込まれた理由には、ゲーム機による賭博営業と、少年非行の温床となることへの警戒があったからですが、「少年非行の温床」については各都道府県の条例で対応できる範囲のものであり、残るゲーム機による賭博営業については、現在はその実態はほぼ認められない状況にまでなっています。このような営業は、もはやダンス営業と同様、一部の制約を残すことはやむを得ないとしても、もう風俗営業としておく必要はないのではないかと思います。

ここで思い出していただきたいのが、過去記事「ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約」で述べた、「風俗第5号営業の許可を要する設備」の件です。風適法施行規則では5種類の遊戯設備を風適法の対象に定めており、「エレクトリックダーツ」はこのうちの4番目である「遊技結果が表示されるゲーム機」に含まれていたのですが、一昨年(2018年)の9月に、シミュレーションゴルフとともに対象から外されることとなりました。

もともと「遊技結果が表示されるゲーム機」には該当要件のみが記されているだけで、具体的な機種をいちいち挙げるようなことはしていませんでしたが、警察庁が各地方警察に対して「デジタルダーツとシミュレーションゴルフは、遊技結果が表示されるゲーム機として規制する機械の対象とはしないことにしたからみんな適正な許可事務をしてね」との通達を出すことにより、それらが非対象機種であることが明文化されたことになりました。

なぜ、ことさらエレクトリックダーツ(と、シミュレーションゴルフ)だけが除外されたのでしょうか。第一の理由とされたのは、「ダーツはプロもいるスポーツである」という理屈です。これは、ボウリングがスポーツであるとの理由から風俗営業の対象となっていない(ただし、各都道府県が独自に定める地方条例による制約は受けている)ことから見ても、整合性が感じられます。

しかし、業界の識者から話を聞くと、エレクトリックダーツを風俗営業の対象から外す真の目的は、「ナイトエコノミー」と「インバウンド」にあるようです。つまり、今後観光立国を目指したい日本としては、外国人観光客が深夜も遊べるスポットを増やしたいという思惑があり、エレクトリックダーツを設置する「ダーツバー」はその目的に合致すると判断されたということです。

賭博に流用されうるという理由で設けたはずの制約を、一部に限るとは言えなかったことにするのは、最初からそんな制約は必要なかったのではないかとも思えます。「ダーツにはスポーツとしての実態が認められる」なんて理屈は、おそらくそんな批判をかわすための言い訳ではと疑っていますが、まあ、ともあれ、制約は少ないに越したことはないので、そこには目をつぶりましょう。

ゴルフでは「ニギリ」と称して賭けが行われていることは公然の秘密であるにもかかわらず、シミュレーションゴルフが風適法の対象から外れるなら、そのほかの「遊技結果が表示されるゲーム機」だって対象から外れても良いはずで、そして実際エレクトリックダーツは外されました。

ならばこの解釈をもう一歩進めて、まずは賭けに使われている実態がほとんど認められないフリッパー・ピンボール機を風俗営業の対象から外しても良いのではないでしょうか。「フリッパーゲーム」は、風適法施行規則では3番目に特に名指しされている機種で、4番目の「遊技結果が表示されるゲーム機」とは事情が若干異なりますが、この不条理については前出「ゲーセンと法律の話(2)風俗第5号営業(ゲーセン)の要件と制約」で述べています。

「フリッパーゲーム」は、今なお世界中で多くの愛好家を引き付けていますが、メンテナンスなどオペレーション上の問題が多いため、その運営には独特のスキルを要し、普及しにくいゲーム機です。それだけに、多くのフリッパーゲーム機を設置しているところは世界的な見地で聖地と目され、わざわざそのために外国から人がやってくるというロケもたくさんあります。日本の行政が本当に日本を観光立国化したいのであれば、フリッパーゲームは、インバウンドやナイトマーケットの視点からも非常に有力なコンテンツだと思います。

ゆくゆくは、フリッパーゲームに限定せず、ビデオゲームも風俗営業の対象から外して、「特定遊興飲食店」として夜通し営業できる「ゲームバー」が実現すれば、ゲーム業界にとっても新しい市場となり、活性化につながると思うのですが、そのような構想があるという話はワタシの耳にはまだ入ってきていません。残念なことです。

(このシリーズ・おわり)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (名無しさん)
2020-04-02 02:19:20
フリッパーピンボール機を規制対象から外すのは難しいでしょうね
単純に衰退したから賭博で使われる事例が見られなくなったと言うだけで、ゲームに関する知識の乏しい層が見ればビンゴピンボールとフリッパーピンボールの区別は難しい(だからこそゴットリーブ社が必死になってフリッパーピンボールは賭博機ではないと声高にアピールしたわけです)し、フリッパーピンボール機でもオプションによっては賭博機として使える仕様にもできるのも事実です
(「スペシャル」を、州法などに合わせて「リプレイ(もしくはフリープレイ)」、「エクストラボール」、「ボーナススコア」、そして「チケット(ペイアウト)」から選択できる)
「エクストラボール」が「持ち玉を増やす」のではなく「落ちた球を再打球できる権利を得る(ティルトのペナルティを受けるとこの権利も無効になる機種もある)」という扱いなのも、「ゲーム(遊技)とゲーミング(賭博)の関係」が密接に関わっています
持ち玉を増やすのは「払い出し(ペイアウト)に当たるのではないか?」という解釈が可能で、実際エクストラボールも認めない州も、それどころか今でもピンボール機が設置できない州もあると聞きます
Unknown (nazox2016)
2020-04-02 22:10:10
フリッパーピンボールを規制対象から外すべきとする部分の論旨は、日本のコインマシン業界の再活性化のためには新たな業態が必要で、その方策の一つとして、もともと合理性が乏しい規制に縛られているフリッパーピンボールを解放することは考えられないかと言うもので、言外に「警察も業界ももっとよく考えておくれよ」との訴えを含ませたつもりでした。

なお、フリッパーピンボールに限らず、凡そ結果が点数で表わされるゲームは賭けの材料になりますが、ワタシは、社会に大きな害悪や混乱を与えるものでない限り(ゴルフやボウリング、そして最近はエレクトリックダーツのように)それらはなるべく許容されるべきであると考えています。

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