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パチンコ誕生博物館オープン(3) 最終回:歴史の証拠を残すにはどうすればいいのか

2020年07月12日 22時38分05秒 | 歴史
今回は、前々回、前回に続いて「パチンコ誕生博物館」の記録の3回目です。

ところで、ワタシがこの博物館を知ったのは、最近拙ブログに何度か英語でコメントを残していってくれている「Caitlyn」という女性から教えていただいたからです。今年の5月24日にアップした記事「情報求む! 「Table Bingo」」で少しご紹介している「カナダにお住いの方」がまさに彼女です。

彼女にはまだ小さいお子さんがいらっしゃるということから、自身で博物館に見学に来ることが難しいとのことだったので、ワタシが博物館を見学する目的の半分は、彼女の目となることでした。ワタシは博物館で撮影した写真にいくらかの簡単な説明を付けて彼女に送ったところ、彼女は受け取って僅か1週間で、画像が豊富な立派な記事をご自身のブログに掲載されました。そこには過去二回の拙ブログ記事よりもはるかに良い画像資料がたくさん掲載されているので、他の写真もご覧になりたいという方はぜひとも彼女のブログ「so I bought a pinball machine」ご参照ください

Caitlynのブログ so I bought a pinball machine (トップページ)

パチンコ誕生博物館の記事 Niche Collections: Mr. Sugiyama's Pachinko Museum
(全文が表示されていない場合は記事末尾の「Read more »」をクリックしてください)

さて、展示機種のご紹介はCaitlynのブログにお任せするとして(Thank you so much, Caitlyn)、以降では杉山さんが自宅を改造してまで博物館を開いた動機や経緯について述べておきたいと思います。

現代のパチンコは、日本の先端技術産業をも巻き込み日本経済に多大な影響を及ぼす巨大産業であるにもかかわらず、そのルーツには定説というものがありません。館長の杉山さんはいつかその起源を解き明かしたいと考えて、15年の歳月をかけて世界各地に飛んで取材を行い資料を収集し、調査を重ねてようやく達した一つの結論を記した「パチンコ誕生 シネマの世紀の大衆娯楽」という本を上梓したのが2008年のことでした。この本は絶版となってしまっていますが、全国の図書館で購入されているとのことですので、閲覧することは可能です。


「パチンコ誕生」の出版を報じる、2008年10月19日付けの日本経済新聞記事。

出版から半年後、銀座の画廊で、収集した機械を杉山さんの本業である美術作品とともに展示する展覧会を開いたところ大きな反響を呼び、杉山さんはパチンコの起源を明らかにした人としてNHKテレビなどにも出演されています。

ところが。その展覧会の後、杉山さんはパチンコの歴史の証拠であるコレクションを公共の博物館やパチンコ業界などに寄贈を申し出ますが、全て断られたのだそうです。

なんというバカなことを!

公的な博物館がこんなに貴重な歴史の証拠を引き取らない理由があるとすれば、それは「研究対象のジャンルが違う」か、もしくは「場所が無い」以外にはあり得ないと思います。もし、その文物に倫理的に好ましくないと思われる点があるから公的な場所での展示に馴染まないなどと考えて、これほど巨大な産業の歴史を無視するであれば、それは学究的な態度とは言えません。人文科学の否定です。

ワタシは、過去記事「溜め込んだ資料類の将来を案じて憂鬱になるの巻」で自分のコレクションの行く末を案じていますが、杉山さんは私などよりもはるかに人文学資料としての価値が高いコレクションで、同じ問題に直面しているのです。杉山さんは、これらコレクションの承継してくれる人を探すことが、この博物館をオープンした目的の一つだとおっしゃっています。

ワタシは、例え現物は残せなくともせめて写真にだけは残せないものかと提言申し上げたところ、杉山さんは眼を患って視力が低下しているため自分ではできないが、もしそんなことができるならそれはありがたいとおっしゃいました。

そこでワタシは、これらのコレクションをきれいな写真に撮って自費出版までするにはどのくらいの費用がかかるかをざっと調べてみたところ、単純に本を2千部を刷る費用だけで、最低の品質で100万円前後、ある程度満足できると思われるレベルの本を作るなら300万円程度はかかるらしいことがわかりました。実際にはこれに撮影にかかる費用が乗っかります。仮にそれを100万円(運搬代、スタジオ代、撮影費など。これが適正な見積もりかどうか全くわかりませんが)とすると合計で400万円が必要です。いまどきはクラウドファンディングなどという手法もありますが、1万円を出資してくれる人が400人も集まってくれるものでしょうか

杉山さんが博物館を開いた目的にはもう一つ、「正しいパチンコの起源を残したい」というものがあります。現在、一般的には「コリントゲーム起源説」が最も広く流布されているようです。しかし杉山さんは、自身の調査によって、欧米の「バガテール」が英国で「ウォールマシン」となり、これが日本に入ってパチンコに発展したという「ウォールマシン起源説」を唱えていらっしゃいます。

そしてもう一件、戦後パチンコが飛躍的な発展を遂げた原因とされている「正村ゲージ」についても、杉山さんは過去に出版された複数のパチンコの歴史本で、辻褄が合わない画像を用いて正村ゲージが説明されているとして、その是正も求めていらっしゃいます。杉山さんは膨大な資料を調べ上げてこの認識に至っているわけですが、その杉山説と対立する別の説が、すでに広く流布されているという現実があるのだそうです。

その対立する説は、メーカーを横断するパチンコ業界全体の重鎮と言える武内国栄氏が唱えている説です。杉山さんは、武内説の根拠とする画像に瑕疵があると指摘しているのですが、過去の(杉山さんが誤りと指摘している)歴史本の著者は、武内説を支持しており、杉山説に対して、

(1)武内氏は各メーカーを横断するパチンコ業界の代表と言える立場であり、メーカー全体を公平な立場で見ることができる人である。
(2)従ってその武内氏が言うことは業界の総意である。
(3)従って、武内氏の説の異説は受け容れる余地はない。

と反論しています。


杉山さんの、過去に出版されたパチンコ歴史本に記述されている正村ゲージに対する異議への反論の展示。

合理的な疑念が出されたからと言ってその説が間違いとは限りませんので、ワタシには真実はもちろんわかりません。しかし、綿密な調査によって得た認識により武内説に疑念を持つに至った合理的な理由を述べている杉山さんに対する反論は、論理性が乏しく、一種の権威主義を振りかざした恫喝のようにさえ見え、誠実さに欠けていると言わざるを得ないという印象を得ます。杉山さんは、自分の説は重鎮に逆らえない業界からは今や黙殺されているという認識でいるとのことですので、ワタシとしては、最低でも武内説とは異なる説もあるということを伝えていければと思っています。

(このシリーズおわり)

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