ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

レコードコレクターズ増刊「カントリー・ミュージック」宇田和弘氏編

2020-02-15 | カントリー業界情報、コラム

今年、カントリー・ミュージックの歴史を俯瞰したアルバムガイ

ドとして、ミュージック・マガジン社より掲題の本が刊行されま

した。このような本は大変貴重なので、早速入手した次第です。

とにもかくにも歓迎したいと思います。

 

”カータ・ファミリーからテイラー・スウィフトまで”との触れ込

みがある通り、テイラー・スウィフトや、昨年来日もしたケイシ

ー・マスグレイヴスを始めとして、”Contemporary Acts"と章立て

して90年代以降のアーティストを取り上げてくれているのが、

メインストリーム・カントリーのファンには注目だと思います。

ガース・ブルックス、リーバ・マッキンタイアアラン・ジャク

キャリー・アンダーウッドらと共に、個人的にはリー・ア

ン・ウォマックエリック・チャーチミランダ・ランバート

そしてアシュリー・モンローらがピック・アップされ日本人の専

門家によって解説されたことがうれしく思います。アルバムの選

定も見事と思いました。

 

それでも、本誌の編集にはいろいろ苦労や困難があっただろう事

は感じられます。”テイラー・スウィフトまで”との触れ込みから

すると、バランス的に近年のアーティストが少ないと感じました。

従来からのこの手の書籍で取り上げられる、ロックのルーツとし

てのクラシック・カントリーとカントリー・ロック~アメリカ

ナ勢(そしてブルーグラス)に、80年代以降のごく一握りの超

クロスオーバーしたカントリー・スターを加えた、という印象で

す。先日NHK-BSで放送された、アメリカン・ミュージック・アワ

ードで登場していた、ケルシー・バレリーニトーマス・レット

ケイン・ブラウン、そしてブランコ・ブラウンも、ここには登場

しませし、何といってもルーク・コムズがいません。あくまで

(ミュージック・マガジンでなく、)リイシュー専門誌であるレコー

ド・コレクターズの増刊だとして捉えるのが良いでしょう。それ

なら、マルティナ・マクブライドック・ブラウン・バンド

入れてほしかったです。このブログでもアクセス有りますから。

 

この辺りのご苦労は、編者の宇田和弘氏も重々ご承知されてい

て、”Contemporary Acts"の所では、”この紙幅では多くの代表

的アーティスト(※レディ・アンテベラムブラッド・ペイズリ

、グラミーで話題のタニヤ・タッカー等々が挙げられています)

が抜け落ちてしまう結果となった事をお詫びしておく”と書かれて

います。また、ライター各位のカントリーへの親密度も様々なよ

うで、チョッと掻い摘んで見た程度でも、”今時のコンテンポラリ

ー・カントリーには一抹の違和感を覚える”、”共感するとは言い

切れない東洋人の私でも、(中略)理由は想像できる”、”カント

リー・ミュージックを愛好する支持層の意識、または無意識の恐

るべき保守性(ディキシー・チックスの記事)”や”CMA(アワード)

ではノミネートさえされなかったが、それがどうした!?な名盤

(ロレッタ・リン「Van Lear Rose」)”の表現が見受けられました。

 

これは、元々「愛と平和」「反戦」「自由」を起点としたロック・

ジャーナリズムの流れにある洋楽メディアと、カントリー音楽との

相性が、そもそもよろしくない事によるのでは、と感じています。

あの「9.11」後の時期にも、おびただしくリリースされた愛国的カ

ントリー曲に対して、メジャーな報道でも違和感を持って取り上げ

ていた事も記憶されます。カントリーとなると、それこそ無意識に

そういう話に行ってしまうというのは、まだあると思います。ただ、

その急先鋒がミュージック・マガジンだった訳で、宇田和弘氏も”こ

れまで距離を置いてきたカントリー音楽にフォーカスした増刊を出

すということにも格別な感慨を覚えた”と書かれているように、情

報や理解が十分でない中でも、この本の製作を挑戦された事自体を

大歓迎したいと思います。

 

だいぶ昔、作家の吉岡忍氏が、若い頃、ベ平連でアメリカの脱走兵

を匿う活動をしていた事に絡み、アメリカの軍人(脱走させた人の

親だったか?)を尋ねるドキュメントを見ました。その軍人が吉岡

氏の詰問にたいし、「私も戦争はしたくない。軍の務めは生活の為

の仕事だ」という意味の回答をし吉岡氏が絶句したシーンを覚えて

います。「自分は成熟を拒否した」との吉岡氏の最後の言葉も。カ

ントリーに親しむ保守層とされるのは、例えばこういう人たちなん

だろうと理解しました。或いは、アラン・ジャクソンのゴスペル・

ライブ「Live At the Ryman」で、セイクリッド曲を目を閉じて熱

心に歌う、信心深い親子や男女。

 

カントリー音楽は、一般の報道では見えてこない類のアメリカ人、

アメリカの真に重要な別の一面を垣間見させてくれる機能も持てる

と思います。なかなか出来ないのですが、歌詞内容をよく吟味す

れば、決して支持できなくとも、冷静に自分たちとの違いや違和感

自体を楽しめそうに思います。そういう切り口で解説してくれる、

カントリーの専門家がいてほしいですね。難しそうですが・・・

既に絶版のようですが、ロバート・T・ロルフ氏著「カントリー音

楽のアメリカ」がそれをしてくれた貴重な書でした。大学の講義

用に書かれたものらしく結構重い内容ですが、素晴らしいもの

でした。

 

或いは、社会・思想云々の話は置いといて、音楽やタレント・キャ

ラで楽しんでしまう事。70年代のクイーンやチープ・トリックを

追いかけたミュージック・ライフ誌のようなイメージでしょうか。

テイラー・スウィフトが日本で良かったのは、上記のカントリー特

有の社会・文化を一切感じさせなかった事で、ケイシ・マスグレイ

ヴスーが今一つ盛り上がらないのは、彼女が辛辣に表現するそれが

分かりにくいからではないでしょうか。

 

カントリー・ファンとなるとマニアックとも思われがちですが、洋

楽好きがいろいろ調べてカントリーに行きついた、というより、偶

然のタイミングで音に触れて気に入ったような人が多かったように

感じています。グリー・クラブで歌ってるニュー・カントリー・フ

ァンを複数知っています。あんまり言葉や批評・理屈で誘いこむの

ではなく(そいう方法も良いと思いますが)、音楽なのですからと

にかく聴いてもらう機会を増やすことが大事でしょう、という当た

り前の結論でした。

 

カントリー・ミュージックの書き手というと、島田耕さんが有名で

すが、残念ながらお亡くなりになったと聞いています。若い方で、

カントリーを多くの人に耳に届くような伝道活動をしてくれる方の

登場を心待ちにしています。


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