ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

Tyler Childers タイラー・チルダース - Country Squire

2020-01-25 | カントリー(男性)

 

★2023年のRustin' in the Rain」を取り上げました

 

昨年、2019年の夏に突如、ビルボード・カントリー・アルバム・

チャートの1位に躍り出た、メインストリーム・カントリーとい

うよりアメリカーナ志向のアーティスト、タイラー・チルダース

のサード・アルバムです。ヒット・カントリーではあり得ない、

摩訶不思議なアルバム・ジャケットも気になりますが、エモーシ

ョナルなしわがれ声で歌われるトラディショナルなカントリー

には、チャートを賑わせている音楽とはまるで異質の熱気や生気

が感じられます。2020年のグラミー賞カントリー・パフォーマン

スに見事ノミネート済み。プロデュースは、2016年のグラミー賞

でカントリー部門のウィナーとなったスタージル・シンプソンで

す。

 

 

プロフィールですが、生まれは1991年、ケンタッキー州ローレン

ス。お父さんは、炭鉱産業に従事しており、子供の頃は教会のク

ワイアで歌を習いました。13才の頃には曲を書き始め、高校卒業

後、西ケンタッキー大学やブルーグラス・コミュニティ&テクニ

カル大学を転々とした後、ドロップアウト。音楽の道へ進みます。

 

活動の場を同じケンタッキーのレキシントンやウェスト・バージ

ニア州に移し、2011年には自主製作アルバム「Bottles & Bibles」

もリリースしました。そのおよそ5年後、友人の紹介でスタージル・

シンプソンと出会い、そのスタージルのプロデュースによるデビ

ュー作「Purgatory」で表舞台に登場したのです。2018年には、

早々にライブ・アルバム「Live on Red Barn Radio I & II」をリリ

ースしています。

 

 

一聴して土埃が漂うような、角の取れた70年代あたりの音を思い起

させる、正真正銘のトラディショナルなカントリー音楽集で、この時

代にこんな音楽を提供出来るタレントがタイラーの存在意義でしょ

う。リズムや曲想はいたってシンプルですが、しっかり耳をとらえ

るフックが有ります。そして、アップテンポが多くを占める、ライ

ブ感溢れる演奏が素晴らしい。中でも"Ever Lovin' Hand"の疾走感は

特筆です。 ビデオも製作されている”House Fire"ではダンサブルな

ビートをベースにし、現代性もしっかり保ってます。ビデオでもダ

ンサーをフィーチャしつつ、それを意に介さずしゃべり続けるタイ

ラーとの対比がシュールで意味深です。

 

 

2020年のグラミー賞にノミネートされた "All Your'n"は、ピアノが

フィーチャーされたメロウなミディアム曲で、どこか懐かしい雰

囲気も感じるくらい。それでも、タイラーのむせび泣くようなハ

スキー・ボイスのお陰で、予定調和に流れる事はありません。歌

詞的には全体として、労働者階級の生の困難さ、悲哀などを題材

にしているようですが、ビデオを見ているとその表現が独特で、

メインストリーム・カントリーでの表現よりも辛辣でヒネリのユ

ーモアが有るのだろうと感じます。

 

 

たった9曲、30分そこそこの長さにも、徹底したレトロなスタイル

へのこだわりが現れていますね。このようなアルバムが、カントリ

ー・チャートの1位をさらう所に、近年耳にしにくくなっている、

真のカントリー・ミュージックへの潜在ニーズや渇望を感じます。

けしてくつろぐタイプの音楽ではなく、プリミティブなスタイルの

中にかつてのカントリーが持っていただろう刺激と高揚感を感じ

させる歌声と演奏と思います。


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