アノ映画日和

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「ジョーカー JOKER」感想 傑作でも絶賛出来ないたった1つの理由

 

これは観ないでおこう

公開前に映画雑誌を読みながら、そう思った。
雑誌は本国での大ヒット大絶賛を訴えていたが
駄目だ、好きになれない要因があり過ぎる
それは予想というより確信に近かった。
不満が確定しているのにわざわざ観る必要はない。
が、公開直後から絶賛に次ぐ絶賛の声

観た。
良かった。

確信していたはずの懸念は次々取り払われた。
素晴らしい!
これは一切文句のつけようがない…と言えれば良いのですが
ありました。
たった1つ、たった1つだけどとても大きな不満が残りました。
それは…

2019年/アメリカ
監督:トッド・フィリップス
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ほか
上映時間:122分

f:id:hagane-mk:20200202231845j:image88点

ざっくりあらすじ

貧富の差が激しい街ゴッサムシティ
貧しき市民の不満は限界近く治安は荒れ暴発の時を待っていた。
その引き金を引いたのは1人の青年だった。
名はアーサー。職業 道化師。夢 人気コメディアン
精神障害を患うも母を介護しながら街の片隅で慎ましく暮らしていた。
幸せとは言えないが、特別な存在ではない。
そんな彼がなぜ暴徒の引き金を引くことになるのか…

この映画は物語る
のちにジョーカーと呼ばれ、恐怖の象徴となる男の全てを…

幻想の花歌っておくれ この世界は美しいと
それは素敵な夢だと 君は狂ったように笑う

最後まで残った不満とは何だったのか
サクッと説明して終わってもいいんですけど、それじゃあまりに味気ない気がします。
なのでその説明の前に鑑賞前にどんな懸念を抱き観賞後どう解消されたのか少し説明します。
未見で同様の懸念、不安を持ってる方に

それは大丈夫だよ〜〜

とお伝え出来ればいいのですが
そんなんいいからさっさと結論を言え!て方は最後の方までワープして下さい。

懸念その1
所詮はスピンオフ

今までいろんな映画のスピンオフ映画が創られて来ましたが

アレは素晴らしい!

てスピンオフあります?
どれもこれもヒット作のおこぼれでもうひと稼ぎしたれ!的なビジネス映画ばかり。
スピンオフ=駄作
は言い過ぎかもしれませんが心情的にはそんな感じです。
で、この作品
バットマンのスピンオフですよね?

バットマンファンに媚び甘え倒した作品なんて観たくないぜ!

という懸念。
はい、杞憂。
だってこのジョーカー、既存のどのバットマンどのジョーカーにも繋がってないです。
繋がりのないものをスピンオフと呼ぶのも変な話。
僕の中でこれはスピンオフじゃないです。

完全な独立作品です。

だから興味あるけどバットマンの事よく知らないし…と躊躇してる方

大丈夫です!

バットマンの敵でジョーカーという名のすっごい悪い奴
これぐらいの理解で充分堪能出来ます。
是非、ご鑑賞下さい。

懸念その2
監督がトッド・フィリップス

ハングオーバーシリーズの監督さんなんですけど…
大丈夫?
いや、ハングオーバーは嫌いじゃないです。
むしろ好きなんだけど、笑いのパターンが少なくアイデア1発勝負なイメージ。
シリーズを重ねるごとにマンネリ化してて、わりと早い段階で見限ってたんですよね。
その監督がジョーカーを撮るって荷が重くね?
トッドフィリップスに深みのあるシリアスな映画が撮れますかね?
撮れましたね。
すみません、侮ってました。
もうこれは頭が地面にめり込む勢いで土下座したい。
思えばハングオーバーの笑いは不謹慎ギリギリのある意味狂気染みた笑い。

笑いと狂気は紙一重。

コメディを撮れる彼だからこの狂気的な傑作が撮れたんですね。
本当にすみません、他の作品も観ます。皆さんもどうぞ。

懸念その3
ホアキンジョーカー

ホアキンフェニックス結構好きなんです。
どこが好きって

人間臭いとこが好き。

でもそこが不安材料でした。
ジョーカーは人間臭さとは真逆の人外的存在。

ミスキャストじゃねえの?

そう思ってましたがトンデモない。
ホアキンで大正解!
この物語には人間臭いホアキンの演技力が不可欠でした。
にしても、今回のホアキンの演技は神がかり過ぎ。
脳神経の損傷から意図せず大笑いしてしまう発作を持ってるって役なんだけど

演技じゃなくてそういう人にしか見えない

笑ってるんだけど泣いてる。
彼が笑う度に胸が締め付けられる様に苦しくなる。
あれが出来るのはホアキン以外では竹中直人くらいでしょう。

懸念その4
ヒースジョーカーと比べたら...

僕にとってジョーカーと言えばヒースレジャー。
断トツです。
だからどうしても比べてしまうだろうな…届く訳ないのに
なんて懸念も抱いていました。
アホです。
ベクトルの全く違う異質のジョーカーなんですから比べようがありません。
ミッキーマウスとねずみ男を比べるようなもんです←違う
どちらも狂気(ジョーカー)を演じていますが陰と陽
どっちが正解ということもなくどっちも素晴らしい
ダークナイトこそ至高、ヒース以外のジョーカーは認めない
そんな方にこそ観て欲しい。
ヒースでは表現出来なかっただろうジョーカーが見れますから

ダルダルの白ブリで踊るジョーカーとかね


さて、いよいよ解消出来ず残ってしまった不満を発表しましょうか。
でもその前に想定外に素晴らしかったところを少しだけ語らせて下さい。


Lonely night 凍える夜に叫び続ける

狂いだせ Blind-Blue-Boy 

予想外に素晴らしかったところ

・バイオレンス描写がヌルくなかった。
どうのこうのでコミック原作だから暴力的なとこは上手く誤魔化してんだろうなと思ってました。
ところがどっこいかなりバイオレンス。
しかも漫画的な派手な描写ではなくリアリズムを意識した暴力。
痛みを感じる暴力。
ここかなり評価ポイント高いです。

・デニーロ代表作へのリスペクト
「タクシードライバー」と「キングオブコメディ」
この2作を意識して創られたそうです。
デニーロ作品でも5本の指に入る大好きな映画(ちなみに1番はミッドナイトラン)
端々にリスペクト感じて嬉しかったなぁ。
特にキンコメ。
デニーロ演じるTV番組司会者なんてパプキンのその後かと思いましたもん。
(残念ながらパンフレットでハッキリ否定されてましたが)
ラストシーンも構図から動きまでトレースされてて
く~~堪らん

・音楽が最高
これは書いても伝わらないでしょうから実際に聴いてみて下さい。
この映画の世界観にドンピシャ過ぎてヤバイです。

・名シーンの連発
名作にはかならずココ!という名シーンがありますが、こいつは名シーンだらけ。
特にポップにも使われてる階段のダンスシーン。
あそこは凄いですね。
まさにトリハダもの。
アンタッチャブル、鎌田行進曲、転校生、君の名は。に並ぶ階段映画に認定しましょう。
他にも1つ1つ言いたいけど未見に方の為にこれぐらいにしておきます。

さぁ、これだけ褒めたんだから1つぐらい文句を言っても許して貰えるでしょう。
タイトルにもしてる本題にいきます。 

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絶賛出来ないたった1つの理由
悪の過去を明かしちゃダメ

結局これなんですよ。
過去幾度となく失敗してるじゃないですか
「ハンニバルライジング」しかり「スターウォーズEP1〜3」しかり
映画としては悪くないけどハンニバルレクター、ダースベーダーの怖さ(魅力)は激減しました。
「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスなんて最悪。
レザーフェイスの魅力を無くした上、映画自体ツマラナイという…

悪の怖さ(魅力)は得体の知れないところにあります。
コイツ何をドコまでやるか分からん…という怖さ。
ジョーカーなんて特にそうです。
悪者と言っても特殊能力がある訳でも身体能力が高い訳でもない。
ただ得体の知れない怖さは半端ない

笑顔で悪行のかぎりを尽くす
悪の華

それがジョーカー

それを過去にどんな経緯があったのか、生い立ちを見せられたら全て台無し。
所詮は元一般人。
あれでは誰でもジョーカーになり得ると感じてしまいます。
それこそがこの映画の狙いなのかも知れませんが、
僕としてはジョーカーには「凡人ではなり得ない特殊な存在」でいて欲しかった。

今作の根本的なとこを否定して叱られそうですが、もっと言うと
この映画、

JOKERじゃなくても良くね?

おお、鼻フガしてる読者さんの顔が見えそうだ。
いや、これは酷評してる訳ではなく、むしろその逆です。
バットマンの世界に頼る必要のない傑作だと言いたいんです。

舞台がゴッサムシティである必要なんてないし
少年時代のブルースウェインなんてこの映画の異物でしかありませんでした。
ジョーカーは理由なき究極の快楽犯罪者のハズなのに、あんな関係を描いたら私怨になってしまう。その辺の犯罪者と同じになってしまう。
アーサーという名の哀しき道化師の話で良かったんじゃないですか?
ダメ?それでは話題性に欠ける?ヒットが望めない?
確かに…
映画をヒットさせる為にジョーカーというビッグネームはマスト
そもそもジョーカーありきで創られた物語
自分が無茶を言ってる自覚はあります。
でもジョーカーそのものじゃなくても良かったのでは?
何が言いたいかと言うと

自分をジョーカーだと妄想した男でも良かったんじゃないかと

物語を根本から変える必要は全くなくて
何度もテレビモニターが映ってたじゃないてすか
そこにもう1場面「バットマン」が映るモニターがあったら

ゾワッ

としただろうなぁ
あの世界には既にフィクションとしてのジョーカーは存在していて、アーサーはそれを自分と重ねてたっていう設定。
あるいは、その風貌や行動からジョーカーと呼ばれる様になる
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」パターンでもいいです。
とにかくジョーカー(バットマン)の世界の1歩外から描いて欲しかった。
それなら既存のジョーカーやこれから描かれるジョーカーにも影響を与える事はないですから。

でもそうじゃない。

紛れもなくジョーカーの過去と誕生秘話を描いてしまった。
駄作なら、あんなん無し無し無かった事!と出来るけど

こんなど傑作、誰が無視出来んねん!

これからダークナイトを観てもどのジョーカーを観ても、アーサーが頭をよぎるじゃないか!
あんな過去があったんだから…て情状酌量の余地を感じてしまうじゃないか!

あかん!
ジョーカーは絶対悪じゃないとあかんねん!

こればかりは呑み込めない。
だから絶賛はしません。 
大好きな映画だしもう5回観てるしまだまだ観ると思うけど
間違いなく傑作映画だけど
絶賛だけは出来ないんです。
この結論は変わりません。
WWW(泣)

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 最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります
・キング・オブ・コメディ
・タクシードライバー 
・モダン・タイムズ