彼をずっと見ていたかった。

新卒くんの後ろ姿を、少しでも詳しくはっきりと目に焼き付けておきたかった。
 
それと同時に、身体中に走る弱い電流のような感覚と、頭の中にまで響き渡るほどの心音に支配されていた。
 
ああ、私は目の前にいる新卒くんに恋をしてしまったのだ。
痺れゆく頭の片隅で、そう自覚するのに時間はかからなかった。
 
私は36歳、彼は22歳。
14歳も年下の男の子に落ちてしまい、自分の心を全くコントロール出来なくなるなんて思いもしなかった。
 
ただただ彼に全てを絡め取られて、心も身体も綿あめにでもなってしまったような幸福な感覚は、講演会の間中続いた。
 
講演会は永遠に終わって欲しく無かった。

 

 

 

 

 

 

 

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