研修の夜の飲み会で、新卒くんと離れた座席になってしまった私は、ある策を考えついた。
そもそも、周りの先生には大規模校や進学校の人が多く、私の学校のように小規模な学校の先生はいなかった。そのため私は、周りと話が合わずに黙って料理を食べるだけになってしまっていたのだ。
新卒くんの様子を、遠くからそれとなく観察すると、幾ばくか話はしているようだが、ほぼ私と同じような状況であった。そのため、目の前の料理をとっとと九割方食べ終え、おもむろに話をしに新卒くんの隣に行った。
「ねえ先生ー、暇だから遊びにきたー」
「俺も暇ですよ、知ってる人もいないし。あ、さっき高校の恩師とは話しましたけど、席も遠いし」
よし、やはり新卒くんも退屈していたのだ、とここぞとばかりに私は話しかけ始めた。ただ、この間お昼を一緒に食べに行ったときのような失敗はするまい、と思った。いきなり新卒くんの彼女というプライベートに、ずばっと切り込んだから引かれたのだ。
私は、仕事の話から始めることにした。
「ねえ、今日の研修の講演、どうだった?」
「まあ、そこそこ面白かったですね」
「先生ってすごいねー、何かめっちゃメモってなかった?」
「そりゃぱぴろん先生とは違いますから」
やはり知り合いが少ない、ということが効いているのだろう、普段のつんつんした新卒くんはそこにはおらず、雑談をする分には楽しく話せそうな雰囲気だった。
話は弾み、仕事の話から始まって、高校時代のことや好きなアーティストについてなど、新卒くんのプライベートにも少し触れることができた。
話している途中で、冗談めかしてならきけるかも、と思うことが出てきたので、ずばりきいてみることにした。
「新卒くん先生っていっつも学校で私にだけ冷たいけど、実は一周回って私のこと好きなんじゃない?」