新卒くんが一番最初に手紙を書いた相手が、多分私だという事に気付いた次の瞬間、涙が溢れてきた。
私は、新卒くんの手紙が涙で濡れないよう、手元から離した。
私はこの一年間、色々なことを新卒くんにしてきたし、新卒くんとしてきた。
最初に浮かんでしまうのは、彼に恋をしてしまったということなのだが、恋心とは別に、同じ教科の新人の後輩であるという気持ちもずっと持ち続けていた。
だから、教科の話をするときは極力恋心を切り離そうとしていた。
アドバイスもしてきたし、きかれたことには丁寧に答えてきたつもりだ。
褒める時には、恋心もゼロとは言わないが、教科的な視点から見た褒め方をしてきたと思う。
時には少しきついことも言ったかもしれないが、それも後輩に良くなって欲しいという気持ちだった。
6月ぐらいから、急に冷たくなったり優しくなったり、朝昼晩と態度が変わったり、といった行動の理由は分からないままだ。
だが、もしそれが私への嫌悪から出ていた行動なのであれば、こんな手紙は書かないに違いない、と思った。
恋愛の相手としては選ばれなかったが、少なくとも、教科の先輩としては認めてくれていたのだ。
新卒くんが、教員採用試験に合格した理由の一つは、このように礼儀を欠かさないところがにじみ出ていたからかもしれない。
会えなくなる寂しさと、手紙の裏に読み取ったものの大きさにより、涙は止まらなかった。