結論から言って、ミカの両親は山内くんをたいへん気に入ってくれたようだった。
「誠実そうな人ね」と母親は言った。――そうなの。誠実そのものの人よ。
「けっこういい男だし」
これも母親だ。――あたりまえでしょ。私の選んだ人なのよ。
父親の感想はこういうものだった。
「ミカを大切にしてくれそうだな」――そうそう、それが一番重要なの。
「でも、お父さん、私だって彼を大切にするつもりよ」
ミカはそう言った。両親は顔を見あわせてしばらく黙っていたけれど、そろって同じ調子で笑った。しかし、その笑い方はミカのプライドを悪いように刺激しないものだった。むしろ、高揚感をあたえるものだった。
「そうしなさい」と母親。
「あんないい感じの人を大切にしなかったら罰があたるわ」
このように山内くんの紹介は成功裏のうちに幕を引くことになった。そのこと自体ミカには嬉しいことだったけれど、さらに嬉しいことがあった。その席にはずっとぼんやりした顔をしたユキもいた。ミカからすれば、山内くんほどの人物を両親が嫌うはずもないと思っていたし、準備も怠らなかったから、そちらの方は想定内のことだった。
あとは山内くんが姉を見て、どんな顔をし、どのような鼻の動かし方をさせるかがミカの関心事だった。そして、みごとに山内くんはその関門をもするりとクールにかいくぐってくれたのだった。
翌る日にミカは電話をかけて、『昨日の感想』を訊いてみた。念には念を――というわけだ。
「昨日はいろいろとありがとうね」と労をねぎらい、「で、どうだった? うちの家族は」と水をむけた。
「どうって、聴いてた感じそのままだったけど。まあ、緊張してたのもあるしさ、そんなに感想ってほどのものはないよ。悪いけど」
「ふむふむ」とミカ。
「でも、うちのお父さんって無口でしょ? 話しづらくなかった? それにお母さんは逆に話しかけ過ぎだし。うるさくなかった?」
「いや、そんなことはなかったよ。正直、いいご両親だなって思ったし」
「なるほど」
ここまではあくまでも前段だ。つまるところ、どうでもいいことだ。だって、――とミカは思った。あなたは私と結婚するのだし、うちの両親に興味がわかなくたって別にいいの。
《僕が書いた中で最も真面目っぽい小説
『Pavane pour une infante defunte』です。
どうぞ(いえ、どうか)お読みください》