「よくはわからないけど、まさか同時にってわけじゃないだろ。時間差だよ。同じ時期にってことだ。ま、どうでもいいけど、自分の母親がやってるとこを想像させるなよ。気持ち悪くなるだろ」
淳平は頬を引きつらせた。たぶん自分の母親がやってる様を思い浮かべたのだろう。ちなみに書いておくと、淳平の母親はだいたいいつも豹柄の服を着た、小太りの、いわゆるおばちゃんパーマの人だった。僕も淳平の母親を思い浮かべて、下着姿くらいでやめにしておいた。
ドスンと音をたて、淳平は横たわった。僕も同じようにした。雲が一片、ゆっくりと動いていた。温佳の弾くピアノが弱く耳に入ってきた。
「そういや、お前の親父さん、そういうの持ってたよな」
「ん? ――ああ、確かにあったな。っていうか、お前はどうしてもそういうことにしたいようだな」
淳平が言ったのは父さん所蔵のエロ本の中でも最もハードな、いわゆる洋物の3Pもので、男と女がわけがわからないふうにこんがらがってるやつだった(『スチュワーデスの情事』という題名で、インチキっぽい操縦席のセットを背景にブロンドのお姉さんがパイロットとコーパイらしき男たちと交わってるものだ)。
それは、淳平でさえ手を出しかねていた最高にどぎついエロ本だった。僕たちは「これはもうちょっと大人になってからの方がいいな」と話しあい、なかば封印していたのだ。
「俺、今日あれ借りてくわ」
淳平はコーヒー色の顔を笑み崩しながら、そう言った。
これもちなみに書いておくと、その本は淳平の一番のお気に入り――永久欠番的に父さんの抽斗から借りられてるものになった。
友人がマスターベーションしてる様を想像するのも嫌なものだけど、実際はエロ本を見ながらするにせよ、そのきっかけが自分の母親になってるというのは妙な気分だった。ただ、僕にとって母さんのその母親性というものは無いか希薄だったので、立場が逆だった場合に比べれば(それはあまりに現実的でないけど)抵抗は少なかったかもしれない。
そして、このことはセックスの幻想をより強く意識させる原因ともなった。
十四歳の少年が抱く通常の性欲、あるいはそれ以上のものが満たすようになったのだ(性欲の強さを計る対象は淳平のみだったので、さほど強すぎるとは思ってなかったけど)。まあ、身体的な部分においてその相手が欠けてる行為をする回数が増えたのだけは確かだった。また、想像力に関して、僕はこの頃により多くを身につけることになった。
肉体的にも、精神的にも、ごく正直にいえばよりいっそうスケベになったわけだ。だから、温佳は母さんの新たな妊娠に「汚らわしい」という感想を持ってるようだったけど、僕にとってその汚らわしさは幾分魅力的なものだった。
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《ちょこっとホラーで、あとはアホっぽい小説です。
どうぞ(いえ、どうか)お読みください》