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世界を危機に、「小学生」習近平の暴走が止まらない 。党は法よりも大きいと言い放ち、返す刀で世界に喧嘩   福島 香織

2019-02-22 11:56:24 | 習近平国家主席

世界を危機に、「小学生」習近平の暴走が止まらない

党は法よりも大きいと言い放ち、返す刀で世界に喧嘩

2019.2.21(木)     福島 香織 ジャーナリスト

2018年11月、「中国国際輸入博覧会」でスピーチをする習近平国家主席


 中国共産党理論誌の「求是」最新刊に、習近平総書記が昨年(2018年)8月に行った司法に関する演説が

改めて掲載された。党内に向けた演説を再び今、強調する意味はなんだろう。


 そもそもこれは誰に聞かせるメッセージなのか。考えられるのは3つだ。

国際法規に中国は違反していると批判する米国はじめ西側国際社会。

中国の習近平と敵対する憲政主義者や司法官僚ら。

そして、香港。

 習近平の目指す“法治国家”宣言の意味を解析してみたい。


「共産党が法だ」と改めて宣言

「求是」で掲載された習近平の演説「党の全面的な法治国家の指導」の内容をかいつまんで紹介しよう。

もとは昨年8月4日の中央全面依法治国委員会第1回会議で行われた演説である。この中で習近平は

「党は法よりも大きい」という本音を包み隠さずぶちまけている。


「共産党の指導制度化、法治化、党の指導こそが党と国家事業の発展にとっての如意棒のようなものだ」

といい、「全面的法治国家とは、党の指導力を弱めることではなく、むしろ強化し改善するもので、

党の法治への指導力と水準を高めて、党の執政地位を確固としたものにする」という。


 さらに「法治が盛んになれば、国が栄え、法治が国を強くする」といい、強国化と法治が密接な関係に

あるとする一方で、「全面的に法治国家を推進するならば、自己にふさわしい法治の道を行くべきだ」

「決して別の国のモデル、やり方をまねしてはならないし、西側の言う“憲政”“三権分立”“司法独立”の

道を行くことはできない」と強調。「西側の“司法の独立”は、もとは王権抗争から始まっており、

西側の政治体制、歴史と伝統、社会文化制度に根づいている。中国共産党には“一切の権力が人民に属する”

という政治制度であり、西側と違うのだから、西側を参考にできないのは当然なのだ」と述べた。


 また「中国は世界に向かっており、大国の責任と国際事務をもって法治をよりよく運用せねばならない。

対外闘争において、法律という武器を持って、法治制度の高みを占領し、破壊者、攪乱者にあえて

向き合い、ノーと言う。グローバルな統治システムがまさに変革調整期の重要な時期を迎えており、

中国は積極的に国際ルールの制定に参加し、グローバル統治の変革プロセスに参与し、推進し、

リーダーシップをとるものとなるのだ」と宣言した。

 

 習近平はまた「“党が大きいか、法が大きいか”というのは偽命題だ」として、こういう言い方は人心を

かき乱し、党と社会主義制度を否定するための言論であると批判し、習近平流法治に対する批判や議論を

一切許さない姿勢を示した。


 さらに「なぜ我が国は長く安定を保つことができ、乱がなかったのか? 根本的な理由は、我ら共産党が

終始指導堅持していたからだ」として、社会主義法治が党の指導を堅持し、党の指導は社会主義法治に

頼らねばならないと主張。新時代の法治国家の全面的推進は必ず党の指導制度化を推進継続する必要があり、

法治化を工夫する必要がある、とした。


 要するに、習近平は「(習を核心とする)共産党が法だ。異論は許さん」と言っているのだ。

 

誰に聞かせるメッセージなのか?

 では、これを今さら誰に聞かせたいのか? ちょっと気になるところである。

(1)米国

 まず米国だ。RFI(フランス国際放送)掲載の論考だが、交渉中の米中貿易戦争の核心である

知財権問題などで、習近平が譲歩するのかしないのかが注目される中、国内向けに「党は法より強い」

とそのマッチョぶりをアピールし、米国に対しては「法治の基本原則が普遍的価値観というのは、中国には

通じないぞ」という強気のメッセージを発したのではないか。


「中国は積極的に国際ルールの制定に参加し、グローバル統治の変革プロセスに参与し、推進し、

リーダーシップをとる」というのは、次の国際社会のルールメーカーの座を米国から中国共産党が奪うのだ、

という外交闘争の布告という風に受けとられる。


 世間が習近平は米国との交渉で妥協するしかないだろう、という観測が流れていることに対して、

習近平はそういった観測を打ち消し、「屈服するものか」と言いたいのではないか。


(2)憲政主義派の党内知識人ら

 さらに党内のアンチ習近平派、とくに憲政主義派の党内知識人らに対する牽制の意味もあろう。


 党内では米国の圧力に乗じて、習近平批判が起きている。そのアンチ習近平派勢力の中心は憲政派、

改革派だ。そのうちの1人は、2月16日に訃報が伝えられた長老の李鋭。元毛沢東の秘書ながら、

彭徳懐失脚に連座し労働改造所送りになり、文革期は反革命罪で投獄され、共産党権力闘争に翻弄された

人物だ。天安門事件では最後まで武力鎮圧に反対し、一貫して「憲政民主が中国の未来を切り開く道」との

主張を曲げなかった。享年101歳。憲政派の大物、李鋭の死期を予想していたのかは知らないが、

同じ日付で刊行された「求是」に習近平の法治国家論が掲載されたことに、なにがしかの意味を探ってしまう。

 

 李鋭はこの世を去ったが、他にも胡耀邦の息子の胡徳平や元首相の朱鎔基も憲政派に属する。

李雲歩、郭道暉、江平ら長老法学者ほか法学界、メディア界、経済界、言論界の主な良心的知識人も

基本的に憲政派だ。彼らは習近平が昨年3月にかなり強引な方法で憲法を改正したことに相当不満を

抱いており、こうした体制内知識人層から徐々に“反乱”ともいえる共産党内部の暗部の告発や、

習近平政権批判が今表に出始めている。


 例えば最近、政法大学教授で、「刑法のプリンス」と呼ばれる刑法学者の羅翔の司法試験受験生向けの

ネット動画講座の一部が中国のSNSで転載されて話題になっていた。

その内容は、中国の弁護士がいかに無力で中国の司法が出鱈目かを、ユーモアを交えて語っている。

弁護士が法廷で、検察の証拠を覆すような証言をする証人を呼ぶと、弁護士が証人に偽証を強要したとして

法廷で逮捕されることもある、という実例を語り、「警察と検察と法廷が麻雀をするのに、メンツが

足りないから弁護士を呼ぶだけ。でも弁護士は絶対“上がって”はならず、彼らに振り込み続けるだけ」

と語り、警察も検察の法定も弁護士も司法の番人ではなく党の番犬状態であることを暴露していた。


 こうした中国知識人の中国司法批判に対する牽制の意味もあったのではないか。


北京で、夫の拘束に抗議するために髪をそる李文足さん。夫は、中国の共産主義体制に批判的だった人権派弁護士の王全璋さん。国家政権転覆罪で起訴された。
(2018年12月17日撮影)


 もう1つ、中国には目下、大規模権力闘争につながりかねない司法案件がある。陝西省(せんせいしょう)を

舞台に繰り広げられた「陝北千億鉱産事件」だ。農民出身の趙発琦が起こした民営投資会社「凱奇莱」と

「西安地質鉱産勘査開発院(西勘院)」が2003年の共同開発契約不履行をめぐって争った民事訴訟である。

一審は凱奇莱側が勝訴、二審で西勘院側が勝訴、2017年12月に最高裁で結審、凱奇莱が逆転勝訴して、

西勘院側には違約金支払いが命じられた。


 事件の背景には当時の陝西省代理省長の趙正永の利権が関与している。当初は凱奇莱が経済犯罪容疑で

陝西省公安当局に取調べられるなど、劣勢だったが、途中から陝西省の役人汚職が発覚し、133日間、

刑事拘留されていた趙発琦は無罪放免、逆転勝訴となった。


 だが事態は拡大し、党中央の権力闘争の様相を帯びていく。2018年12月、この裁判の公判記録が紛失

しているとの告発があり、当時の裁判官だった王林清が「最高人民法院長の周強が関与している」と

動画で証言。裁判自体の公正性に問題があるかのような世論が広がった(この世論拡散の主役は元

CCTVキャスターの崔永元。彼は女優の范冰冰の脱税を告発し、税務当局を動かしたことでも知られている)。


 この後、2019年1月の中央政法工作会議の場で、習近平が「刃をあえて内側に向け、骨を削って毒を癒せ、害群の馬を排除せよ」と組織内部の害悪退治を宣言。そのターゲットが最高人民法院長の周強であるという見立てが香港メディアを中心に報じられていた。周強は共青団派のエースである。習近平にとって政治的ライバルの李克強や胡春華が属する共青団を潰すための権力闘争の一環、という見方だ。

 

 ちなみに、凱奇莱の逆転勝訴は、陝西省の集団汚職が暴かれたことが大きな原因だった。

この逆転勝訴自体が、この汚職に関与している疑いがある当時の陝西省書記(2007~2008年)、

趙楽際を追い込むために周強らが仕掛けたという見方がある。趙楽際は現中央規律検査委員会書記で、

習近平の子分だ。つまり、周強らにとっては習近平派を叩く格好の材料というわけだ。

このように「最高法院 VS.規律検査委委員会」、あるいは「共青団派 VS.習近平派」の権力闘争の文脈で

この事件は語られている。


 なお、この裁判の鍵は、二審途中に最高裁に送られてきた、とある人物の「裁判への干渉」を示す

手紙の存在である。一部中国メディアが手紙の存在を報じたが、誰がどのように干渉したかは不明。

紛失した公判記録はおそらく、その手紙も含まれているのではないか。


 こうした最高人民院の反習近平的動きを抑え込むために、習近平は「党(俺)が司法だ」と

言わんばかりのメッセージを改めて発信した、のかもしれない。


(3)香港

 もう1つ、このメッセージにおののいているのは香港だろう。

 2018年2月に、台湾に来ていた香港の女子学生が殺された。容疑者の香港人青年は彼女の遺体を台湾に

放置したまま香港に帰国し、香港で逮捕された。だが香港と台湾には犯罪人引き渡し条約がないため、

台湾で取調べを行うことができない。


 そこで香港は現在、台湾を中国の一部とする形で、引き渡し条約の修正を行おうとしている。

だが、そうすると中国と香港の犯罪人引き渡し条約が成立してしまい、香港司法の独立が完全に

潰(つい)えてしまうことになる。


 香港は一応、旧英国植民地の遺産として三権分立、司法の独立を守ってきた。だが、習近平は「三権分立、

司法の独立」を完全否定、「法律という武器を持って、対外闘争」も宣言している。この最初の闘争相手は、

香港、ということになる。


 おりしも香港マカオと中国南方を一体化する「グレート・ベイエリア」経済圏構想を発表したが、

経済が一体化すれば当然、経済ルールも含めた司法の一体化も避けられない。中国南部に香港式法治が

広がるというわずかな期待は、習近平のこのメッセージで吹き飛んだ。習近平は香港どころか国際ルールの

制定にも関与していくと宣言している。

※  ※  ※

 米国の圧力と党内の不満、そして激化する権力闘争に、あくまで強気の姿勢で喧嘩を売る習近平。

もし、彼がこのまま突っ走ったとき、中国で、世界で何が起きるのだろう。


 李鋭が生前に習近平をして「小学生レベル」と批判していたが、小学生に一国を支配する権力を

持たせてはいけない。ましてや新たな世界秩序の制定に関与させてもならないだろう。

習近平の暴走は各国が協力して止めねばならない。中国内部の憲政主義者たちとも協力して止める。

そういう意識を日本もちょっと持った方がいいのではないか。