№216 R1.11.15投稿
「 誰も教えてはくれなかったのです  」
 
突然の地震で事態を把握できずに
その場から動けなくなるなんて知りませんでした
 
体中が心臓になったように
心がむき出しになり脈打つなんて
あんなに恐ろしいものだなんて 知りませんでした
 
あんなに恐ろしいことが
日常と重なり合って存在していたなんて
想像すらしていませんでした
 
何から考えてよいのか
何をするべきなのか
咄嗟に思い浮かべることが出来ませんでした
 
災害のその時
家族がどこにどうしているのか
確実に思い浮かべることが出来ませんでした
 
頭の中にあるのは 家族の安否と
これから襲ってくる まだ見ぬ津波への恐ろしさ
何を持って逃げようなんて考えもしませんでした
 
手を泥だらけにして
斜面をよじ登るなんて思いもしませんでした
 
自分の命が消えてしまう
その刹那を感じるなんて 知りませんでした
 
自分が死の淵に立ちながら
我が子の命の無事を叫ぶなんて
考えたこともありませんでした
 
生きたい 生きたいと願いながら
水にまかれて死ぬ姿を見せたくないと
心の底から願う日が来るなんて思いもしませんでした
 
被災者と呼ばれる日が来るなんて
その後もずっと
そう区別されるなど考えもしませんでした
 
遺族と呼ばれる日が来るなんて
思いもしませんでした
 
遺体安置所で人間の心をなくして
自分が人でなしになるとは考えもしませんでした
 
別れも言わずに
二度と逢えなくなるなんて
思ってもいませんでした
 
生き地獄の本当の姿を
あの日まで知ろうともしませんでした
 
まだまだ 知らないことはたくさんあります
まだまだ 思いもしなかったことはたくさんあります
まだまだ 想像もしなかったことはたくさんあります
 
知ってさえいれば
知ってさえいれば
 
もっと 災害の真実に沿った対策ができたはずなのに
かけがえのない人を喪わずにすんだはずなのに
 
私達は 知らないことだらけなのです
 
私達は知らないことだらけだということを
「 自覚しなければ 」と 強く 深く思うのです
 
被災者と呼ばれる私は
遺族と呼ばれる私は
強く 深く そう思うのです
 

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                  語り部佐藤麻紀