外務省が障害者雇用除外の特例措置を求めた事案について | 艶(あで)やかに派手やかに

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厚生労働省の審議会は、外務省には障害者の雇用率に除外措置を取り、採用する障害者の数を減らす方針を固めたそうです。外務省はその性質上、海外勤務のポストが多く、雇用義務の達成が難しい(省庁の障害者雇用水増し問題があって以来、外務省も障害者の採用を始めたものの、2019年6月1日時点で1.03%と中央省庁の中で最低)、と同省が雇用義務を軽減するための特例措置を求めたことからです。NHKが11月29日に報じました。

 

「障害者の経済学」などの著書のある慶応義塾大学の中島隆信教授は「民間企業でもそうだが、この仕事は障害者には無理と決めつけて除外していくのは時代の流れに逆行する」と批判しています。

 

確かに公務員にも、障害者の就業が物理的に難しい業種(警察、自衛隊、海保など)には、除外率といって雇用義務が軽減される措置があります。しかし外務省は除外率を設けるのが妥当でしょうか。

 

この事案は、外務省が雇わなければならない障害者数を算出する母数となる省内全体の職員数(約6500人)から海外勤務する職員(全体の約半数)をマイナスして、雇用義務の数を現在の約160人から約80人に減る結果にしようとしている、ということです。この措置は妥当でしょうか。

 

外務省の大使館内は日本の法律(人事院規則など)が適用されますから、障害者手帳を持った人が大使館内で勤務しても法定雇用率にカウントすることが妥当と考えられます。そこから考えれば、海外駐在中の職員も法定障害者雇用人数の算出分母にカウントするのが妥当と考えられます。

 

一方、民間企業の海外支社は現地の法律が適用され、障害者雇用促進法は適用されません。しかし、時には日本より厳しい現地の障害者法制(例えばフランスは6%、ドイツは5%の法定雇用率)が適用されますから、海外支社でも障害者を雇わなくていいということにはならないのです。変な処遇をしたら、訴訟にならなかったとしても確実にイメージ悪化しかねません。

 

外資系・グローバル企業の場合は、日本国内の従業員数が算出分母になり、米国法人や他の各国法人の従業員数は分母に入りませんし、日本国外で勤務する障害社員も日本の雇用率に入りません。日本法人には法定雇用率が課されますが、米国法人には法定雇用率は課されず現地のADA法(障害を持つアメリカ人法)が課されます。

 

英語や海外勤務のできる障害者が少ないという意見もありますが、海外勤務者の多いJETRO(日本貿易振興機構)や商社にも法定雇用率の除外措置は行われていません。また外資系企業で社内公用語が英語という企業にも除外措置は行われていません(GAFAにもマッキンゼー&カンパニーにもアクセンチュアにもゴールドマン・サックスにも)。こうした企業から除外措置を設けてほしいという声が上がっているという話は聞きません。

 

筆者はいずれこのような問題が表面化すると見ていました。日本の企業では、障害者には英語を使ったグローバルな仕事に就くことや海外勤務といったキャリアがほとんど用意されていません。障害者就労支援も障害者がそのような仕事に就くことや、また障害者雇用を必要としている企業にそのような企業があることを想定しておらず、ビジネス英語を学ぶカリキュラムがほとんどなかったりしています。結果としてそのようなポストに応募できる障害者も限られてしまっています。また現在健常な外務省職員が障害を持っても働き続けられる環境は整っているでしょうか。この事案について問題視すべき本質はそこにあると考えられないでしょうか。

全ての障害者が海外勤務をする必要はないでしょう。しかし、どの業種であっても、その人のできることにフォーカスし、その事業に結びつける努力は必要です。

 

かつては物理的に障害者の就業が難しいと認められた業種には除外率がありましたが(例えば船舶運航業は80%、幼稚園は60%、建設業は20%マイナスされる)、今は廃止の方向です。「この業種は厳しいから」というだけで除外措置が認められることはないのです。

 

そのような職場にも法定雇用率が課されているのは、どういうことを意味しているのでしょうか。現在では「障害は個人よりも社会の側にある」という社会モデルの思想が確立されています。共生社会の観点から、ある程度の規模に成長した企業は、障害のある社員が最低2.2%(省庁は2.5%)の割合で存在し続けることを想定したマネジメントができるように変わっていくように、ということを社会が要請している、と考えられないでしょうか。また数値が守られるのは結果であって、数値を守ること自体が目的化してしまうのも良くありません。

 

「健常者でも厳しい職場でなんで?行政の押し付けだ」ではなく「業務改善され、働きやすくなり、人を育てる仕組みができ、障害者にもチャンスができて、人材確保が楽になる」と捉えられないでしょうか。

 

※このことについては、就労支援会社Kaienも詳しく解説しています。