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【エッセイ/感想】村山由佳「猫がいなけりゃ息もできない」-愛猫もみじとの最後の日々、僕はこんな別れに耐えられるのかな?

 なぜか猫本ブーム。これは、作家の村山由佳さんと愛猫もみじの物語。う〜ん、なんだかやたらと泣けた。こんなに泣くとは思っていなかった。本には写真も収録されているが、もみじという猫は凛々しく美しくかわいい。とはいえ彼女、17歳の三毛猫、5匹いる村山家の猫の最長老だ。まぁ猫だって犬だって人間だって?かわいいものは幾つになってもかわいい。村山さんにとってもみじは、産まれた時に自分で取り上げ、それからズッと一緒。すでに離れがたい存在なのだ。

 

 さすが、と思うのはこういう愛猫エッセイを書いても、村山由佳は細部の描写がリアルで細やか。この細やかさと素直な感情表現がエッセイ全体を支えている。

 

 2017年の6月。もみじに癌が見つかる。口の中の扁平上皮癌。平均余命3ヵ月?これは愛する猫が亡くなるまでの物語でもある。旦那さん1号、2号、今の同居人である「背の君」とのこと、もみじとのこれまでのいろいろを交えながら話は進んでいく。3章の「見送る覚悟」、4章の「いつか、同じ場所へ」では、まさにもみじとの最後の日々が綴られていて、読んでいるこちらも村山さんや周囲の人々同様、胸苦しくなってくる。本当に辛いのだ。

 

 同時に村山さんのもみじへの愛、もみじの村山さんへの思いがしっかりと伝わってきて、たまらない。時々、擬人化されるもみじは関西弁でつぶやく。これがまた何だかピッタリでグッとくる。

 

皆さん、お見舞いたくさん、おおきに。

うちな、いま、ゆっくりゆっくり、船出のしたくしてまんの。

 

  12回目の手術が終わった数日後、18回目の誕生日を迎えられないまま「ぴっちぴちのセブンティーンのまま」、もみじは亡くなる。最期の時のことも、お葬式のことも、彼女を取り巻く人々の様子も、村山さんはしっかりリアルに描写していく。彼女が素直な気持ちをぶつければぶつけるほど、こちらの悲しみも増してくる。そして、こんな言葉、

 

美しくて気高い、ただそこにいるだけで尊い猫だった。あれほどまでに混じりけのないまなざしを、私は他の誰からも向けられたことがない。

 

 おそらく、読む人は自分と飼い猫、あるいは飼っている生き物とのことを思いながら読むだろう。僕もまた愛犬ひなたのことを考えた。今の関係、これからのこと、そして彼らとの別れ。僕はこんな別れに耐えられるのだろうか?村山さんのように、少しでもその心に寄り添い、愛を伝える努力を。最期の日まで、後悔のないよう一緒に生きていきたい。

DATA◇「猫がいなけりゃ息もできない(ホーム社)1400円(税別)

◯勝手に帯コピー〈僕が考えた帯のコピーです〉

 

作家・村山由佳と愛猫もみじの別れの物語。

かーちゃん、そろそろ

泣きやまんとあかんで。

 

◯この本は2021年1月、集英社文庫で文庫化されました

 

◯もみじのことはここでも少し読めます

◯この本もなんだか読んじゃいそうだ

 

2019.4.24  なんだかいろんなことがあって精神的に不安定。妻は風邪で寝込んでる。読書は朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」、昨晩読了。

 

 

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