本日「かつしか落扇指南所第34回おさらい会」が開かれました。

 

コロナ禍の渦中にかかわらずたくさんの方においでいただき心から感謝いたします。

 

さて、入蔵は自作の新作「鰻の幇間のようなもの」を高座にかけました。

 

video撮影がありましたから、それを見て初めてちゃんとできていたかどうかわかるのですが、お約束したように今日の高座用の台本に多少手を入れてわかりやすくしたものを当日用台本として公開します。

 

本当はvideoをみて原稿に起こせば、それが良いのかもしれませんが、一日でも早く皆さんにお届けできればという気持ちで、本日記事にいたしました。

 

入蔵の場合は「噺より枕が面白い」といってくださる方のほうが多いのですが、入蔵は枕は、高座の上でお客さんのお顔を見てその場で即興で話すので、その会場にいた方でないとたぶん面白さが半減すると思います。

 

ですから、後日videoから台本を起こすことがあっても、たぶん枕は省きます。

 

申し訳ありませんが、入蔵の枕に興味のある方は入蔵の高座を見に来ていただくか、入蔵を呼ぶというギャンブル(^O^)をしていただくしかありません。

 

さて、入蔵は「少なくとも、作者がご存命であったり、著作権の継承者がはっきりしている新作落語をその方たちに断りなく高座にかける」というのはあまり好きではありません。

 

入蔵は今度の自作以外新作を高座にかけたことはありません。

 

指南所では師匠からも固く禁じられています。

 

入蔵はプロでないので、以下に掲載する入蔵作の新作を気に入ってくださった方がおやりになるのを禁止する気はありません(まあ、だれもやる気にならないかもしれませんが)。

 

ただ、この台本通り、またはプロットを使って高座にかける場合は、落語会にあってはプログラムに、動画の場合にはプログラム、あるいはタイトル等に「小松亭入蔵作」と入れてください。

 

音声については開始の部分にタイトルと小松亭入蔵作と録音してください。

 

ただし、テキストの複製、頒布については原則禁止にいたします。

 

事情があればまずこのブログのコメント欄にご連絡ください。

 

入蔵も今後この噺をブラッシュアップしていく予定ですので、新しい「版」を掲載するかもしれません。

 

米〇師匠、天国の八代目文楽師匠、ひま奴さん、スズメ姐さん、何所でもさんどうかお許しください。

 

「許せない!」という場合はご連絡いただければ直ちに削除いたします。

 

 

小松亭入蔵作 「鰻の幇間のようなもの」

当日用台本

言葉の流れが特に悪くないところ以外は原則「句点」で改行しています。

自分用の台本なので、ト書きは( )内に記載し、台本の意味をご理解いただくうえで最低限必要と考えたところにだけ入れました。

 

以下台本本文→

 

みっちー:町会長さん、お電話いただいたそうで。

 

会長:いやお願いがあってね。こちらから伺おうと思って電話させてもらったのに、わざわざおいでいただくなんてすまないね。

まあまあおあがりください。

 

みっちー:それはごちそうさまです。

 

会長:なんだい御馳走さまだなんて。

 

みっちー:いや、いま「まんま」おあがりとおっしゃったじゃありませんか。

 

会長:まあまあおあがりだよ。

もう落語かい? 本当に好きだねえ。

 

みっちー:えへへ、一体なんの御用です?

 

会長:そうそう、それがね今年の「よこいし文化祭」のメイン会場のトリの出し物がおたくたち「よこいし落語愛好会」の素人落語会に決まったんだよ。

 

みっちー:ほんとですか? いつものかみさん連中のフラダンスは?

 

会長:それがねこの日によそでフラダンスの大きな大会があるんだそうで、町会の女子部の連中はそっちに出るそうでね。

そこで、一丁目町会長の私の意見が通ったんだよ。

一時間半だからね。一人五分なら18人出られる勘定だ。

 

ミッチー:それは無理ですよ。

お客さんはお年寄りが多いですからね、前立腺関係も考慮したら二十分やって10分のお中入り、二十分やって10分のおなか入り、そしてトリが30分かな。

 

会長:そうすると三人だよ。誰が出るかで、もめやしないかい?

 

ムッキー:大丈夫ですよ。うちの会のベテラン連中で相談しますから。

 

会長:それなら頼むよ。

 

みっちー:この三橋家みっちーにおまかせあれ!

 

有志:こっちこっち。

冷奴さんにうな蔵さん、皆さんも師匠に呼ばれたんですか? 

 

冷奴:そうなのよ。

日曜は暇かって聞いてたから日曜の手伝いの件かしらね? 

 

有志:やっぱり聞かれました? とにかく声かけましょう。

師匠こんばんは、信金亭有志です。

冷奴さんと、うな蔵さんも来ています。

 

師匠:皆さんお揃いですね。まあまあおあがりなさい。

 

一同:「御馳走様」「ゴチソウサマ」「ごちそうさま」

 

師匠:いいねえ、皆、稽古してるねえ。

でもね、有志さん挨拶は一日中いつでも、おはようですよ。

 

有志:すみません。精進します。

ところで師匠何か御用ですか?

 

師匠:そうなんです。大変なことが起きました。今度の日曜の文化祭のことなんですけどね。

落語会、ベテラン連中誰一人として出られなくなりました。

 

有志:どうしたんですか? ベテランさんたち、誰が出るかで、まだもめているとか?

でも、もうあさってなのにそれはないか? 誰が出るんですか? どうしたんですか?

 

師匠:それなんですよ。

ベテラン連中もめにもめて、だれが出るか実力で決めようじゃないかということになったんだそうです。

そこで、この木金に一泊二日で合宿をして、そこで各自披露して投票して決めることなったんだそうです。

 

有志:わざわざ合宿? それで決まらなかったんですか?

 

師匠:決まるわけないよ。全員が自分の名前を書いて投票したんだから。

それで結局、じゃんけんで決めたらしい。

 

有志:すると、泊りがけでじゃんけんしに行ったんですか?

 

師匠:ま、そういうことです。

で、決まった後の手打ちの宴会で・・・、ベテラン勢、キノコに当たって、あさっての会には全員出られないということになりました。

なんでもワライダケにあたって、全員昨日から笑いっぱなし。

 

有志:えっ、ちゃんとした宿に泊まったんじゃないんですか? 

 

師匠:それがジビエ料理が得意な素人が出したペンションで、ジビエは得意でも

キノコは得意じゃなかった。

 

有志:じゃあどうするんですか?

 

師匠:どうするって言ったって、会長さんの顔つぶせないでしょう。

 

うな蔵:で誰が出るんです。

 

師匠:だれがでるって、あなたたちですよ。

 

うな蔵:えっ? ほかの人はどうなんですか? 「どこでも」さんとか?

 

師匠:「どこでも」さんは引っ越しだそうです。

 

うな蔵:スズメ姐さんは? 

 

師匠:スズメさんは便秘で出られないそうです。全員に連絡して、出られるのはとにかくあなた方三人だけ。

私も明日から地方に仕事で行かなければならないから、今夜、今からしか稽古できません。

 

うな蔵:そんなあ。

 

師匠:「そんなあ」じゃありません。

うな蔵さんあなた、稽古場じゃあいつも一番はしゃいでるじゃありませんか。

会長さんに頼まれちゃいましたから、今から早速稽古します。

 

師匠:じゃあまず、おかず家冷奴さんから稽古しましょう。じゃあどうぞ。

 

師匠:ハイハイ、冷奴さん、だいたい覚えているみたいですからそれで。

 

冷奴:でも、忘れちゃうんです。

 

師匠:落ち着けば忘れませんよ。

途中どこまでしゃべったかわからなくなっても、今みたいに、「私どこまでしゃべったかしらっ」て噺を聞いてる人に聞いちゃだめですよ。

いいですか、「ああ、慌ててるな、忘れたっ」と思ったら、ちょっと話すのをやめて、目おつぶって、心の中でゆっくりイチ、ニイ、サンって数えなさい。そうすれば思い出せるから。

 

うな蔵:えっそんなんでいいんですか?

 

師匠:うな蔵さんあんたは黙ってなさいよ。

お客に聞くよりましです。

 

うな蔵:でも、お客に「忘れたのか~」っていじられたらどうするんですか?

 

師匠:だから、うな蔵さんは黙っていなさい。

冷奴さん、心配しないでいいです。もし、お客にいじられたら「これは間です。間」っていうんですよ。

 

うな蔵:それでは最近の米〇師匠のようでは…

 

師匠:うな蔵さん、いいんです。本当に忘れてる95歳の米〇師匠がそれで笑いをとってるんだから。

じゃあ次は有志さん。

 

師匠:はい結構です。有志さんはそれで結構です。

じゃあ、次、山椒亭うな蔵さん。うな蔵さん今回は「幇間」してくださいね。「素人」のほうじゃなくて。

 

うな蔵:そうですか、私、出なくていいんですか? 太鼓たたけばいいんですか? よかった。

 

師匠:そうじゃありませんよ。あなた、今回トリですよ。他のお二人より、二か月先輩なんですから。

あなた鰻の幇間と素人鰻の二つしかネタないでしょう?

素人鰻っていうのは、江戸から明治になった時の殿様が主人公ですよ。

うなぎの幇間は客に騙される幇間が主役です。

柄に会ってるほうをおやんなさい。

うな蔵さんあなたは殿様の柄じゃないです。だまされる幇間おやんなさい。

いつもの稽古場での元気を本番でもだしてくださいよ!

 

そんなこんなで、当日を迎えます。

 

会長:消防団長さん今日はお忙しいところありがとうございます。

 

署長:いやあ、町会長、私もこの落語会は楽しみにしておったのですよ。

女房どものフラダンス少々あきました。

落語には興味があったのですが、生の落語を聞くのは今日がはじめてなもんで。

 

会長:もちろんプロの落語はいいですが、素人も面白いですよ。

さあ、出囃子がなりました楽しみましょう。

 

団長:会長さん、この休憩のこと中入りっていうんですか?

いや、面白かったです。おかず家冷奴さんですか。本名和子さんで、冷奴が得意料理っだって自己紹介してましたけど、冷奴得意じゃない人いますかね。 

枕っていうんですか、言い訳っていうんですか、あれ面白かったです。

偶然出先で知り合いに会ったので、自分のお気に入りのカレー屋さんに案内して昼食を食べようとした。道に迷って、2時間もかけて店を探して、ランチを食べながら話をしていたらその人、実は知らない人だったっていう話。

ご本人は、記憶力がなくなったという話しにしてましたけど、記憶力の問題じゃないような・・・。

ああいう話自分で考えるんですか?

えっ、あれ本当の話なんですか?あの人、ほぼ毎日あんなことが起こるんですか。

そういう話をずっと聞いていたかったですね

落語に入って、中国の孔子の厩が火事になったという話を始めたと思ったとたんに、急に噺をやめて目をつぶったかと思ったら、いきなり「私、今心の中で1,2,3って数えましたっけ?」て前のほうのお客さんに聞いてましたけど、あの人目をつぶって大きな声で「イチ、ニイ、サン」って言ってましたよね。ありゃどういう意味ですかね。

ああ、会長さんもわからない。そうですか。

あっ、会長さん出囃子ですよ。次は信金亭有志さんですね。

 

会長:よっこいしょっと。この頃、トイレ近くって困ります。

 

団長:おかえりなさい。会長さんもですか。私も困っとります。この会は休みが多くていいですね。

信金亭有志さん、うちに来る信用金庫の人でした。

それで、壺算ていう金勘定の噺なんですね。

でも、信用金庫の人が勘定ごまかそうっていう話をするってどうなんですか?

あの人いつもティッシュ2つくれるんですよ。良い人。

 

会長:そうなんですか? 私もうちの担当にティッシュ2つくれって言ってみよう。

さあ、いよいよ最後、トリといいます。

たいていは、その日一番上手な人がします。

今からやる「鰻の幇間」は幇間がうなぎ屋で客に騙される噺です。

鰻の噺としては、もう一つ素人鰻と言って殿様が明治になって、うなぎ屋になり職人がいない状態で鰻を割く羽目になってドタバタするという噺が有名です。

その噺は最後、自分で鰻を割かなくてはいけなくなった殿様が、ようやっと鰻を捕まえる事が出来るんですが、捕まえた鰻がこう(ここはあいまいな手真似にする)にょろにょろと手から逃げそうになって、鰻をつかんだまま外に出ようとするところでお客に「どこに行くんだ?」と聞かれて、「わからない。前に回って鰻に聞いてくれ」というのが落ちなんです。

 

団長:そうなんですか。じゃあ今日は幇間のほうを楽しみましょう。

 

いつもはせいぜい二、三十人、時にはお2,3人のお客さんの前で高座に上がっているうな蔵さんです。

ところが今日は、この落語会が終わると、この会場でお楽しみ抽選会があります。

その抽選会目当てに三百人の観客が入っています。

初めてのトリ、大勢の観客に緊張しまくっているところに「待ってました!」などという、気持ちは入っていないのに、声ばかり、ばかに大きい掛け声をかけられます。

うな蔵さん。すっかり舞い上がってしまいました。

鰻の幇間という噺は、太鼓持ちの一八がうまく客を取りまいてごちそうになろうとして、見覚えはあるが名前が思い出せない客に連れられて、屋根の傾いた、汚いうなぎ屋に連れていかれて、客に騙され、土産代まで出させられるという間抜けな話なのですが、興奮したうな蔵さん、どうにか太鼓持ちの一八と客が無事にうなぎ屋にはついたのですが、いそこからいきなり、素人鰻という別の噺の最後の場面、鰻に触ったこともない元殿様の主人が、不始末をして出て行ってしまった鰻職人の代わりに自分で客前で鰻を捕まえて、かば焼きをこしらえる羽目になるという場面を語り始めます。

 

主人:奥、心配するな。職人などいなくても、ここにこう泳いでいる鰻を、捕まえられればこっちのものだ。こうやって、こうやるとほらあっちに行くだろう。

今のは練習。これから本番だ。

こうやって、こうやるとほらやっぱりこっちに来るだろう。

 

女将:ねえあなたうなぎ屋なんて生き物の命を取るのですから、私があれほどおよしなさいといったのにごらんなさいませ。

 

主人:奥、今更、そんなことを言ってどうする。

 

消防団長、隣の席の会長に聞く

 

団長:すみません会長。これって、先ほどお聞きした素人鰻が混じってませんか?

 

会長:どうもそのようですな。

 

主人:ほら捕まえたこっちのもんだ(躍り上がるようにして鰻を捕まえる。胸前に持ってくるが、鰻が手から首を出す。最初上に、やがて前のほうに頭を出し、にょろにょろと前のほうに逃げる)、ちょっと奥や奥、その前の机をかたずけなさい、履物を出せ履物を!

 

これを聞いた会長さんいてもたってもいられません。席から声を掛けます。

 

会長:おい、うな蔵さん、素人鰻になっちゃってるよ。この噺はいったいどうなっちまうんだい。噺はどこに向かっているんだい!

 

うな蔵:ああ会長さんですか? 素人落語です。前に回って鰻に聞いてください。

 

以上

もし、本当におやりになるときはご一報いただけませんか?

もし時間と都合が合えば伺いたいと思います。

この台本は枕を入れて15分での口演を目指して書いてあります。

これ以上短くするのは難しいかもしれませんが、細かなくすぐりを好きなだけ入れられる噺ですし、登場人物やエピソードの挿入が極めて容易なので、いくらでも長くすることが可能だと思います。

皆さんがどう料理してくださるのか楽しみにしています。