※BGMと共にお楽しみください。
男―アランと会った翌日、歳三は自分を見る周囲の冷たい視線に気づいた。
(何だ?)
歳三がブリュネの元へと向かっている途中、廊下で数人の兵士達が自分の事を待ち伏せしていた。
その中には、アランの姿があった。
『おいアラン、こいつかよ?ブリュネの愛人ってのは?』
『あぁ。』
『随分と綺麗な顔をしているな。こいつ、本当に男か?』
『服を脱がせて確めようぜ。』
兵士の一人がそう言って歳三の軍服の牡丹に手をかけようとすると、彼は歳三に突き飛ばされて壁まで吹っ飛んだ。
『てめぇ、何しやがる!』
『気安く俺に触るんじゃねぇ!』
『やっちまえ!』
アラン達はそう叫ぶと、一方的に歳三に飛び掛かって来た。
『・・これは一体、どういう事だ?』
廊下での騒ぎを聞きつけた上官達は、すぐさま歳三達を執務室へと連れて行った。
『こいつが新入りの癖に生意気なので、ここの掟を教えてやろうと・・』
『貴様ら三人は営倉で一週間謹慎していろ!』
『何だって、そんなのあんまりだ!』
『たまたま通りがかった者達が、君達が彼に一方的に暴力を振るっているのを見たんだ!』
『こんなのは不公平だ、父上に訴えてやる!』
アランはそう叫ぶと、仲間を引き連れて執務室から出て行った。
『君も、もう行って良い。処分は後で知らせる。』
『あぁ、わかったよ。』
『“はい、わかりました”だ!』
『はい、わかりました!』
廊下での一件を聞いたブリュネは、その日の夜自宅の書斎に歳三を呼び出した。
『イジカタさん、今回の事は、アラン達が悪いです。わたしが彼の代わりに謝罪致します。』
『俺は気にしてねぇよ。こういうのは、良くある事だろう?』
『それは違う!確かに差別は存在します。しかし、それに慣れてはいけないのです!人を肌の色で優劣をつけるのは間違っている!』
『・・俺は今まで、理不尽な身分差別を受けて来た。生まれや身分だけで一生が決まっちまう世の中に、俺は抗いたかった。俺は武士になりたかった。ただそれだけで、俺は茨の道を歩いた。』
歳三は一旦言葉を切ると、ブリュネが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
『海を渡ってこの国に来て、俺が本当に戦うべきなのはもっと別のものなのだと気づいたんだ。』
『イジカタさん・・』
数日後、歳三には一週間の自宅謹慎処分が下された。
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