今回はRas Michael & The Sons Of Negus
のアルバム

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「Movements」です。

Ras Michael & The Sons Of Negusは
レゲエの中でも特にディープな、ラスタ
ファリアンの集会音楽「ナイヤビンギ」の
グループとして知られています。
レゲエという音楽が誕生する以前の60年
代からすでにThe Sons Of Negusを率いて
活動し、Bob MarleyやBurning Spearなど
のルーツ・レゲエのアーティストにも多大
な影響を与えたのが、このRas Michael
なんですね。
1974年にDadawah名義のアルバム
「Peace And Love」でアルバム・デビュー
して以来、Lee Perryのプロデュースした
「Love Thy Neighbour」など、数々の
印象的なアルバムを残して来たのがこの
Ras Michael & The Sons Of Negusです。

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Dadawah ‎– Peace And Love: Wadadasow (1974)

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Ras Michael & The Sons Of Negus ‎– Love Thy Neighbour (1979)

Ras Michael - Wikipedia

今回のアルバムは1978年にジャマイカ
のDynamic Soundsからリリースされた彼ら
Ras Michael & The Sons Of Negusの通算
8枚目ぐらいにあたるアルバムです。
(74年のDadawah名義のアルバム
「Peace And Love」と、同じく74年の
The Sons Of Negus名義のアルバム
「Freedom Sounds」も含めて。)

プロデュースとアレンジはRas Michael
本人で、ジャマイカのDynamic Studioで
録音されたアルバムで、ナイヤビンギ
らしい多数の打楽器の演奏に、ギターや
キーボード、ホーンなどが絡んだ、独特の
メディテーション空間に誘うサウンドが
とても印象的なアルバムとなっています。
代表曲のひとつともいえる「Where Is
You Gold Mine」や、「Sip You Cup」、
「Numbered Days」、「Children On The
Mt. Top」など、Ras Michael & The Sons
Of Negusというグループならではと言え
る、打楽器を中心としたディープなナイヤ
ビンギの世界がとても魅力的なアルバム
です。

手に入れたのはDynamic Soundsから
リリースされたLPの中古盤でした。

Side 1が5曲、Side 2が5曲の全10曲。

ミュージシャンについては以下の記述が
あります。

Lead Vocals: Ras Michael (Test A Zion)
1st Repeater: Ras Michael
2nd Repeater: Alvin 'Jack' Hewitt
1st Funde: Thomas 'I Marts' Martin
2nd Funde: I Son
Bass Drum: Sydney Wolfe
Organ: Dennis Ferron
Lead Guitar: Earl 'Chinna' Smith, Michael Maskil
Rhythm Guitar: 'Rica Baca'
Bass & Guitar: Michael Maskil
Percussions: Ras Michael
Clarinet: S. Chung
Backup Singers: Puma Jones, Sons Of Negus

Recorded at: Dynamic Studio
Engineer: Geoffery Chung, Phillip Jerome
Produced by: Ras Michael
Arranged by: Ras Michael
Horns Arrangement: Ras Michael
Songs Written & Composed by: Ras Michael
Photography (Front & Back Cover): Frank Jones Diplomat Studio
Cover Design: Howard Salmon

となっています。

Ras Michael & The Sons Of Negusの
メンバーはリード・ヴォーカルと
ファースト・リピーター、パーカッション
にRas Michael (Test A Zion)、セカンド・
リピーターにAlvin 'Jack' Hewitt、
ファースト・フンデにThomas 'I Marts'
Martin、セカンド・フンデにI Son、
ベース・ドラムにSydney Wolfe、オルガン
にDennis Ferron、リード・ギターにEarl
'Chinna' SmithとMichael Maskil、
リズム・ギターに'Rica Baca'、ベースと
ギターにMichael Maskil、クラリネット
にS. Chung、バック・ヴォーカルに
Puma JonesとSons Of Negusが担当して
います。

バック・ヴォーカルで参加した女性
シンガーのPuma Jones(本名: Sandra
Jones)は、のちに3人組のヴォーカル・
グループBlack Uhuruで活躍した事で知ら
れています。

またリード・ギターとベース、ギターで
参加しているMichael Maskilは、
ベーシストとしてCedric "Im" Brooks
のThe Light Of Sabaやカリフォルニア
のレゲエ・バンドThe Rastafariansなど
で活躍したHaile Maskel(本名:
Michael G. Ashley)ではないかと思わ
れます。
(ネットのDiscogsではその関連性が
ハッキリしませんでした。)
彼はMichael Ras Starrという名前でも
活躍していて、のちにフランスの
Makasoundというレーベルから彼の音源
を集めたアルバム「Fire & Rain」が
リリースされています。

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Mikey Ras Starr ‎– Fire & Rain (2008)

またのちにシンガーとして有名になった
Kiddus I(本名: Frank Dowding)はこの
Ras Michael & The Sons Of Negusで
フンデを叩いていた事で知られています
が、もしかしたらファースト・フンデの
Thomas 'I Marts' Martinか、セカンド・
フンデのI Sonが彼なのかも…。
こちらも調べてみたけれど、よく解りま
せんでした。

レコーディングはDynamic Studioで行わ
れ、エンジニアはGeoffery Chungと
Phillip Jerome、プロデュースと
アレンジ、ホーンのアレンジ、作曲は
Ras Michaelが担当しています。

ジャケット写真はFrank Jones Diplomat
Studio、カヴァー・デザインはHoward
Salmonが担当しています。

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裏ジャケ

さて今回のアルバムですが、レゲエの中
でも特にディープなナイヤビンギらしい
重厚なドラミングを中心とした演奏は独特
なものがあり、なかなか悪くないと思い
ます。

一説には「白人に死を。」という意味だと
も言われるナイヤビンギですが、元々は
ラスタの集会で用いられた多くの打楽器と
人々の詠唱による音楽で、その繰り返しに
より人々を深いメディテーション空間に
誘うような音楽だったんですね。
元々はアフリカから奴隷として連れて来ら
れた彼らにとって、このナイヤビンギは
唯一の癒しであり、自分の真のルーツ
(根源)を確認する音楽でもあったよう
です。

そうした彼らのアイデンティティ(自己
同一性)に根差した音楽ナイヤビンギです
が、そのあまりにディープな音楽ゆえか
このRas Michael & The Sons Of Negusと
Cedric "Im" Brooksが率いるThe Light
Of Saba、Count Ossie & Mystic
Revelation Of Rastafariの3つの
グループが知られているぐらいで、あまり
多くのグループは活動していないんです
ね。

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Count Ossie & Mystic Revelation Of Rastafari ‎– Tales Of Mozambique (1975)

ただこの3つのグループは70年代の
ルーツの時代のビッグ・ネームで、それ
ぞれに重要なアルバムを残しています。
70年代ぐらいのレゲエを聴く人には、
やはり欠かせないグループなんですね。
そのナイヤビンギのグループの中でも
もっとも活躍したのが、このRas Michael
& The Sons Of Negusであったというの
はおそらく異論がないでしょう。
リーダーのRas Michaelを中心に生み出さ
れる多くの打楽器を中心とした音楽は、
Bob MarleyやBurning Spearなど多くの
ルーツ・レゲエのミュージシャンに影響を
与えたと言われています。

今回のアルバムでは後の81年のアルバム
「Disarmament」でも再演されている
「Where Is You Gold Mine」や、他にも
「Sip You Cup」、「Numbered Days」、
「Children On The Mt. Top」など、
ナイヤビンギならではの多くの打楽器の
作り出すどんどん瞑想的な空間に誘われる
ようなサウンドがとても魅力的なアルバム
となっています。

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Ras Michael & The Sons Of Negus ‎– Disarmament (1981)

Side 1の1曲目は「Ethiopian Anthem」
です。
緩やかなパーカッションのリズムとギター
のメロディ、女性コーラスに乗せた
Ras Michaelの語るような優しい
ヴォーカルが魅力的。

Ethiopian Anthem


2曲目は「Sip You Cup」です。
ギターとホーンのドラマチックなイントロ
から、心地良いパーカッションと、ギター
とキーボード、ホーンのメロディ、
Ras Michaelの語るようなヴォーカルが
印象的。

Ras Michael & the Sons of Negus - Sip your cup


3曲目は「The Hour」です。
心地良いビンギ・ドラムにギターとピアノ
のメロディ、歯切れの良いRas Michaelの
ヴォーカルにコーラス・ワーク。

The Hour


4曲目は「Run Aggression」です。
心地良いドラム・サウンドを中心に、
ギターのメロディにコーラス、サルの
鳴き声のような擬音が印象的な曲です。

5曲目は「Numbered Days」です。
重いビンギ・ドラムに甲高いキーボードの
メロディ、「Slave Driver(奴隷監督)」
と繰り返すコーラスにホーンのメロディ。
ディープ感満点の曲です。

Ras Michael & The Sons Of Negus - Numbered Days


Side 2の1曲目は「Amagideon」です。
ユッタリとしたドラミングにギターと
キーボードのメロディ、伸びやかな
Ras MichaelのヴォーカルにPuma Jones
の女性ならではの高音のコーラス・
ワーク…。

2曲目は「Hosana」です。
軽やかなドラミングにキーボードとホーン
のメロディ、女性コーラスに乗せた
Ras Michaelの伸びやかなヴォーカルが
魅力的。

Ras Michael Henry & The Sons Of Negus - Hosanna


3曲目は「Where Is You Gold Mine」
です。
華やかなホーンとギター、フルートの
メロディに、心を波打たせるような
パーカッション、女性コーラス、
「お前の金の心は何処へ行った?」と歌う
Ras Michaelのヴォーカルがズッシリと
心に響く曲です。

Ras Michael & The Sons Of Negus-Where Is Your Gold Mine (Movements 1978) Dynamic Sounds


4曲目は「I Am Ethiopian」です。
心地良いビンギ・ドラムの演奏にギターと
キーボードのメロディ、伸びやかな
Ras Michaelのヴォーカルに女性コーラス。

5曲目は「Children On The Mt. Top」
です。
ユッタリしたギターのメロディに心地良い
ドラミング、伸びやかなRas Michaelの
ヴォーカルにコーラス・ワークがとても
魅力的。

Children On The Mountaintop


ざっと追いかけて来ましたが、やはり
Ras Michael & The Sons Of Negusの作り
出すナイヤビンギの世界は他の音楽に無い
独自性があり、グイグイとその独特の世界
に引きずり込まれて行くような感覚があり
ます。

このナイヤビンギという音楽はそのあまり
にディープな感性からか、80年代の半ば
以降のデジタルのダンスホール・レゲエが
主流の時代になると徐々に下火になる感が
あります。
実際にこのRas Michaelも80年代半ば
以降はThe Sons Of Negusを率いた
アルバムではなく、ソロ名義のアルバムを
出すようになります。
(もしかしたらThe Sons Of Negusは解散
状態だったのか?)

ただ今の時代になるとこのナイヤビンギと
いうディープな音楽こそ、もっともレゲエ
という音楽の原点に近い、彼らのルーツ・
ミュージックであり、魂の音楽であった事
が再認識されます。

機会があればぜひ聴いてみてください。

Ras Michael & The Sons Of Negus - Run Aggressor Run - Live Jamaica 1979



○アーティスト: Ras Michael & The Sons Of Negus
○アルバム: Movements
○レーベル: Dynamic Sounds
○フォーマット: LP
○オリジナル・アルバム制作年: 1978

○Ras Michael & The Sons Of Negus「Movements」曲目
Side 1
1. Ethiopian Anthem
2. Sip You Cup
3. The Hour
4. Run Aggression
5. Numbered Days
Side 2
1. Amagideon
2. Hosana
3. Where Is You Gold Mine
4. I Am Ethiopian
5. Children On The Mt. Top

●今までアップしたRas Michael & The Sons Of Negus関連の記事
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Kibir Am Lak」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Live Ina Babylon」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Love Thy Neighbour」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari Dub」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Rastafari」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Revelation」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus「Disarmament」
〇Ras Michael And The Sons Of Negus「Nyahbinghi」
〇Ras Michael & The Sons Of Negus With Jazzboe Abubaka「Tribute To The Emperor」
〇Sons Of Negus「A Psalm Of Praises To The Most High 1967-1972」
〇18th Parallel「Downtown Sessions」