王様は、その箱を持って、

岐伯のところに行きました。

 

「岐伯、新品の鍼を見つけたぞ。」

 

病でなくても、医者の部屋に入り込む王様に、

大臣はいい顔をせず、お小言を言いますが、

岐伯は自由にさせてくれて、

何をたずねても、いつもこたえてくれます。

 

王様は、箱を開けて見せて言いました。

 

「岐伯、どうして鍼にはこんなにいろんな長さがあるのだ?」

 

岐伯はこたえて言いました。

 

「それは、病に合わせて、刺すべき深さが違うからです。」

 

王様は岐伯に言いました。

 

「そうなのか、ただブスッと刺しているのではないのだな。

もっと、鍼の刺し方のこと、知りたいぞ、聞かせてくれ。」

 

岐伯はうなずいて言いました。

 

「邪気がいる場所は、いつも同じではありません。

皮毛にくっついているものは、水面に浮いているようですが、

深く臓腑にあるものは、まるで水底に沈んでいるようです。(王様と東西南北14

 

鍼はこれらの病を治すために刺しますので、

いつも同じ深さに刺すのではなく、

それぞれの病に合った浅さ、深さに刺すことが大切なのです。

 

もしも、正しい深さで鍼を刺さなければ…」

 

「刺さなければ…」

 

「病は治るどころか、かえって、

鍼が思いもかけない害をなしてしまいます。」

 

王様は、びっくりしました。

思いもかけない害って、どんなことになるのでしょう、

とてもこわいです。