続き…
そこからそれほど登らない所に、小さな川が流れていた…。
「そう言えば…、チャリで走ってた道路の横を…川が流れていたな…。」
ボソッとなっちゃんが言った。確かに道路脇には川が流れていた。その川沿いの広場に自転車を停めたのだ…。
「つまり…この川を辿って下りたら…道路には出られるって事か!」
下田が急に元気な声を出した。
「これがその川かどうかはわからんけどな…。」
となっちゃんが不安な事を言うが
「チャリの広場は無理でも、さすがに下には出られるやろう…。」
と、僕は下田に同意し、なっちゃんもそれに同意した。
そうして僕らは川に沿って山を下り始める。
川沿いの獣道は人工的では無かったが歩きやすかった。
まだ日の高い川沿いの道を歩いていると、まるでハイキングのようで、気落ちしていた下田にも元気が見え始めた。
しばらくすると、足下がぬかるんできた。
…川の水が…こちら側に漏れているのか…
ぬるぬると泥に足を取られながら、転ばないようにと足を進めていくと、その先の泥が乾き始めた地面に足跡があった。
「おい…。」
僕らは人の痕跡を見付けて喜んだのだが…。
「裸足…か…。」
それは人間の裸足の足跡だった。
「たぶん、そこの川に入って…靴が濡れたんやろ…。」
その点々とした足跡は、森の奥の方向へと続いている…。
「つまり…あっちに車か…道か…、とりあえず出口かあるって事か…?」
僕らはその足跡が消えている方を目で追う…。
「とりあえず…行ってみるか…。また迷いそうならここに帰ってくればいい…。」
と、僕らはその足跡を追うことにした…が、幾ばくも行かぬ内に、
「おい…、この足跡…変じゃない…?」
と、なっちゃんが言った。 この日は僕となっちゃんの頭が冴えていたようだ…。 実は僕もうっすらとそれを感じていた…。
そんな風に考えると、何か伝え様のない不安感に襲われる…。
「なるほど…な。確かに…、一人分しか…足跡が無いな…。」
なっちゃんは腕を組ながら地面に目をやっている…。
…初めてそれに気が付いたような素振り…って事は…
「おい。お前は何か…違う事に気が付いたんじゃないか?」
と僕はなっちゃんに尋ねる。
「ああ…。俺はな…。」
この足跡は…片方の足跡しか無い。
歩く場所によって足跡が付いたり、付かなかったりは良くある事だが、なっちゃんにそう言われてから、注意してそれを観察してみると、どうにもその足跡は確かに…片足分しか無いようだ。
「確かに…そんな感じに見えるな…。何やろ…これ…?」
…山奥の片足だけの小さな足跡…。何を意味している…?
「いや、足の小さいやつが、変な歩き方してて、ただ偶然、そんな風に出来た可能性が一番高くない?」
と、すっとんきょうに下田が言った。確かに…そうかも知れない…。
「とりあえずついて行ってみればわかるかもな…。まだまだ明るいしな…。」
と何故か嬉しそうに下田が続けた。
…はは…下田、復活か…。そういや…これは中々面白そうな…俺ら向けの話ではあるな…
「ちょっとだけ…行ってみるか…。ヤバそうならすぐ逃げよう…。へへ…いつものように…な。」
と、僕はなっちゃんに笑いかけると
「はは…、いつものように…か。行くか!」
となっちゃんも元気が出たように、そう言った。
水を得た魚のように、僕らは、抜かるんだ泥に続く右足だけの足跡を追った。
泥が乾き、地面に足跡が目立たなくなったが、木々はまるで道のように分かれ、道のようになっており、僕らはその自然の小路を道なりに進んでいった。
しばらく歩くと、山の中にひっそりとコンクリートの建物が見え始めた。
「おい…なんかあるぞ…。倉庫か…?」
それは窓があり、一階建ての…、倉庫にしては少し広めの…使われなくなって久しい、何かの施設に思えた。
…変電施設跡…?
いつものように、下田が先行し、窓の下に張り付いて中を伺うような素振りをしている…。と、その背中が一瞬、電気が走ったように震え、そして硬直した。
僕らも慎重にその背中に足を進めた。
「おい…どうした…?」
僕らはそっと下田に尋ねる。真っ白な顔をした下田は
「中の…右奥…、見てみろよ…。」
と溜め息をつきながら勧める。その言葉に従って僕らもくすんだ窓から、薄暗い建物内を除き見る…。
乱雑に物が積まれたコンクリート造りの薄暗い部屋の奥には、仕切るような壁があり、その壁には嵌め込まれたかのような簡素な窓があった。
散らかった多種多様な物に埋まるように…、その窓の奥には…微動だにしない…、不気味で真っ白な…人間の横顔があった。
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