塾からの帰り道、ふと昔、徒歩で通っていた時を思い出し、いつもと違う道をバイクで通ってみた。
暗い夜道を懐かしく思いながら原付で道を辿っていると、塾からまだそれほど遠くない場所で、強烈に僕の記憶を呼び覚ます光景に出くわした。
…これって…僕が徒歩で通っていた時から…封鎖されてたよな…
そう……、この道は何年も前、僕が徒歩で通っていた時期も封鎖されていて、その頃から工事中の気配もなく、またこの道が封鎖されていなければ、距離をショートカットできるのに…と、僕は昔から思っていたのだ。
…まだ工事中…・いや、明らかに工事なんかしていない…。ひょっとして私道なのか…?いや、私道にしても、こうまで完全封鎖されたなら、持ち主すらも通れないだろう…。不思議だ…。一体、何のために封鎖しているんだ…?
暗い中、道の端にバイクを停め、僕はそっとフェンスから中を覗いてみる。短い道だ。フェンスはかなり厳重に左右に広がっており、道の両脇には木々灌木が茂っている。
と、僕に緊張が走った。
その暗く茂る草むらの中、黒い木の陰に…小柄な人影が動いた…ような気がしたのだ。
…人!?
僕は驚いて、その影がいた場所を目で追ったが、何も見当たらなかった。深呼吸をしながら、僕は冷静に頭を働かせる…。
…目の端に映ったのは小柄な影に見えた…。いたとしたら…子供だ…。…いや…気のせいだ。今は夜なのだ…。工事で封鎖中のフェンス内に…ましてや子供の人影なんて…。
僕は頭を振って、エンジンをかけたままのバイクの所に戻った。
と、その時、
『ザン!』
と、大きな物音と共に、フェンスが大きく揺れた。反射的にその方向に目が奪われる。
…う!
体の中心からうねる様に発する震え…。
そこには…、小柄な…黒い子どものような…影がフェンスのすぐ向こう側から…、たぶんこちらを見ていた…。
しかもそれらは一つだけではない!その横、後ろにも複数の影が…蠢いていた…。
「…ねぇ…。出して…。出してよ…!」
その声は子供の声とは思えないような野太い声だった。
驚いてバイクごと倒れそうになった僕だったが、急ぎ、なんとか体勢を立て直した頃にはその影群は消えていた…。
力の入らない腰に鞭打って、僕はバイクにまたがり、逃げた。逃げたのだ…。
しばらくして僕は、昼間に再度、そこを訪れた。日の高い午後にも関わらず、その場所は閑散としていて、人っ子一人見えない…。
恐る恐る…フェンス越しにその区切られた一区画を覗き見たが、当然のように何もなかった。
と、ふと、道の片側の草むらの中に、何かが見えた。
…何だ…?
目を凝らして見ると、それは
…地蔵…!?
そこには小さな地蔵…か、道祖神の像があった。
地蔵があるということは、ここで以前何かがあった可能性がある…。また、それがもしも古いものならば、過去にそれが造られた…何かしらの理由があるはずだ…。
雰囲気が重くなった…。真昼間だというのに、辺りが薄暗くなった気がした…。
周りには誰もいない、風も吹いていない、鳥も飛んでいない…。
…道祖神には…嫌な思い出がある…。そして…この雰囲気…
僕は再びそこから逃げ出した。
昔、生徒に
「幽霊が人を殺すなんてありえない。もしもそんなことが現実に起こっているのならば、既に政府が動いているだろうから…」
と言ったことがある。
ひょっとすると、政府は既に動いていたのか?この、何年も前から不自然に一区画だけが封鎖されている道路のように…。正体不明の何かがあると断定された場所などは、工事中などの名目をもって、人が近づけないようにしているのか…?
僕はもうその場所には寄り付かないだろう…。
あの時、僕が見た黒い影…、あれは事故で亡くなった可哀そうな子どもの霊などという、生やさしいものではない。
何よりも…あの時、薄く、バイクのヘッドライトに照らされたその生気のない顔は…、頬はたるみ、垂れ下がって、皺だらけの…老人の顔に見えた…。
あれらのせいで、あの一区画が封鎖されていることは間違いがないだろう…。あれは人型をしていたが、もともと人であったことがあるのだろうか…?
あれらは…きっと、もっと別種の、妖怪とか、悪魔などと…同列の…。
皆様もこのようなずっと工事中のような場所には…どうぞお気をつけて…
了