続き…
「竜介……。お前さ……、こないだ墓参り……って言ってたやん。それって……誰の……?」
と、尋ねてみた。
「ああ……、ひいじいちゃんの……」
…曾祖父の…
続けて僕は
「お前の……ひいじいちゃんって……何をしてた人なん……?」
と尋ねると、彼は少し迷った風にして……、
「あのな……先生。実はさ……、俺も会ったことなくて……、婆ちゃんから聞いたんやけどさ……。ひいじいちゃんってさ……。辺りでは、神さまの声が聞けるって人で有名やったみたい……」
僕はそれを聞いて仰天し、耳まで鳥肌が立った。
…曾祖父が……有名な霊能者……
『つきまとう老婆』にて、六地蔵の寺の住職に言われたことが頭に浮かぶ。「先天的に強い能力を持って生まれた」。
…覚醒遺伝…
ある意味では大いに納得できるこの竜介の能力。それは確実と言っても良いほどに、この霊能者の曾祖父に由来するものだろう……。
…神さまの声が聞ける……か…
それらの事柄を考慮に入れて、最初に立てたこの兄妹の仮定をより具体的に、ある意味ではファンタジックに立て直してみた。
古代、神の声を聞き、使役したとされる陰陽師は、その式神を飛ばして敵対する相手に攻撃を加えたという。式神の正体ははっきりせず、僕は勝手にそれを妖怪のようなものと分類していたが、ひょっとするともっと幽霊に近いものなのかも知れない……、しかも怨霊と呼ばれる部類の……。
恨み深い悪霊を、何の関係もない人間に取り憑かせられるとすれば、それは相手を滅亡に追い込む強力な、いわゆる『呪い』みたいなものではないか?式神とは、怨みを持った悪霊を含む、人に害をなす超常的存在全般を指すもので、陰陽師はそれらを祓うこと然り、祓った後の場所を指定……、つまり誰かを指定してとり憑かせることすら可能だったのではなかろうか……。
…さて……それはいいとして……。こちらはどうする…?
…まぁ……放っておけば……その内、見なくもなるだろう…
そんな楽観的な考えをしていた僕をあざ笑うかのように、ある夜、その夢は大いに不安を煽る奇怪なものへと変貌を見せ始めた……。
その日の夢も、相も変わらず一枚の艶のある静止画が淡々と映像のように映し出されていた。
一人称視点で見るその夢において、どこかに座っているのか、手に持っているのか、僕がどのような状況でそれを眺めているのかわからない。だが夢の中の僕は微動だにせず、また声も出さない……。
例えその写真の……微かな変貌に気が付いても……。
その変貌に衝撃を受け、背筋が凍り付いたのは目覚めた時だ。
…今の夢は…いつものとどこかが違った…?
僕は記憶の中の写真を思い返す……。
…どこだ…?
薄暗い万緑の中、寂しくもたった一人でコートを着た女性が……
…そうだ……。今、見た夢は……女が笑っていた…
いつもは無表情のはずの女が確かに……不気味に笑っていたのだ……。
だが……これだけではない。その程度なら……僕にはまだ余裕があった。それからなんだ!
それから二、三日の間にゆっくりと……、だが着実に……その写真は変貌を見せた。
中央のコートを着た女性……、その左側に並ぶように……、誰かのシルエットのような……輪郭がうっすらと浮かび上がってきたのだ。
毎朝、目が覚めると同時に不安になる……。
昨日、最後に見た夢では、もうかなり濃くなっていた。
その浮かび上がってきた謎の人物は……きっと……僕だ。
その女性に心当たりなどなく、また全くその意味がわからない僕でも……それが不吉だとわかる。
同時にこの先の展開も……望む、望まないに関わらず、自動的に頭に浮かぶ……。
たぶん……夢の中の、この写真の僕は日に日にはっきりとしてくるのだろう……。
これ以上無いくらいに、はっきりとこの写真に『僕が写ってしまった』ならば……、僕はどうなってしまうのだろうか……?
もう寺に行くのを先伸ばしには出来ない。
早急に対処する必要がありそうだが、近日は外しがたい予定がある……。寺へ行くことは難しい。
どうにも不安ではあるが、僕にある妙案が浮かんだ。
既にもう手はうった。これで駄目なら……、今週末にでも寺へ行くことにする。
たぶん大丈夫。
写真に写った僕が……あの薄さなら……、まだ時間は……ある。
続く…
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