続き…
それを聞いたとき、僕は心底身震いした。
「お前……、前にあの公衆電話から、自分の携帯に電話したんやろ?そのとき、あいつは……お前の番号を知ったんじゃないか?だから……しつこくお前に電話してた……とか」
それならば、あの公衆電話を使って、電話を受けた者全員に当てはまりそうなものだが……、それに関しては仮定がたった。
電話というものは、かけられた方はその場にはいないわけだ……。
つまり、あいつがあの電話ボックスにとり憑いているのならば、誰かがそこから電話をしたとしても、その相手の姿、形はわからないはずだ。
だが、僕は…… あの公衆電話を使って、ボックス内にいる僕自身に電話をかけた。
この異常とも言える僕の行動により、あいつは僕の電話番号とともに、どんな相手に……繋がるのかを認識した。
電話のような相手に繋がる何らかの手段を持っていること、そしてその相手を認識すること。
これはそんな条件を満たすと発動する、呪いのようにも思える。
明確な目的も相手もない、中途半端な降霊術では、何が降りてくるのかわかったものではない。
後付けになるが、この仮定は今、現代で囁かれる都市伝説においても適用することができる。
未だに公衆電話を使った都市伝説は多く、また自分に電話する、または自身の隣にいる人間に電話をする都市伝説を耳にしたことはないだろうか?
僕は現代において生徒が持ってきた別件の話で、この仮定を応用したことがあるが、それもまたその内に書こうと思う。
話を戻そう。
つまり、あの恐ろしい霊は、あの手この手を使って僕を誘い出し、 相手を僕と認識した上で、 殺そうとした……凶悪極まりない殺人霊だったということか……。
それ以降、あの夜放っておかれた下田が愚痴を言った以外には、特に何も起こらなかった。
その後の下田の調査により、あの○○公園の殺人霊について、興味深いことがわかった。
以前、あの公園、まさにあの公衆電話において事故があった……。
それは、ある雨の日、男性が公衆電話を使っている最中、雨でスリップした車が激突、運転手は即死、ボックス内の男性は病院に搬送後に死亡という悲惨なものだった。
僕らはその話から、あの霊はそれにまつわるものだと理解し、その後その場に近づかないようにと注意をしたが、あれからすぐに、あの公衆電話は撤去されたらしい。あの突き刺さるような枝のせいかも知れない。
この話……、今の僕なら、あの恐ろしい霊に関して、もう少し深い仮定を立てられる。
興味深いのはここからだ。あの悲惨な事故に関する下田の報告内に、
『電話ボックスに衝突した車の運転手は即死』
『電話ボックス内にいた被害者は病院に搬送後に死亡』
と、あった。
普通に考えて、『恨めしい相手』というのは、自分に危害を加えた相手ではなかろうか?
だがこの場合、『病院に搬送された被害者』が死亡するよりも先に、『直接の加害者』が亡くなっている。
つまり、因縁をもった被害者が死亡した時点で、恨むべき加害者が、既にこの世にいないのだ。
そんな霊は、決して消えることのない自身の恨みから凶悪化し、見境なく人を襲うような、いわゆる最も最悪な悪霊と変貌してしまったのではないだろうか……。
まったく不憫な話だ……。最も救われるべきなのは、あの霊の方なのに……。
今の僕なら、その霊を正しく導けただろうか……?
公園の入口前、今はもうなくなった公衆電話の前で、僕は花と水を供え、手を合わせ、地蔵菩薩の救いを祈った。
了