僕はいまだにガラケーだ。それは、人との付き合いが面倒なこと、動画サイトなど一切観ない、それ以外にも今書いている文章などを書く際に、ボタンがあった方が都合が良いということもある。
そんな僕でも耳にしたことがあるほどに『ツイッター』や『インスタグラム』というものは有名だ。
コロナ緊急事態宣言中の、生徒からの話だ。
あるとき、妙なインスタがあがっていたらしい。
『日曜日に学校に行きませんか?』
この一見何の変哲もない短い投稿は、 自己紹介に三年と書かれていただけで、誰があげたのかはわからない……。
だが、これはコロナ緊急事態宣言下のことだ。 日曜日だけでなく、他の曜日も授業など行われてはいない。
…緊急事態宣言中の休日でも、教師たちは学校に来ているのか……?
それにしても、この『日曜日に学校に行きませんか』という誘いは何か妙だ。
…このインスタをあげた主は学校で何をするつもりなんだ?三年とあることから、受験生?この非常時に通勤している少数の教師を交えて、学校で勉強でもするつもりなのか?いや、非常時ゆえに、教師たちは学校に生徒が長居することを認めるとは思えない。いや、学生ならそこまでは考えが及ばないかも…
僕がそんなことを考えていると
「これな……。けっこう前からあがってるねん……」
そんな生徒の言葉の意味がわからず、その真意を尋ねると、この意味深長とも思えるメッセージは、五月初旬あたりから、 ほぼ毎週末にと言っていいほど、頻繁にあがっているらしい。
…五月から……か
三月二日から学校は休みになった。五月といえばコロナ騒ぎのまっただ中だ……。暇を持て余した学生の投稿という可能性が高いが、毎週末にこのメッセージをあげるということから、この主は五月からずっと週末限定で、学校に行きたがっている、ということになるのか……。
そんなことを考えていると、ふと僕の頭に浮かんだことがある。
…これが生徒の投稿であるならば、なぜ……週末限定なのだ…?
コロナ緊急事態宣言下において、学校は週末でなくとも休みだ。だが、緊急事態下でも、平日は教師が出勤しているとも聞いたことがある……。
…むしろ……クラブもない土日祝日こそ、学校に教師がいないんじゃないか……?
ふと、そんな考えが浮かび上がり、意思とは別に自分の……不吉な想像が加速する。
ひょっとして……こいつは……学生ではないのか……?と、すれば誰もいない学校に生徒を呼んで……何をしようとしているんだ……?
考えすぎとわかっていても、そんな気味の悪い想像が頭に構築された……。
「こんど行ってみようかと思ってんねん」
と、笑う彼に
「やめといた方がいい……。これは……何か変……。気持ち悪いから無視しろ」
と、僕は彼に伝えると
「また先生の得意な怖い話?」
彼は笑ったが、僕は上記のことを説明し
「いや、これは……幽霊とかよりも、むしろ……このインスタをあげた人間が……生徒ではない人間だった方が……怖くないか……?」
と、尋ね返した。無言になった彼に
「とりあえず……行かん方がいい」
と伝え、彼はそれを了承した。
つまり僕は、これを変質者の類の不審者による投稿なら怖い、と結論付けたのだが……、ひょっとすると、これに関係する後日談がある。
彼はコロナ緊急事態宣言中、体が鈍らないように、午前中にランニングを行うことを日課にしていた。
そんな彼の授業のある月曜日、僕のいつもの挨拶
「何か面白いことないの?」
に対しての
「今日の朝さ……」
と始まった彼の話は、一見、何の変哲もない、ほんの少し気になる話……。少なくとも彼はそう思っていたはずだ。だが、状況を照らし合わせてみると、それは奇妙な話に変貌を遂げる。
それはある月曜日の朝のことだった。毎回決まったコースを走る彼の毎朝の日課、それには自分の通う学校の校門前の道も含まれていた。格子状の重い車輪のついた鉄門……。それを通して見える校庭に、出勤している数少ない教師が集まって、朝から何かをしているようだった。
…あれ?先生たち、朝から何をしてるんだろう……?
彼はペースを落とし、目を細め、校門を透かして、教師たちの方を見る。
…何だ、あれ…?ペンキ……か?
校庭の中心、教師たちが集まっている辺りの地面の色が……違う。
そこは赤いペンキ缶をぶちまけたように、真っ赤に染まっていて、それを目前に教師たちが何かを話していた。
…うわっ!気持ちわるっ!
彼はすぐに目を背け、日課に戻った……。
「最初見たときさ……。あれ……血かと思った……」
彼はそう僕に言ったが、あれが血液であるならば、大量過ぎることから血液であるはずがない、とも付け加えた。
そこで僕は思い出したのだ。最近妙なインスタが上がっていたことを……。
その後、何度か最初に僕にインスタの話をしていた生徒に確認を取ったのだが、このランニングの生徒が赤いペンキを見た翌週から例のインスタが上がらなくなったことを知った。
偶然の一致にしては何か気にかかる。