エナジー系飲料市場が活性化し、ラインアップが増えている。
エナジードリンクとしては、
「 レッドブル 」 「 モンスターエナジー 」
の 2大ブランドが高いシェアを占める。
そんな中、今年7月にコカ・コーラシステムが投入した
「 コカ・コーラエナジー 」 は、発売からわずか 5週間で
2000万本を突破した。
コカ・コーラという巨大ブランドの力を背景に、これまで
エナジードリンクを飲んでいなかった新規飲用者獲得が
大きい。
近年、若者を中心に人気が広がる 「 エナジードリンク 」。
子どもが自動販売機やコンビニで買える清涼飲料水だが、
よく飲んでいる子どもたちの心身の異変を懸念する声が
教育現場から上がっている。
今回、日本体育大学・野井真吾研究室と共同で、全国の
小中高など1096人の養護教諭にアンケートを実施。
その結果をもとに広く実例を取材した。
子どもたちの身に何が起きているのか。
( ジャーナリスト・秋山千佳/Yahoo!ニュース 特集編集部 )
「 人が変わった 」 中3男子
「 テンションのアップダウンが激しすぎて ( 飲み続けていたら )
包丁持って暴れたりしていたんじゃないかな 」
静岡県に住む中学3年生のツバサ君(仮名)は、1日1本以上
エナジードリンクを飲んでいた中学1〜2年生の時を振り返る。
当時は周囲から 「 人が変わった 」 と言われていたという。
入学当初は、どちらかというとおとなしい生徒だった。
だが、ある時期から、教室中に響き渡るような高笑いをしたり
場違いなふざけ方をしたりするなど、周囲が戸惑う行動を
繰り返すようになった。
それを注意する教師に激しく食ってかかるようにもなった。
一方で、帰宅すると、ゆううつになり、母親に
「 頭痛い 」 「 死にたい 」と頻繁に訴えていた。
ツバサ君が初めてエナジードリンクを手に取ったのは
小学校卒業からまもない時期。
「 モヤモヤした気持ちを消したくて、寝たくないから飲む。
夜10時ごろに飲んで1時間くらいして効いてくると、
もうじっとしてられない。 スマホでチャットしたり、テンション
の高い曲を聴いたりして、気づいたら朝という感じ 」
ツバサ君の様子を、小学生時代からツバサ君を知る
保健室の養護教諭は
「 彼本来の姿じゃなく、おかしいと感じていた 」 という。
このような心身の異変は、ツバサ君に限らない。
全国の養護教諭から、エナジードリンクを常飲する子どもたち
について懸念の声が上がっている。
アンケート結果で
「 自分の学校に、エナジードリンクを習慣的に飲んでいる
子どもがいる 」
と答えたのは、中学で24.4%、高校では48.4%だった。
自由記述欄では
「 問題がある子どもを把握している 」
という趣旨の回答が80件あった。
こうした回答を寄せた養護教諭の協力を得て、子どもたちへの
取材を行った。
冒頭のツバサ君もその一人だ。
新宿から電車で約30分の私立の進学校。
高校1年生の男子は、中学生の時、先輩が手にしているのを見て
興味本位で飲んでみたら 「 夜遅くまで起きられちゃった 」 ことから、
テスト前夜には連日2本飲むことが習慣となった。
今年5月、中間テストの前夜、いつものように飲んだところ、
突然心臓が痛み始めた。
痛みは1時間ほど続き、
「 1キロくらい猛ダッシュした後みたいに心臓がバクバクして焦った 」。
結局、その夜は勉強できないまま、翌日試験に臨んだという。
「 子どもの手が届きやすい 」 エナジードリンク
そもそもカフェインは、コーヒー( 1杯あたり約65mg )やお茶など
多くの嗜好品に含まれる。
だが、清涼感のある炭酸飲料であるエナジードリンクは
「 子どもの手が届きやすい 」 と複数の養護教諭が指摘する。
代表的なエナジードリンクのカフェイン含有量は、
レッドブルが250ml缶で80mg、
モンスターエナジーは355ml缶で142mgだ。
市場調査会社の富士経済によると、国内のエナジードリンク販売額
は2007年からの10年でおよそ34倍に伸びている。
「 飲んだら受験勉強に集中できるよ 」 と。
野井教授とのアンケートや調査後の養護教諭や生徒への聞き取り
を整理していくと、子どもがエナジードリンクを摂取する目的は、
おおよそ二つに大別される。
一つは勉強やスポーツのため、
もう一つは日常の息苦しさ・生きづらさを紛らわせるため、だ。
まず前者の勉強やスポーツ。中学や高校、特に進学校では、
テスト勉強や受験勉強を機にのめり込む生徒がいるという回答が
複数あった。
筆者が会った都内屈指の進学校である私立高校に通う1年生女子は
「 高校受験の時に、進学塾の大学生の先生から
『 飲んだら集中できる 』 と勧められて飲み始めた 」
と取材に答えた。
神奈川県の県立高校では、バスケットボール部の2年生の女子生徒が、
試合間の休憩時間に 「 気持ち悪いし、心臓が痛い 」 と訴えた。
平常時は1分間に70回台の脈拍数が、運動直後ではないのに110回を
超えていた。
同校の養護教諭が聞き取りをしたところ、直前にエナジードリンク2本
( カフェイン計280mg )を飲んでいたことがわかった。
女子生徒は 「 飲めばパフォーマンスが向上する 」 と信じ、試合前の
「 ルーティン 」 となっていた。
養護教諭はこの女子生徒について
「 彼女は 『 食事代わり 』 というくらいよく飲んでいた 」 と話す。
「 それが関係しているのか、内科健診で心臓に異常がなかったのに、
突然頻脈が発生し、心臓が痛いという訴えが1年間で4回もありました 」
家庭などに複雑な事情を抱える子どもがエナジードリンクを
常飲するケースもある。
過剰摂取後に救急搬送の短大生
静岡県内の中学校の養護教諭は、経済的に厳しい家庭環境の
子どもほどエナジードリンクへの依存性が高い可能性があると指摘した。
2017年3月に卒業した男子2人は 「 多い日は5本 」 と日常的に飲んでいた。
2人とも母子家庭で、ワイシャツが破けても買い換えずに着続けるなど、
経済的に苦しいところがあったが、どちらも親から食費として渡される
お金までエナジードリンクに費やしていた。
また、夜中まで起き続けることで2人とも睡眠時間が短く、そのせいか
学校でささいなことにもイライラするような態度が続いていた。
荒れた生活を心配していた養護教諭は2人と保健室で話をするようにした。
「 受験勉強が手につかず、自己肯定感も著しく低下していた 」 という。
「 原因不明 」 と診断されているものの、エナジードリンクの過剰摂取後、
救急搬送された事例もある。
カナダ保健省は注意喚起
カナダ保健省は2010年、13歳以上の青少年や成人について
1日に体重1kgあたり2.5mg以上のカフェインを摂取しないように、
注意喚起を行った(12歳以下はさらに少量)。
日本では独自の基準値を設けず、農林水産省や内閣府の食品安全
委員会が、カナダのこの数値を引用して「過剰摂取には注意が必要」
と示している。
この基準値に照らすと、「モンスターエナジー」 の場合、
355mlの缶1本分にカフェイン約142mgが含有されているため、
体重56kg未満の子どもは1日で飲みきると基準を超える計算になる
( カフェイン2.5mg×体重56kg=140mg )。
リトアニアは2014年、未成年(18歳未満)へのエナジードリンクの
販売を禁止、未成年に販売した者は400リタス(約16300円)の
罰金が科せられることになった。
エジプトでは2014年、エナジードリンクの広告が全面的に禁止
されるとともに、教育・スポーツ関連施設でのエナジードリンク
販売が禁止された。
米国でも、2013年米国医師会が20歳未満へのエナジードリンク
販売禁止を呼びかけるといった動きが広がっている。
「 日本でもたとえばコンビニでアルコールの販売エリアを分けて
いるようにエナジードリンクも別枠にするとか、15歳以下や、
せめて小学生への販売はダメとか、どんなことができるか広く
議論したらいい 」 と述べる。
一方で、それ以前に考えなければいけない大事なことがある、
とも言う。
「 エナジードリンクにはまる子どもたちは、カフェインという、
ターボチャージャーをつけて、やっと普通の子になれると
思っている可能性がある。 そんな彼らからすれば、大人に
無理やり取り上げられたら 『 もう人並みに生きていけない 』
という絶望感が生まれる。 そういう子たちを救うためには、
『 ありのままでいいんだ 』 というメッセージをいかにいろんな
形で伝えられるかと考えることも必要です 」
秋山千佳(あきやま・ちか)