電撃ブックハンター

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今度こそ断ち切る

2020-03-08 22:37:29 | 日記
世の中はコロナウイルスで大騒ぎになっています。
どこもかしこも中止・自粛でイベントで集まることも電車に乗ることも憚られる今日このごろ。


ここに来て一気に感染が拡大したかに見えますが、実際のところ潜在的にはずっと以前から広がっていたと思われます。
国や東京都はオリンピックをやりたいがために検査をサボって感染者数を表面的に抑え、根本的な対策も取らず、市民は普通に満員電車で通勤して休日にはバーッと遊びに行っていた訳ですから、これで世界のまともな対策を取っている国々よりも感染が広がってないのは逆におかしい。
多分、他の国が収束に向かう頃に日本では破滅的な事態が起こるのではないでしょうか。


太平洋戦争では一面焼け野原になってから、ようやく国民は日本が無茶な戦いをしていた事に気付かされました。
2011年の東日本大震災では福島の原発が吹っ飛び、一帯が汚染されてやっと原発の問題に目を向けるようになりました。
実はこれらの国難を、時の政府や役人、有識者はかなり正確に予測していました。

太平洋戦争について。
おおよそ国力比較でアメリカは日本の10倍はあると算出され、もっとも戦略的な物資・石油はアメリカから8割近く輸入していましたから、そんな国と戦うのは無茶だ、という話を内々で議論していました。
特にもっとも石油を使う海軍は備蓄量も戦争で使う消費量も把握していて、1940年の9月の段階で近衛首相からアメリカと戦ったらどうなるか聞かれた連合艦隊の山本五十六長官は、こう答えたそうです。
「半年や1年は暴れてみせますが、それ以降は皆目どうなるか分かりません」
実際、戦争の2年目、3年目には燃料が足りなくて、ろくに訓練もできなくなったので、海軍の想定は正しかったと言えるでしょう。


あらゆる計算が提出され、「長期的に見てアメリカと戦争するのは無理」という事が分かっていたのに、結局太平洋戦争は始まってしまいました。
陸軍は中国大陸での戦いを泥沼化させた手前、今更やめる訳に行かず、
海軍は膨大な予算をぶん取ってきた手前、今更「戦えません」とは言えず、
東条内閣は今まで散々国民に戦争を煽ってきた手前、今更「しません」と言えず、
権力者たちですら「空気」に抗えず、勝ち目が無い戦いに突入してしまったのです。


さらに言えば、陸軍は陸軍という組織のため、海軍は海軍のために、政府やその他の役所はクーデターが怖くて軍の言いなりで戦っていました。
日本という国とその国民を守るために働くという意識を関係者はほとんど持っていなかったのです。
戦争が終わった後も軍人のほとんどは戦争に負けた事や仲間が死んだ事には心を痛めていましたが、日本を滅ぼしかけた事や国民の命を危険にさらした事には無関心でした。
ただ一人、昭和天皇だけはなんとか戦争を止めさせようと最初から最後まで奮闘されていましたが・・・。


この辺りについて書かれた本はたくさんあって紹介しきれませんが、全体像を分かりやすく知るならこれがいいと思います。
●「戦略・戦術でわかる 太平洋戦争」 太平洋戦争研究会・編 日本文芸社




そして東条首相を影で支えた陸軍省・軍務局での開戦前の動きをドキュメント的に書いた傑作としておすすめなのがこちら。
●「陸軍省 軍務局と日米開戦」 保坂正康・著 中公文庫






福島第一原発は日本で初期に作られた原子力発電所で、老朽化もさることながら「津波に弱い」事は東日本大震災が起こる10数年前から指摘されていました。
これに影響され、他の何箇所かの原発では津波対策で防潮堤を高くしたり、電源を確保したりと「こっそり」対策をしました。
(対策していると公表すると原発は津波に弱いのか!?と騒がれるから「こっそり」と、です)

しかし当の福島第一を経営する東京電力はあらゆる指摘を無視しただけでなく、土木学会などに手を回して基準そのものを甘くするように働きかけていたらしい。
それも津波が来たらどうなるのか、かなり詳細に掴んでいて、全電源喪失する危険性がある事も分かっていながら、です。
その結果どうなったかは皆さんもご存知のとおりです。
本当に指摘された所をそのままトレースするように事故が起こり、今現在もメルトダウンした放射性物質を世界中の誰もどうすることも出来ていません。


なぜ津波がヤバいと分かっていながら東京電力は対策を取らなかったのか?
なぜそれを当時の原子力安全・保安院はチェックしなかったのか?
ズバリ「金」です。
稼働率が1%下がると100億円の損失が出る発電事業において、少しでも稼働に不利な情報は無視するのが一番の良策だったのです。
そして電力会社に天下りさせて頂いている保安院の方々も、東京電力様のご機嫌を損ねる訳にはいかなかったのです。


ここでも東電・保安院を始めとする電力事業者たちは、あくまで仲間を守るために働いていました。
そして放射性物質を撒き散らしてたくさんの人の住処を奪った後も、なお原子力をゴリ押ししようとしています。
日本という国やそこに住む人達は「仲間」ではないからどうでもいいのです。



福島第一原発の事故についてもかなりたくさんの文献がありますが、津波対策のサボタージュに対して特に参考になった本はこれです。
●「原発と大津波 警告を葬った人々」 添田孝史・著 岩波新書




70数年前と9年前の例からお分かり頂けるでしょうが、日本という国は昔から何も変わっていません。
今回のコロナウイルス騒動でも同じことを繰り返しています。


政府と関係機関は検査を抑えて感染者数を低く見積もり、表面的に「大したことがない」と見せていますが、いずれどうなるか正確に予測しているのではないかと思います。
たぶん、その通りになるでしょう。
太平洋戦争・原発事故のような未曾有の事態の再来です。
ヤバいと思いつつ、気づかないフリをして生活していた我々は、ある日を堺に地獄を見る事になるのです。
そうなった時でも、誰も責任を取るつもりがないのもこれまで通りでしょう。


しかし、今度はそういう訳にはいきません。
なんせ相手は肉眼では見えないし、話も通じない、忖度も遠慮もしないからです。
市民だろうが、官僚だろうが、総理大臣だろうが無差別かつ無慈悲に襲いかかってきます。
自分たちの不作為・無責任をウイルスに裁かれる事になるのではないでしょうか。


全てが終わった時、どうなっているのか私には想像もつきません。
しかし無事生き残った日本人は、戦争の時も原発の時もやらなかった事をやる責任があります。
皆が目を背け続けてきた様々な事柄について、真摯に真っ向から立ち向かう、という責任です。


「宿痾を断ち切る」
もう遅いのかもしれませんが、これが日本人にとって最後のチャンスでしょう。


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