2018年ピティナ・ピアノコンペティション特級 セミファイナル および結果発表 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

東京で開催中の、2018年ピティナ・ピアノコンペティション。

本日(8月18日)は、特級のセミファイナルが行われた。

私は、ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、2018年ピティナ特級についてのこれまでの記事はこちら。

 

(1次予選 結果)

(2次予選 結果)

(3次予選 結果)

 

 

1. 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

 

ハイドン:ソナタ 変ロ長調 Hob.XVI:41(全楽章)

徳山美奈子:ムジカ・ナラ Op.25

メンデルスゾーン=ラフマニノフ:劇音楽「真夏の夜の夢」 より 「スケルツォ」

リスト:巡礼の年第2年「イタリア」 S.161 より 「ペトラルカのソネット第123番」

シューマン:ピアノソナタ第3番 ヘ短調 Op.14(全楽章)

 

いつもながら、うまい。

余裕のある打鍵、目の覚めるような技巧。

ハイドン、徳山、メンデルスゾーン、いずれも文句ない決定的な演奏だと思う。

リストとシューマンは、ロマン溢れる解釈とは少し違って、古典的明朗さをもった清冽なアプローチ。

かといって、そっけない演奏というわけではなく、素朴ながらみずみずしい情感が込められている。

シューマンでは少し瑕もあったけれど、一番の優勝候補であることに間違いはなさそう。

 

 

2. 沢田蒼梧 さわだ・そうご (19歳)

 

ベートーヴェン:ピアノソナタ第28番 イ長調 Op.101

武満徹:雨の樹 素描II ~オリヴィエ・メシアンの追憶に~

リスト:ピアノソナタ ロ短調 S.178

 

技巧的になかなかのもの。

音が硬くならず、柔らかで美しい。

ただ、全体的に強弱の差が小さめで、中庸の音量であることが多く、もう少しメリハリが欲しくはある。

また、美しい「歌」になっているところと、そうでなく無為に弾いているように聴こえるところとがあって、ややムラがある印象。

なお、リストのソナタで、暗譜の問題か、あるいは緊張のためか、瑕がやや多かったのは惜しい。

 

 

3. 鈴木美穂 すずき・みほ (23歳)

 

D.スカルラッティ:ソナタ ロ短調 K.27/L.449、ト長調 K.455/L.209

ハイドン:ソナタ ハ長調 Hob.XVI:48 (全楽章)

山田耕筰:青い焔

リスト:ピアノソナタ ロ短調 S.178

 

表現力があり、抒情的。

曲の隅々までおろそかにせず、しっかりと解釈し表現している感じがする。

音はやや硬めで小ぶりだが、美しい。

技巧的には、欲を言うとスカルラッティでは同音連打のキレがもう少し欲しいし、リストもこの曲にしてはおとなしめの印象ではある。

ただ、そういった点を持ち前の表現力と完成度の高さによって、かなりのところまでカバーできている。

また、ハイドンでは、技巧的にもかなり良い。

 

 

4. 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

 

ハイドン:ソナタ ロ短調 Hob.XVI:32(全楽章)

ショパン:マズルカ風ロンド Op.5、スケルツォ第1番 ロ短調 Op.20

ラヴェル:水の戯れ

徳山美奈子:ムジカ・ナラ Op.25

リスト:「伝説」より第2曲 波の上を渡るパオラの聖フランチェスコ

 

技巧的になかなかのもの。

特に、ショパンのスケルツォ第1番やラヴェルの「水の戯れ」あたりが、鮮やかで素晴らしい。

ただ、表現力という点では、曲によってはときにやや難があるか。

ハイドンでは、何でもないような音階パッセージやトリルが、「歌」にならずそっけなくなっていることがけっこうあった。

リストも、力強くて良いのだが、派手な曲でない分やや単調になってしまっているきらいがあり、できればもう少し味わい付けがほしいところ。

 

 

5. 秋山紗穂 あきやま・さほ (20歳)

 

徳山美奈子:ムジカ・ナラ Op.25

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109 (全楽章)

ショパン:ピアノソナタ第3番 ロ短調 Op.58 (全楽章)

 

技術面での安定感がある。

ただ、ショパンのソナタ第3番の第2、4楽章では、安定しているものの、もう少しアグレッシブに攻めてほしかった。

また、情感もあるのだけれど、全体的にやや淡白な感じがする。

後期ベートーヴェン特有のファンタジーや、ショパン特有のロマンがもう少し感じられると良かった。

とはいえ、表現はよく統一されており、特にムラがあるという印象ではなかった。

 

 

6. 上田実季 うえだ・みき (21歳)

 

細川俊夫:エチュードⅠ -2つの線-

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109(全楽章)

シューマン:謝肉祭 ~4つの音符による面白い情景~ Op.9

 

音が柔らかく美しい。

ベートーヴェンのソナタ第30番は、その幻想性がなかなかよく表現されている。

シューマンの「謝肉祭」も、やや安全運転気味ながら、表現力は優れている。

「ピエロ」でのオクターヴをレガートでつながずノン・レガートにする、といったような工夫がそこここにあって、かつそれらがムラなくきれいにまとめられている。

ロマン的な情感にも欠けない(「オイゼビウス」や「ショパン」など)。

欲を言えば、全体的に溌剌とした推進力がもう少しあるとなお良いけれど。

 

 

7. 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

武満徹:雨の樹 素描II ~オリヴィエ・メシアンの追憶に~

ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109(全楽章)

ラフマニノフ:ショパンの主題による変奏曲 ハ短調 Op.22

 

抒情的な表現が美しい。

ただ、ベートーヴェンもラフマニノフも、ややのどかな感じがする。

もう少し、鬼気迫るとまでは言わないまでも、情熱的な高まりだとか、キレのある表現だとか、雄弁な歌い口だとか、何かもう一要素あったならば、より引き締まったような気もする。

2次予選での鈴木美穂による同曲演奏(ラフマニノフ)では、そのような引き締まった表現が聴かれていたので、比べてしまうと少し分が悪いか。

 

 

そんなわけで、私がファイナルに進んでほしいと思う人のうち、ファイナルに進める人数である4人を選ぶとすると

 

1. 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

3. 鈴木美穂 すずき・みほ (23歳)

4. 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

6. 上田実季 うえだ・みき (21歳)

 

あたりになる。

古海行子が突き抜けている他は、皆それぞれ異なる持ち味があって、優劣をつけることはなかなかできない。

今回のセミファイナルで、特に相性が良いと感じる曲のあった人を優先的に選んでみた。

 

 

さて、結果はどうなるか。

発表は、もうすぐとのことである。

 

 

 

 

 

―追記(2018/08/18)―

 

さて、セミファイナルの結果は下記のようになった。

 

【ファイナル進出者】

1. 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳) ○

4. 角野隼斗 すみの・はやと (22歳) ○

6. 上田実季 うえだ・みき (21歳) ○

7. 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

なお、○をつけたのは私がファイナルに残ってほしかった4人の中の人である。

4人中3人。

概ね納得のいく結果である。

鈴木美穂が落ちてしまったのは残念だけれど、武岡早紀もまったりした味わいがあったのは良かったし、仕方ない。

このあたりは、おそらく僅差ではないだろうか。

 

 

なお、ファイナルの詳細は下記の通り。

 

◆ファイナル

日程 2018年8月21日(火) 18時

会場 サントリーホール

指定のピアノ協奏曲より任意の1曲をオーケストラ伴奏により審査

チケットのご予約はこちら

 

セミファイナル同様、ネット配信もある。

楽しみである。

 

 


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