バッハ・コレギウム・ジャパン 第132回定期 鈴木雅明 バッハ マタイ受難曲 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

バッハ・コレギウム・ジャパン

第132回定期演奏会(2)

受難節コンサート2019 マタイ受難曲(2)

 

【日時】

2019年4月21日(日) 開演 16:00

 

【会場】

東京オペラシティ コンサートホール タケミツ メモリアル

 

【演奏】

指揮:鈴木雅明

ソプラノⅠ:キャロリン・サンプソン

ソプラノⅡ:松井亜希

アルトⅠ:ダミアン・ギヨン

アルトⅡ:クリント・ファン・デア・リンデ

テノールⅠ/エヴァンゲリスト:櫻田亮

テノールⅡ:ザッカリー・ワイルダー

バスⅠ/イエス:クリスティアン・イムラー

バスⅡ:加耒徹

合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

 

【プログラム】

J.S.バッハ:《マタイ受難曲》 BWV 244

 

 

 

 

 

バッハ・コレギウム・ジャパンの定期演奏会を聴きに行った。

曲目は、J.S.バッハのマタイ受難曲。

クラシック音楽最大の傑作はと問われたら、ベートーヴェンの交響曲第9番やヴァーグナーの「ニーベルングの指輪」などと並んで、あるいはそれ以上に、このバッハのマタイ受難曲が挙げられることが多いだろう。

今回の演奏会でも、この作品の偉大さを改めて実感させられた。

 

 

この曲で私の好きな録音は、

 

●レオンハルト指揮ラ・プティット・バンド 1989年3月セッション盤(Apple MusicCD

●鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン 1999年3月セッション盤(NMLApple MusicCD

●クイケン指揮ラ・プティット・バンド 2009年4月5-9日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

そして、もしもこれら3盤の中でも最高のものはと問われたなら、質実剛健なレオンハルト盤、洗練の極みというべきクイケン盤を惜しみながらも、私はきっと鈴木雅明盤を選ぶだろう。

 

 

鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のバッハには、他の最近の古楽器団体に負けない洗練があるとともに、それに加えて、自然な重み、自然なドラマがある。

定評のあるガーディナーやヘレヴェッヘのバッハももちろん良いのだが、ことマタイ受難曲となると、ガーディナー旧盤やヘレヴェッヘ新旧両盤はサクサクしていて、ここぞというところでの重みやドラマ性が足りない。

また、ガーディナー新盤はというと、ドラマティックに仕上げているのだが、少しやりすぎでわざとらしい。

これらに対し、鈴木雅明盤は、聴いていて自然に感動できる。

モーツァルトでは流麗で優美なガーディナーやヘレヴェッヘの演奏のほうが良いと思うことが多いのだが、バッハらしいそこはかとない量感、質感の表現においては、私の中では鈴木雅明のほうに軍配が上がる。

バッハでのこの自然な音楽の運びは、レオンハルトにも比肩する。

また、さらに言うと、伝説的なカール・リヒターの旧盤、あれは今聴くと何とも重々しく大時代的で、「イエスはまことに神の子であった」の合唱などまるでヴァーグナーの「パルジファル」か何かのようだけれど、それでもあの演奏には真摯で直截な感動が底流していて、鈴木雅明盤も(一見全く違うけれど)このリヒター盤にどこか通じるところがあるように思われる。

 

 

そして、今回の実演も、期待通りだった。

何といっても、鈴木雅明の指揮が素晴らしい。

また、オーケストラや合唱もハイレベル(特に合唱のソプラノが良かった)。

「バラバを!」の激しくも美しい悲痛な叫び、その後の「十字架にかけろ!」の緊張感あふれるフガート。

イエスの死後、天変地異の場面での、身震いせんばかりの迫力(ここで演奏するのは、エヴァンゲリストの歌と少数の楽器による通奏低音のたった数人のみなのである!)。

18世紀としては最高度に劇的だったと思われるこれらの音楽表現が、それから300年近くも経った私たちの耳にも新鮮さ、強烈さを失うことなく届くのは、他でもない鈴木雅明の表現力のためだろう。

また、こうした劇的な箇所のみならず、静かな場面においても、ふとした間の取り方やテンポの設定の仕方が、工夫されているにもかかわらず大変に自然だった。

こういった表現は、どうしたら実現できるのだろうか。

「才能」の一言でしか説明がつかないのだろうか。

 

 

なお、歌手たちもみなレベルが高く、穴がなかった。

ただ、上記録音(鈴木雅明盤)における歌手たちがみな素晴らしいので、それと比べてしまうと全体的にやや見劣りした。

そんな中で、ソプラノのキャロリン・サンプソンは、伸びの良い高音が実に美しく、上記録音におけるナンシー・アージェンタを超える出来だったと言っていいかもしれない。

もう少し音程やアーティキュレーションなどが洗練されれば、クイケン盤におけるゲルリンデ・ゼーマンにも匹敵しうると感じた。

エヴァンゲリスト役の櫻田亮は、上記録音(鈴木雅明盤)における同役のゲルト・テュルクが素晴らしすぎて(特にペテロの否認と悔悟の場面は絶品)、割を食ってしまっている。

とはいえ、派手すぎず誠実な印象を受ける彼の声は、エヴァンゲリスト役に合っているといえるだろう。

 

 

それにしても、バッハのマタイ受難曲。

フガートにレチタティーヴォにアリアにコラール、バッハの手掛けたあらゆる作曲技法が聴かれる、彼の総決算のような曲である。

上にも書いた天変地異の場面など、この大変に劇的な和声進行は、普段バッハの曲からはなかなか聴かれないけれど、思い出してみると彼の「幻想曲とフーガ」BWV542で同様の激烈な和声進行が聴かれたのだった。

静的な音楽に動的な音楽、あらゆる音楽に精通したバッハの面目躍如たる曲、そうとしか言いようのない曲である。

 

 

蛇足だが、上に書いた私の好きな3種のマタイ受難曲の録音は、1989年、1999年、2009年と、偶然にも10年ごとの間隔となっている。

そして、本年2019年、鈴木雅明&BCJによる再録が予定されているとのこと。

これは、名盤が期待できるかもしれない。

 

 

 

 


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