(藤田真央の新譜 ショパン 即興曲&スケルツォ全集) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

好きなピアニスト、藤田真央のCDとしては、映画「蜜蜂と遠雷」に関連したアルバムが先月出たばかりである(その記事はこちら)。

今回、それに続いて、ショパンの即興曲およびスケルツォ全集のアルバムが発売された(Apple MusicCD)。

映画の公開時期等の事情で2種のCDの発売時期がたまたま重なったのではあろうが、こうして続々と彼のレコーディングが企画されるのは、ファンとしては嬉しい限りである。

CDの詳細は以下の通り。

 

 

 

 

 

スケルツォ集、即興曲集 藤田真央(日本語解説付)

 

 


藤田真央による『幻想即興曲』を含むオール・ショパン・プログラム!

日本大幅先行発売
日本盤限定本人メッセージ入り
日本盤解説:萩谷由喜子


2019年6月に行われたチャイコフスキー国際コンクール。第一次予選に登場した藤田真央がバッハを弾き始めた途端に空気がぱっと変わり、モーツァルト、チャイコフスキー、ショパンと弾き進むにつれ、会場はもちろん世界中でライヴ中継を観ている聴衆をもその音楽に引き込んだのは記憶に新しいところ。世界的にはまだ無名と言える彼の第2位に、日本はもちろん当地ロシアも沸いたと言います。そのガラ・コンサートではチャイコフスキーの協奏曲第1番フィナーレにリハーサル無しで臨むなど、巨匠ゲルギエフの信頼も絶大なもの。
 そんな藤田真央がコンクールの4ヵ月前に録音したオール・ショパン・アルバムが登場。傑出したテクニックはもちろん、粒だった音色の美しさと生き生きとした音楽性が彼の大きな魅力。ここでも即興曲の滑らかな美しさからスケルツォが持つ切れ味の鋭さまで、ショパンの持つ様々な顔を豊かに伝えます。

【~ショパンの詩的な感性や音楽の美しさを奏でることに奔走した20歳の冬~】
人々の心を惹きつけてやまない特別な音楽家「ショパン」にどれだけ寄り添うことができただろうか。素直に、誠実に向き合ったオール・ショパン・プログラム。どうか多くの方々の心に届きますように。~藤田真央~(販売元情報)

【収録情報】
ショパン:
1. 即興曲 第1番変イ長調 Op.29
2. 即興曲 第2番嬰ヘ長調 Op.36
3. 即興曲 第3番変ト長調 Op.51
4. 即興曲 第4番嬰ハ短調 Op.66(幻想即興曲)
5. 演奏会用アレグロ イ長調 Op.46(協奏曲のアレグロ)
6. スケルツォ第1番ロ短調 Op.20
7. スケルツォ第2番変ロ短調 Op.31
8. スケルツォ第3番嬰ハ短調 Op.39
9. スケルツォ第4番ホ長調 Op.54


 藤田真央(ピアノ)

 録音時期:2019年2月11-13日
 録音場所:イギリス、uワイアストン・リーズ・コンサート・ホール
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

 *NAXOSグローバル盤でのリリースは2020年春を予定(輸入元情報)

 

 

 

 

 

以上、HMVのサイトより引用した(引用元のページはこちら)。

 

 

ショパンの即興曲第1番で私の好きな録音は、

 

●チョ・ソンジン(Pf) 2014年10月24日東京ライヴ(音源

 

あたりである。

当盤の藤田真央の演奏も、これに匹敵する出来となっている。

大人っぽい洒落た雰囲気を醸し出すチョ・ソンジンに対し、天衣無縫の音楽を繰り広げる藤田真央。

現代最高のショパン弾きの2人による、最高度に洗練された、甲乙つけがたい名演である。

 

 

ショパンの即興曲第2番で私の好きな録音は、

 

●トリフォノフ(Pf) 2010年12月セッション盤(NMLApple MusicCD

●イーケ・トニー・ヤン(Pf) 2015年10月ショパンコンクールライヴ(動画

 

あたりである。

この2人は思わせぶりなルバート(テンポの揺らし)を使うのに対し、藤田真央はもっと素直な音楽づくりで、どちらのアプローチも魅力的。

終盤の右手の細かな音階風パッセージもとても明るく、さすがにもう少しひそやかに弾いてほしい気もするけれど、それでも楽しそうな弾きっぷりが目に浮かぶような演奏には、これもありかと納得させられる。

 

 

ショパンの即興曲第3番で私の好きな録音は、

 

●ハラシェヴィチ(Pf) 1955年ショパンコンクールライヴ盤(NMLApple MusicCD

●内匠慧(Pf) 2012年11月浜コンライヴ盤(CD

 

あたりである。

この曲も、メランコリックな色合いを前面に出すこの2人と違って、藤田真央の場合はまるで辺り一面の花畑にでも来たかのように、底抜けに明るい。

明るいのだけれど、それはからっと乾いた地中海的な明るさではなく、しっとりとした情感に満ちた優しい明るさであり、あくまでショパンらしさを失わない。

 

 

ショパンの即興曲第4番(幻想即興曲)で私の好きな録音は、

 

●ブーニン(Pf) 1987年12月セッション盤(NMLApple MusicCD

●ユンディ・リ(Pf) 2001年9月セッション盤(NMLApple MusicCD

●ルガンスキー(Pf) 2009年11月24-26日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

これらに比べると、当盤の藤田真央の演奏はややおとなしめ。

上品ではあるが、この曲ではもっと速いテンポで攻めてほしいところ。

 

 

ショパンの演奏会用アレグロで私の好きな録音は、

 

●ネボルシン(Pf) 1993年セッション盤(NMLApple MusicCD

●ロルティ(Pf) 2017年3月1-3日セッション盤(NMLApple MusicCD

 

あたりである。

藤田真央の演奏は、これらに勝るとも劣らない出来。

この曲らしいサロン風の華やかさや優美さがよく出ている。

技巧的にも長けており、例えば二重トリルなど上記2盤よりも明瞭に聴こえる。

 

 

ショパンのスケルツォ第1番で私の好きな録音は、まだない。

ヤブウォンスキ(NMLApple MusicCD)、ポゴレリチ(NMLApple MusicCD)、ガヴリリュク(Apple MusicCD)、ユンディ・リ(Apple MusicCD)、グロヴナー(Apple MusicCD)、角野隼斗(動画)あたりが比較的良い線行っていると思うが、カミソリのような切れ味とショパンらしい情感とを併せ持つ演奏にはまだ出会えていない。

というわけで、当盤の藤田真央の演奏に期待したのだが、悪くない演奏ながら、期待通りとまでは行かなかった。

技巧的な水準は高いし、情感も十分にあるのだが、若きショパンの手になるこの曲としては、少し落ち着きすぎている感がある。

もう少し攻めてくれていたら、決定盤にもなりえたと思うのだが。

 

 

ショパンのスケルツォ第2番で私の好きな録音は、

 

●チョ・ソンジン(Pf) 2009年11月浜コンライヴ盤(CD)

 

あたりである。

藤田真央の演奏は、特にメロディの歌わせ方がうまく、冒頭の変ロ短調から変ニ長調へと転調する部分の旋律の美しさはチョ・ソンジン以上かも。

ただ、シニカルな切れ味等の点で、総合的にはチョ・ソンジンのほうに軍配が上がりそう。

中間部の結尾のホ長調によるアルペッジョ風音型も、藤田真央はそろりそろりとゆっくりめに始めて少しずつギアを上げていくスタイルだが、チョ・ソンジンのように最初からトップスピードで流麗に仕上げるほうが魅力的に感じる。

 

 

ショパンのスケルツォ第3番で私の好きな録音は、

 

●山本貴志(Pf) 2005年10月ショパンコンクールライヴ盤(CD

 

あたりである。

この鬼気迫る演奏に比べると藤田真央はややおとなしいものの、そのぶん相当に洗練された演奏となっており、総合的には肩を並べると言ってもいいかも。

特にコーダはなかなかの攻めのテンポでありながら、その洗練度はとどまるところを知らず、驚嘆すべき完成度の高さとなっている。

冒頭に述べた、少し前に発売された「蜜蜂と遠雷」関連の新譜にも、彼によるこの曲の演奏が収録されていたが、この約半年前の同曲演奏よりも今回はコーダのテンポが速くなっており、半年間の進化が垣間見られる。

 

 

ショパンのスケルツォ第4番で私の好きな録音は、

 

●山本貴志(Pf) 2005年10月ショパンコンクールライヴ盤(CD

●チョ・ソンジン(Pf) 2009年11月浜コンライヴ盤(CD)

 

あたりである。

藤田真央の演奏は、この2盤ほどのキレは聴かれず、どちらかというと少しまったりした演奏になっている。

今のところ上記2盤のほうが好きだが、藤田真央もくつろいだのびやかな良さがあり、またいつもながら余裕綽々の演奏で、もう少し聴き込めばもっと好きになるかも。

 

 

以上、競合盤の多いショパンだけあって、演奏の出来栄えの印象も曲によってまちまちだが、全体的には概ね期待通りだった。

即興曲とスケルツォ、2つの全集を一気に録音してここまで仕上げてくるのは、さすがである。

 

 


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