100分 de 名著 小松左京 (3) ゴルディアスの結び目 NHK Eテレ 7/15放送 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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番組紹介HP  第1回 第2回

 

感想
「最高傑作」というのは言い過ぎだなー(笑) 

最高は「果しなき流れの果に」ですよ。
心の闇が他宇宙のブラックホールと接続しているという話。
自称サイコ・エクスプローラー(のちにデテクティヴ)なんていかにもうさんくさい。
 
人の心の中には広大な空間が広がっているというイメージは、確かにある。そしてそこに闇を抱えた者、獣を飼っている者、ありとあらゆる可能性に満ち溢れている。ブラックホールがあったって、いい。
小松氏は基本、科学的に事象を解決する、理詰めの人だと思っていたのでこの作品は、実はあまり印象に残らなかった。

 

女性の心の闇に広がる凄惨な世界と、その先に繋がるブラックホール。確かに伊藤と精神を同化させて読み進む時には、ある種の興奮を覚えた。
ただ、その後唐突に出て来るルシファー。あれがピンと来ない。多分小松自身が「神曲」に親しんでいたから、違和感はなかっただろうが・・・

 

マリアが、症状維持のため、クビチェックから毎夜強姦されていた事は、悲惨ながらも「さもありなん」
でも、なーんか俗っぽいんだよな。小松自身、こういうものはあまり得意ではないのだろう。
エロとか恋愛とかは、突き詰めて考える者には苦手なもの。

 

ただ今回の設定は現在バーチャル・リアリティとして、ごく一般的に扱われている思想の基礎をなす。その点で重い意味を持つだろう。

 

テキストに、小松の自伝からの言葉がある(抜粋)。
宇宙を物理現象として扱うのではなく、大きな目的があると考えれば、神学の対象となるだろう。だから宇宙がなぜ出来たかというのは、神学が解かなくてはいけない。

 

内容

第3回 深層意識と宇宙を繋ぐ ~「ゴルディアスの結び目」~

小松の最高傑作と言われる。(人間の心の、もう一つの宇宙)

進行役:伊集院光 安部みちこ ゲスト:宮崎哲弥(評論家)


小松氏は大作が多い中、中編がいい。野心的。

最も好きなのがコレ(宮崎)
1975~76年の「野生時代」に連載されたもの。
題名の由来はギリシャの故事。

結び目をほどく代わりに剣で断ち切る→新しい視点での問題解決。

 

ストーリー
かつて部屋だったそれは、箱ほどに小さくなりボールより小さく固く縮む。中に二人の人物が居た。男と女。

 

山中に建つアフドゥーム病院を訪れる伊藤浩司はサイコ・デテクティヴ。相手をするユーイン医師と院長のクビチェック。

女の叫び声。「ずいぶんにぎやかですね」


ある病室に伊藤を案内するクビチェック。中には拘束された女性。

「マリア・K」といい18歳。美しいが牙と角を持つ。
8ケ月前、山中で恋人を噛み殺し、心臓を引きずり出して食べていた。

 

男からのトラウマ。悪魔憑き。
この研究にはローゼンクロイツ財団から巨額の資金援助がある。

 

解説
当時はオカルトブーム。少女の心の在り方が読みどころ。サイコ・デテクティヴ?(伊集院)
デテクティヴは探偵の意味(心理探偵)。

特殊な装置で人の意識に潜入する。

 

伊藤がマリアの意識にダイブする。森の中。だが外の世界ではマリアがベッドごと空中に飛び狂乱。
精神科医に診せたのかと聞く伊藤だが「手に負えない」と言うクビチェックは、治せるか興味ない、とも。

二度目のダイブで事件の様子が判る。男ヘンリイに麻薬を打たれ、強姦、虐待の限りを受けた。生まれて初めてヘンリイを愛した末の結果。
「ここから助け出して・・・」炎を吹き出すマリア。

 

クビチェックはマリアのエネルギーに注目。体内から浸透して来る。どこからどこを通って?どうやってあの密室へ?
超空間から入って来るとの仮定で、伊藤に憑き物との接触を要求するクビチェック。

 

解説 
マリアは良家のお嬢さん。ヘンリイに簡単に騙された。
悪魔憑きは単なる現象ではなく、マリアの心の中の地獄。地獄の追体験。
なぜ描いた?
現代における地獄のリアルを見せたい。
小松の基本にあるのはダンテの「神曲」
クビチェックはエネルギーに興味を持っている。少女のトラウマとブラックホールが繋がっている(他の宇宙との接続)。

 

コントロールして活用。トラウマで発電する? SFになって来た。小松マジック。謎の団体の話(何億ドルも注ぎ込む)

 

ダイブ三回目。沼に辿り着く伊藤。橋の向こうは凄惨な光景で、心の中でさえない。
おびただしい死体の向こうに全裸のマリア。二匹の魔物が合体してクビチェックの姿となり、強姦を繰り返す。

 

それはトラウマを治癒させないため。
クビチェックの後ろに控えるのは堕天使ルシファー。

 

だがその後ろに暗黒の神。もう戻れないという。

 

もう戻れないとしたら、特異点の向こう側に行くしかない。
「愛しているよ」伊藤はマリアを連れて前に突き進む。部屋はどんどん収縮を続ける。
この”ゴルディアスの結び目が縮潰を続けるとするなら、マイクロ・ブラックホールとなるであろうという事である。

 

解説
これの意味は、浴槽の栓を抜いた様なもの。

特異点を通って中のものが出て行ってしまった。
結ぼれを解きほぐすのではなくて、中心まで突き抜けて行こう(それが断ち切ること)。打開策。二人は別の宇宙に超出して行ったのではないか(命がけの愛を以って)

伊集院コメント
心ゆさぶられた。良く言われる「心の闇」。

心にブラックホールを持てば、言葉は届かない。
現代で起き続ける様々な事件。それを救うのが命がけの愛。
最後に人間に対する肯定がある。


テキストによる覚え
「野生時代」に発表されたのは4編。「岬にて」「ゴルディアスの結び目」「すぺるむ・さぴえんすの冒険」「あなろぐ・らゔ」。これらをまとめて「ゴルディアスの結び目」として刊行された。4編はこの順に「出発」「渦」

「難破」「孤島」に関するメモだ、との事。全4話の超あらすじ