新聞小説 「カード師」 (4) 中村 文則 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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超あらすじ  (1)~15まで

       15~21(最終)まで

 

朝日 新聞小説 「カード師」 (4)  11/19(48)~12/2(61)
作:中村 文則  画:目黒 ケイ

 

感想
最初に出て来た市井(まだ名字だけかよ)の話。
面接に落ちて、自分の事が決められないという背景を話す時に、母の髪の話。確かにカードは「女帝」だが、このエピソードではどう「女帝」なのか全く繋がらず、いつもの「思わせぶり」
思わせぶりと言えば、市井が露出の少ない服だった事について。

小説の冒頭で面接には露出の少ない服で、と言った事の対なのだろうが、コートを使う季節なんだから、それ当たり前だろう。

 

そして組織(?)の芳野なにがしの命令を簡単に受けて、胃薬男の洗脳に行く。命令されたくせに手駒がいるとか、自分で回している様な言い方が気に入らない。
胃薬男へのタロットも、元々積み込みの名手なんだから、相手がカードに触れないなら何だって出来るはず。

それを特殊な薬品とか何とか言って。どうも「好かん」。

 

英子は生きていたが、組織から抜けるという。

そして佐藤へのミッションは事実上なしに。全く、モウ訳がわからん。
そして洗脳準備中の胃薬男は殺されてしまうし、サスペンスではあるけど、なんか疲れる、この展開。


「僕」のプロファイルとして四十ちょい前という事が判明。
サラリーマンなら中堅だぞ!しっかりしろ、と言いたい。

 

さて、胃薬男を殺した山本の線で命令系統が一本化。

ボスも出てきそう。しかし今までの話がキチンと伏線回収出来るのだろうか? 途中で投げたら、怒るデ!
しかし「かすかな刺激臭」で死臭かと思ったが、こんな短時間で出るわけないし。青酸カリ?
それともこの男の死自体がフェイクとか?(鍵泥棒のメソッドみたく)


そういえば、この小説を語る「」で、コートを掻き合わせているのと、その次の絵が「僕」か「英子」かの論争が展開。

まあ様々な解釈があるが、この挿絵作家の描く線がみな女性的になってしまうのが元凶の様だ。

それから胃薬男がホテルに残していた黒いゴミ袋。これも話題になっていたが本文で「器具」とあったから、そっち方面の器具なんだろう。

デリヘル嬢が泣く様な・・・・(やめとこ)

 


あらすじ 48~61

女帝 1~4
面接に落ちたという市井。その面接官から企業紹介の名目で食事を誘われ、断ると脅迫されたという。
そんなことはない、市井さんはうまく行きますと励ます。
自分は何をしたらいいのかと聞く市井の、初めて見た取り乱す姿。
岸田亜香里にした、タロット一枚を引かせる占いをさせようとすると、選ぶまでもなくて「女帝」だという。母を思い出すから。
大学生の時、金髪にした。このカードを見るたび思い出す。

金髪にした時、母が凄く怒った。亡くなる前に話してくれたその理由。
会社員だった父と知り合い、市井を妊娠した事で金髪を止めた母。ほとんど黒髪に戻ったがサイドだけ金のメッシュを入れた。「家」へ入る事に逆らう気持ち。
父の実家で歓待されるも祖母(市井にとっての)が、スキを見て母のメッシュをハサミでカットした。


「これでパーフェクト」と言った祖母。
結局離婚し、その後の母は髪を染めるどころではなかったが。あの時髪を切られていなかったら、と述懐したという。

「市井さんが今、就職しないとしたら・・」と言いかけた時、チャイムが鳴った。インターフォンの画面には知らない男。無視しようとしたが、再びチャイム。
会話を彼女に聞かれるわけに行かないので、申し訳ないが・・・と市井に言った。帰り際、彼女が露出の少ない服だったのに気付く。

 

市井と入れ替わりに来た男は芳野と名乗った。英子氏の同僚。

威圧感だけの大男。四十手前か、同世代。繋がった顎髭ともみあげ。髭以外の顔がぼやけて行く。
依頼があるという言葉に、既に依頼を受けていると拒絶。
「英子だな、違う」との言葉に、昨日も来たと返すと「・・・山本さんか?」 相談して出直してくれと言うが、玄関の壁を手で打つ激しい音。
今すぐ来なければまずい、俺もお前も、と言う芳野。「・・・何が?」
芳野は、佐藤の件で二人の男のどちらを優先するかの話も知っており、どちらにも会うなと伝えろ、と言った。
依頼に応えて利益を与えないと入り込めない、と断ると、既に株で英子が与えたと言った。
これは英子からの依頼案件だと言うと、電話をしてみろと言う。
英子にかけてみるが、留守電にもならない。

 


洗脳 1~10
とにかくこの男に会って占い師として信用されろ、と六十歳ほどの男の写真を出した。
男は焦ってスマホを操作している。目がかすみ、周囲がぼやける。
拒否しても巻き込まれるなら、探った方がいいのかも知れない。この状況と位置。

写真の男が居るというホテル。客室フロアを向かって来る女性。泣いている。性サービスの女性か。女性が出て来たのが、写真の男の部屋。
この男の信用を得るだけでは足りない。今は動かせる手駒が要る。

 

男は落ち着きがなく、視線が揺れている。机には祭壇。彼ならいける。
当たるんだろうな?との問いに、お断りしますと言って立ち去るそぶりを見せると、男が腕を掴んだ。
どういう事か教えてくれ、という問いに「気」という言葉を持ち出す。

悪い気が吹き溜まりになっている、と言い、テーブルにタロットを並べて男に一枚指ささせる。そのカードを裏返すと「死神」。

男の視線が揺れる。
これにはトリックがあり、特殊な薬品で一枚ごとのカードに全て死神のカードが貼り付いている。

相手にカードを引かせなければ必ず死神が出る。
あなたの無意識が、死に関する方に寄っている。
そこで沈黙し、別のウェイト=スミス版のタロットで操作を始める。

何回か続くカード作業。
胃にガンがあると言った。健胃消火剤を含む胃薬の、特徴ある臭いを感じていた。それらしい薬の袋も落ちている。
既に男はノイローゼ。

「このままいけば、という話です」と表現に注意しながら、様々なケースについての恐怖を刷り込んで行く。
ベッド脇に、何か器具の入った黒い袋。

 

泣いていた性サービスの女性を思い出す。
そういう事も、もう出来ない様にしてあげよう。

 

打ち手について声を荒げて聞く男に、紙の札が悪いと言って剥がさせ、祭壇にはタオルを掛けさせた。自らやらせる事が重要。そして窓を開け、深呼吸を、と指示。
そこで、あなたは悪くない、みな周囲のせいだと慰めた。
そして、誰かを頼らなければ生きて行けないという誘導。
「・・・胃のガンは?」
息のかかった医者にガンだと言わせて、全てをコントロールする。
男が「これのせいなんだ」と言ってスマホの画像を見せる。

佐藤だった。
企業の社長などが集まるパーティー。

そこで本当に何気なく左を向いた時、佐藤と目が合った。
その翌日から自分の会社の株が買い取られ始めた。乗っ取り。

大きな会社でもない。意味がわからない。
目的が知りたくて佐藤の会社へ行った。だがようやく面会出来た佐藤は、男を不思議そうに見た。
会社の乗っ取りという事でなく、人生そのものに執着している姿が不思議だったのだろう。そのうちに自分まで、なぜそれが嫌なのか判らなくなった。株集めはまだ続いている。

 


英子氏への電話が繋がらないまま、どちらに付けばいいか判らない時に芳野からの電話。
佐藤の件は英子氏の判断しか聞かないと言うと、場所を教えられた。

 

タクシーを降り、細い雨が降る中、古びた喫茶店に入る。


そこで待つ英子氏。向かいの椅子を動かした音だけでおびえる彼女。

馴染まない服、腕時計も装飾品もない。
「何があったのですか」 「何もないよ」
芳野から言われた依頼については「彼の言う通りにして」
山本からの依頼にも、受けた方がいいと言った。

最初に依頼を受けたのが五年前。英子氏だったから関わった。

「会社を辞めるんですね」 「ええ」
「何があったのですか」 「何もないよ」
彼女が言った「彼らは、知性を持たずに知的世界の支配権を握ろうとしている」 「え?」
「十八世紀に亡くなった、リムボルクの言葉」 知らない名前。
「あなたは、そういった彼らからもう逃げられない。だから、愛想笑いを忘れない方がいい」 窓の外の雨を見る彼女。


動揺を隠すためタロットを出し、それを渡そうとした。

丸い、珍しいカード。
だが「いらない」と言う彼女が「あなた達は何もわかってない」

 

 

佐藤の部下にメールを打った。二人のうち生年月日と姓名判断から運気のいい方の男を推奨。
英子氏たち-今は芳野達-から無能と思われ、仕事を降ろされるための行動。
英子氏の様子を見て、一度は当てた佐藤への占いを進めて佐藤との契約終了を願った。

 

胃薬の男からの電話。不安だと言う。
住所を教える、と切迫した状況だが、いったん断る。

洗脳には段階がある。

 

たっての願いを聞いて、あの発狂した物理学者が作ったタロットを持ち出掛ける。
タクシーで向かった胃薬の男の家は郊外の一軒家。
チャイムに応答はなく、ドアは施錠されていなかった。

話し声が聞こえたが、念仏の様だった。
更に進み、リビングのドアを開けて、話し声はラジオだと気付く。

 

男が倒れていた。かすかな刺激臭。体の力が抜けて行く。
部屋の隅で物音。もう一人誰かいる。

暗がりで立つ男。遅れて山本だと気付いた。

僕に依頼をしようとした男。
芳野の依頼でこの男に会った事を知っていた。

くだらない、英子も芳野も終わりだと言った。
そして「今後お前は私の下に入る」
お前がやったのか?の問いに「普通、そうじゃないか?」
胃薬の男は唇を歪め、片目だけ開いて倒れていた。

落ちているグラス。


こいつは邪魔だった、目障りだった、と言う。
警察の事を言うと「大丈夫だ、初めてじゃない」
無造作なやり方に英子氏の「知性を持たずに知的世界の支配権を握ろうとしている」の言葉がよぎる。

いずれ新しいトップに会う事になる、と山本。
少年の僕が手に取ったカードを誰かが引く。あの彼だ。
指揮系統は今後一本化される、とスマホを渡される。気付くと受け取っていた。
胃薬の男が握っていたのは、僕が剥がせと言った壁の札。

死の前に頼ったもの。