小説 火の鳥 大地編(2) 二章 「タクラマカン」 作:桜庭一樹 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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小説 火の鳥  作 :桜庭 一樹 画:黒田 征太郎
                     原作:手塚 治虫

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                             終章 超あらすじ 

 

キャスト
間久部緑郎   関東軍少佐
間久部正人   緑郎の弟。八路軍に所属
猿田博士     緑郎の恩師。満州 大陸科学院付
マリア        楽団員。
川島芳子    黄金栄の手下。過去は清国の王女
ルイ         ダンサー。黄金栄の手下

 

 

感想
タクラマカン砂漠に向けて出発した、火の鳥調査隊。
列車の屋根での格闘、また猿田博士の救出と、見せ場での活劇は躍動感に溢れて楽しい。
そしてマリアの、言葉の端々に見られるちょっと思わせぶりな口調。これはどうしたって過去の出来事を知っているという事。
メンバーに毒を盛ろうとして捕まったマリアが、楼蘭国の王女だと自白を始める。

 

実はこの二章で挫折した。というのは13話で猿田博士が、火の鳥のホルモン活用について語る。

たくさんの敵を一瞬で殺す兵器を考えているところで「こらーあかん」
猿田博士は、外見上のイメージから言ってもお茶の水博士に収斂して行くキャラクター。人類貢献が基本の筈で、殺人兵器開発なんて・・・と拒絶反応を起こした。

それが7月だから、約4ケ月の放置。
だがこの鼻デカキャラは手塚自身の投影でもあり、原作の中でも愚かな行為を繰り返して辛酸を舐める。
新聞小説を語る「」の中でこのコーナーもあり、気を取り直して再開。
今の掲載では4章だから頑張って追い付こう・・・

 

 

あらすじ   [9] 6/7 ~ [16] 8/3

[9] 「この僕を殺そうとは」 6/7
二章 タクラマカン 一九三八年一月

その1 大地が燃えている 
上海駅を出発した臨時便9600型蒸気機関車。
火夫台の椅子に座り、真っ黒な顔で石炭をくべる男。
緑郎に列車の説明をする鉄道省の役人。外国人は便民票(搭乗許可証)がないと生きては降りられない、と言って三枚の便民票を渡す。

マリア、ルイ、芳子の三人にそれを渡す緑郎。

個室に皆が落ち着いた時、芳子の背後の窓が開き、真っ黒な顔の男が、芳子の便民票を奪って列車の屋根に上がって行った。
芳子が銃を撃ったが全くの方向外れで、緑郎の肩をかすめた。
正人が男を追って屋根に上がり、続いて芳子、ルイも上がった。

緑郎も続いて上がろうとしてマリアを振り向くが、行くそぶりを見せないマリア。個室にパンの焼ける匂いがたち込めた。

 

男が銃を三発撃ち、ルイが芳子の盾になって頬にかすり傷を受けた。
男に飛びかかった緑郎が、格闘の末便民票を取り戻した。
枕木の不備から列車が止まり始める。
緑郎に命じられて男を押さえ付ける正人だが、男が涙を流して「南京に家族がいる」と言った。
正人がひるんだ隙に男が跳ね起き、緑郎に銃を向ける。

屋根を転がる二人。
口に銃口を入れられ、万事休すの緑郎。その時、男が倒れ込んだ。

正人が短刀で刺したのだ。カタカタ震える正人。
人を殺しちゃった、ルイ・・・と嘆く正人
「いや、まだ死んでないぜ」と男を引き起こし、その口に銃を押し込んで撃った緑郎は、男を屋根から蹴り落として笑う。
「僕を殺そうとは百年、いや百万年早い。アーハハ!アーハ、アーハハハ!」

 

[10] 「罪のない人間なんていませんよ」 6/15
停車した列車に、青幇(チンパン)の車からライト点滅暗号の指示が出る。それを受けるルイ。
盗っ人を撃った事情を役人に説明する緑郎。

盗っ人は元々火夫だったので人手が足りなくなった。

ルイが行く事になり、加勢のため芳子も同行。

個室に残った緑郎、マリア、正人。二人を置いて廊下に出た緑郎は、麗奈の軽蔑を跳ね返し、火の鳥の持つ力で皇軍を勝利に導くと誓う。
個室で、罪のない人間なんていませんよ、と正人を慰めるマリアが「いつかまた火の鳥に逢ったら、あなたのことを・・・」と言いかけて黙る。

 

一方ルイと芳子は機関車の火夫台に居た。線路の復旧が済み、列車が走り出して、ルイたちの石炭をくべる作業が始まる。

 

ルイは自らの出自が満州族だと言い、芳子を皇女として守ると言った。
明け方に広がる戦争の残骸。この恨みは忘れない。

二人は涙した。遠くに南京駅が見えて来た。


その2 揚子江を上れ!
汽車は南京駅に到着。近くに孫文の墓があるというマリア。

それを受け、空襲にも遭わなかった、と芳子。
緑郎が促し、徒歩で南京港に向かう。
港でルイが、緑郎から渡された金を使って民間船をチャーター。

名目は東北の故郷に帰る家族。

 

[11] 「すべての猫に暖かな寝床が」 6/22
乗り込んだ古いジャンク船は、百人ほど客を詰め込んで出航した。

揚子江を川上に進む。ここから先は中国国民党との戦闘地域。

 

河岸には日本兵の群れと重火器。
日本海軍の水上偵察機が近づき、丘に隠れる敵に爆弾を落とす。
おびえる正人を弱虫の毛虫野郎!と叱咤する緑郎。

皆平等で、すべての猫に暖かな寝床が与えられるべき、と言う正人。

上流から列をなして下って来た商船から大きな音がし、水煙が上がった。炎と破片が降って来る。「いかん、機械水雷だ」
緑郎と芳子の指示で皆は河に飛び込んだ。
泳げないルイを正人が助けるが、波に飲まれて沈んで行く。

それを緑郎が潜って助ける。
何とか岸まで泳ぎ着き、再びルイが交渉して別のジャンク船に乗り込む。数日かかって、船はようやく重慶に着いた。

港で八路軍兵士がルイと正人に接触し、調査が終わったらこの町に戻って報告せよとの命令を伝える。
一行は小舟に乗って、更に上流に向かった。

 

[12] 「政治犯を処刑してるぞ!」 6/29
夜になってようやく一行は成都に到着。
正人に、民家の庭に生えている木を指して「ミフクラギの木」と言うマリア。猛毒の樹液が取れる。
民宿で泊まる交渉に芳子が出向いたが不調。

次のマリアに芳子が色仕掛けの意味を教えている間に、ルイが乗り込んで大部屋を借りる話をつけて来た。
部屋で皆が食事を摂って一段落している間に、芳子が出掛けて旧ロシア商人の小型機をチャーターして来た。
ウルムチまで飛行機で行き、そこから先は芳子にも未知の世界。

 

その3 プロメテウスの火
翌朝、飛行場に向かう一行。

パイロットらしきロシア人と打合せをする芳子。
日本人とバレたら殺される、と言っている矢先に、国民党兵士から処刑されようとしていた政治犯とおぼしき男が「間久部くんじゃないか!助けてくれェ」
それは猿田博士。だがこちらも日本人とバレて兵士が追って来る。
すぐに飛行機を出すよう芳子に指示する緑郎。皆が走った。
皆が乗り込んだ時、正人が猿田博士を助けに行ったと芳子が教えた。あんたの弟はバカだと言いながら助太刀に行く芳子。ルイも続く。
機に残ったのは緑郎、マリア、パイロット。
今すぐ飛び立てと命令する緑郎。

この先はお前がガイド、二人仲良くやろうと言う緑郎。
湖のように青い目を細め「本当にいいのですか?」とマリア。

 

弟を簡単に見捨てる、相変わらずですね、というマリアの言葉に違和感を持つ緑郎。知り合ってまだ間がないのに・・・・
「いいえ、私は・・・・」と言って飛行機の扉を開ける。
「あなたの事を良く知っています」と言ってタラップを降りたマリア。

兵士たち二人はマリアの武闘笛に倒された。
茫然とする緑郎。「ぼ、ぼくは君なんかちっとも知らん」

 

[13] 「プロメテウスの火じゃ」 7/6
正人と芳子が猿田博士のもとに駆け付けるが、兵士たちに囲まれる。それをルイが刀で倒して行く。
奪った機関銃を芳子が撃ちまくる間に猿田博士の縄を解く正人。
タラップで闘っているマリアに加勢する芳子。その間に正人が猿田博士を機に運び込む。
銃声に追われながらも飛行機は飛び上がった。

 

北に向かう飛行機。正人の無謀な行動を怒鳴り付ける緑郎は、猿田博士に事の理由を聞いた。
調査隊に同行したかったが聞いてもらえず、追って来たという。
本来、持ち帰った未知のホルモン解析が猿田博士の役目。
猿田博士の語る産業革命以後の、兵器の発展。

新エネルギーの開発も各国で進んでいる。一刻の猶予もない。
火の鳥のホルモンが若返りに寄与するのなら、逆にたくさんの敵を一瞬で殺せるかも・・
火の鳥を新エネルギーとした最終兵器もあり得る。

火の鳥こそ迷える日本人の前に現れた・・・プロメテウスの火じゃ!

 

蘭州の空港での給油。正人がルイに猿田博士の話をする。「火の鳥による兵器開発」と聞いて阻止を訴えるルイ。それを陰で聞くマリア。
やはり調査隊に潜入して正解だった。だが間久部は戦意高揚と言い、猿田博士は兵器開発。私の経験から行くとどちらも真実と違う・・・
他に糸を引いている、本当の敵の存在。
今度こそ私の楼蘭王国を守らなくては・・・
再び飛行機は飛び立ち、丘を抜け、谷を通り過ぎて、やがてハミの飛行場に着いた。

 

[14] 「火が…。熱い…。火が来る…」 7/13
ハミでの燃料補給時、同時期に着陸した小型機を覗き込んだ芳子。

突然扉が開き現れた東洋人の老人。老人は芳子に銃を突き付けた。
芳子を愛新覺羅顯㺭(あいしんかくら けんし)と呼び、清王朝復活を忘れたただのゴロツキと言った老人。

そして自分に会った事は誰にも言うなと言って解放した。


なんとか離れる芳子は首をひねる。

あれだけの大物がなぜこんな辺境に・・・?
皆が招集され、再び飛行機が飛び上がった。

 

その4 死の砂漠
調査隊はウルムチの飛行場で空の旅を終えた。

高度千メートルの乾いた高地。
ウイグル語圏のバザールで、マリアはごく自然に店と交渉して食料を調達した。
店の男と談笑するマリア。芳子が聞くと、マリアの言葉が古い時代のもので年寄りの様らしい。そんなマリアを訝しむ緑郎。
街でルイが、不意に手を引かれテントに連れ込まれる。

青幇(チンパン)の男の伝言。

調査隊が火の鳥の力を見つけたら知らせろ。全員殺す。
解放されたルイを見つける正人。弱々しいルイ。

 

マリアがロプノールまでのガイドを確保した。

その日はウルムチの宿で一泊した。

夜中にうなされる緑郎。

「火が・・熱い。火がくる・・!」それを観察するマリア。
「母さんっ!」と叫んで起き、マリアの腕をつかむ緑郎。
よくその夢を見ますね、とマリア。

 

一同が目を覚ました朝。
イタチが倒れているのを見てそれを屋根の上に置くマリア。
生きているなら日差しで目を覚ます。

死んでいれば鳥が食べる、と言った言葉に猿田博士が
「おやっ、あんたはもしや?」とマリアの顔をまじまじと見た。

 

[15] 「僕はな、永遠なんていらん!」 7/20
調査隊一行は、ラクダに持って砂漠へと出発した。
冬の朝は凍えるほどだったのが、昼にかけてどんどん気温が上がる。
一歩一歩火の鳥に近づく実感に独り言を呟く緑郎。

40キロほど進んで野営となった。

現地ガイドとマリアがテントを立てる。
寝転んで満天の星を見る芳子の横に寝転ぶ緑郎。永遠なんていらん!誰よりも強い権力が持てれば早死にしていい、と言う。

 

一方、テントを立て終わったマリアが吹く笛を聞く猿田博士。
マリアを美しいと称える博士。

醜い鼻や、美というものに縁がなかった人生が辛いという。
若い頃に恋をしたが、その彼女は他の男のものになり、それで研究に没頭した結果、火の鳥の未知のホルモンを発見した。
マリアも身の上を話す。かつて夫がいたが、婚礼の夜敵国に攻められて死んでしまった。夫は弟で名はウルス。


弟と聞いて合点する博士。ゾロアスター教では兄弟間の婚礼が許される。また鳥葬の風習もあり、今朝のイタチに対する行動で判った。
その通りと答えるマリア。

 

過酷な旅は続く。小さな井戸で水を補給しては進む。
そして何日か進んだある日、大きな湖に辿り着く。
未知のホルモンの影響を受けた植物や、長寿の動物、そして火の鳥を探す緑郎。だがそれらのものはない。
ロバに水を飲ませに来た男から話を聞き出せと言われるマリア。男の話では、この湖はタリム河の影響で数年毎に場所が変わるという。
今まで湖のそばには豊かな緑があり、湖の強い力があるためだった。
だが去年、急にその力が消えたという。
ロプノールは突如普通の湖になった。

湖畔にあった年を取らない都も廃墟になった・・・


[16] 「これは戦争だ…」 8/3
「な、なんの話だって? 年を取らない?」との緑郎の問いに淡々と通訳を続けるマリア。
湖畔に楼蘭という国があり、民は何百年も年を取らなかった。
だが楼蘭は16世紀に滅びたと聞いている緑郎。
その時風が吹いてスカーフを飛ばし、マリアの顔が露わになると、男は叫び声を上げ湖とマリアを指さした。

緑郎に聞かれてもそれを通訳せず、男を行かせたマリア。

 

調査隊は湖の周囲を調べるが、目ぼしいものはない。
日も陰り、楼蘭らしき廃墟を見つけて野営の準備に入る一行。
マリアが食事の準備を始め、芳子はうたた寝を始めるが、臭いに気付いて目を覚ます。そしてマリアの背後に。ルイもそれに続いた。
ガラス瓶に詰めた白い液体を鍋にたらすマリア。

殺鼠剤に使われるミフクラギの樹液だと言うルイ。
芳子がその瓶を銃で撃つが、大きく逸れる。ルイの飾り刀とマリアの武闘笛の戦いが始まる。廃墟の屋根に飛び上がって戦いは続く。
出て来た緑郎が芳子の説明を聞いて激怒。

マリアがルイを突き刺そうとするのを銃で撃つ緑郎。
屋根から落ちるマリア。右肩を負傷していた。

 

捕えられ、緑郎の拷問を受けるマリア。
見ちゃおれん、と止める猿田博士に、ここは戦場だ、最終兵器を開発しようとしているのに軟弱だ!と言う緑郎。
だからこういうものを待っておる、と自白薬を出す博士。
注射されて、マリアが弱々しい声で語り始めた。
「わたしはマリア。楼蘭の王ザムヤードの長女。今から443年前、この地で生まれました・・・」