100分 de 名著 アーサー・C・クラーク 3.「都市と星」4.「楽園の泉」NHKEテレ | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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番組紹介  第1回、第2回はコチラ
1、2回のレビュー
感想
「都市と星」
管理社会により異質な生き物になってしまった人類の中で、新たに生まれたアルヴィンが人類の融和に奔走する。
一応SFの体裁は取っているが人、社会を描くという事なのだろう。
こうやってサラっとあらすじにされてしまうと、なんか陳腐に見えてしまう嫌いがある。
しかし話の中で「道化師」が出て来たのには笑った。
ファウンデーション対帝国」で物語のキーマンになっていたのが「道化師」。アシモフの方が数年発表が早いから、キャッチーな言葉としてクラークがチョイスしたのは間違いないだろう。

「楽園の泉」
宇宙エレベーターの話だとはもちろん知っているが、最後に読んでからもう20年以上経っているので、このハラドキの展開などは全く忘れていた。やはり何万光年も旅をして・・・なんて話よりも、実現性のある近未来の話の方が好き。
また元々技術系に携わっていたから、課題解決の筋道とか、その辺りに興味が湧く。

カーボンナノチューブの開発により、この構想も実現可能と言われているゼネコンでもやる気マンマン

動画(さすが大林組)

 

全体感想

代表作である「2001年宇宙の旅」をベースにして展開するのが合理的だった思うのだが、ちょっと初期作品に力を入れ過ぎたか・・・



第3回 科学はユートピアを作れるか  3/16放送
  ~「都市と星(1956年)」~

進行役:伊集院光 安部みちこ 
ゲスト:瀬名秀明(作家)語り :銀河万丈

前回「幼年期の終わり」でユートピアとは何かの問いがあったが、今回はその答えに言及。
社会のあり方、幸せな暮らしとは何か。

クラークのSF、宇宙に対する考え方の進化が見られる。

作品導入
はるか未来の地球は荒廃し、人類は「ダイアスパー」という閉鎖都市に暮らす。コンピューターで管理された社会。


人の寿命は千年もの長寿で、記憶はメモリーに受け継がれ、不老不死。
人々は仮想ゲーム「サーガ」を楽しみ、十億年も変化のない生活を続けていた。
そんな時に前世の記憶を持たない、新たなヒトとしてアルヴィンが誕生した。それはこの十億年の中で一度もなかったこと。

ダイアスパーの外に出たいと熱望するアルヴィンは、道化師ケドロンの助けで都市を脱出した。
そして「リス」という国を見つける。

動物を飼い、自然な暮らしをしている人々を見て感動するアルヴィン。
そこの住人セラニスが、なぜここに来たのかを訊ねると、探検がしたかった、とアルヴィン。だが「それが理由?」
と聞かれて、寂しかったからと本心を話す。

コメント
このダイアスパーはユートピアなのかディストピアか・・・
クラークが作品を作った当時は、サイバネティックスの考え方が出て来た頃。

ウィーバーが提唱したサイボーグは、人が機械と融合して宇宙へ行く。
前作のジャン・ロドリゲスは衝動だけで宇宙に出た。
今作はアルヴィンが冒険に出るまでは手厚く描かれている。

リスの住民はテレパシーを使える。

人と人との結び付きを愛情と同じくらい貴重なものと考える。
アルヴィンは、友人になったヒルヴァーと共に、リスの外の世界へ冒険に出た。そこで人類の歴史を知っていると思われるロボットを捕獲。
ダイアスパーに戻ろうとすると、リスの住民は帰るなら記憶を消すと言い、辛くも逃れて戻るアルヴィン。
だが戻ったダイアスパーで聴聞会にかけられるアルヴィン。
こうした状況を憂うアルヴィン。人類の二つの系統が離ればなれになっている。交流を持つべきだという主張。
リスから持ち帰ったロボットのロックを解除して、リスとの交流を復活させたアルヴィンは、人類の過去の謎を解くために、ヒルヴァーと共に宇宙へ出た。

コメント
都会と地方、デジタルとアナログといった対比。

リスの自然に触れたからアルヴィンが変わった。
両方ミックスした方が良くなるという考え方。
クラークの心の変化。
この当時のクラークはダイビングに夢中で、グレートバリアリーフでバディと一緒に海へ潜った。

七つの太陽の星系を旅して、精神だけの存在のヴァナモンドに出会い、人類の経緯を知る。銀河系から外に出ようとする者と、地球に戻ってダイアスパーに閉じこもった者。
地球に戻ったアルヴィンは、ダイアスパーとリスの住人との融和を進める。

一度宇宙に出て確かめたアルヴィンは、もう宇宙に興味はなかった。

しなければならない事は地球にある。
最後にラストフライトとして宇宙から地球を見つめるアルヴィン。
横から光が当たり半球が昼、半球が夜の世界を同時に見る事が出来た。明と暗の共存。

 

コメント
今までは宇宙に出て行く話。今回は帰って来る話。
この小説を書く前にクラークは「指輪物語」を読んでいたのが知られている。
指輪物語は「行きて帰りし物語」の典型とも言われるもので、クラークは大きな影響を受けただろう。



第4回 技術者への賛歌   3/23放送
  ~「楽園の泉(1979年)」~


「都市と星」から23年後の円熟期に書かれた。後半生に残した傑作。
生涯を通して宇宙に行きたかったクラークの到達点を読み解く。

作品導入
かつてカーリダーサ王が支配していたインド洋のタプロバニー島。

そこにそびえる霊峰スリカンダ。
山の麓に棲息する金色の蝶は兵士の霊魂の象徴。その蝶が山頂まで上ったら、僧は山を下りなくてはならないという言い伝え。

22世紀。タプロバニー島を訪れる地球建設公社 技術部長のヴァニーヴァー・モーガン。
島の責任者に、超繊維を使った宇宙エレベーターの構想を提言。
地上と静止軌道間の3万6千キロを結ぶ。

それに最も適した場所が霊峰スリカンダ(赤道上)。
僧侶たちはそれを拒絶。かつてのタコマ峡谷橋の崩壊(1940年)

この世に絶対はないという教訓。
世界司法裁判所への提訴で、建設が認可された。
だがテスト段階の工事で超繊維が強風のために切れ、大事故を起こした。

コメント
土地の問題、権利等人間くさいところが描かれている。現実味がある。
宇宙エレベーター(軌道エレベータ)の構想は最初ツィオルコフスキーが提唱。その後アルツターノフが1960年に宇宙ステーションからワイヤーを降ろして作る方法を提案。クラークの構想はそれに沿っている。
1954年にスリランカへ寄港したクレークは、そこで仏教、民族等に惹かれ移住した。
民族の多様性や人それぞれの価値観を受け入れる。


事故の後、奇跡と言える出来事が起こった。
予想外の強い風が金の蝶を山頂に運んだ。

僧は山を明け渡し、開発が前に進んだ。
宇宙空間にコンビナートを作って超繊維を製造しながら塔を下に向けて建造する。
モーガンは精力的に作業を進めるが、心臓の病のため、胸にセンサを付ける事になる。


塔の完成まであと600キロとなったところで大事件が発生。オーロラ観測で塔を訪れていた教授と学生が塔下端でブレーキ故障のため閉じ込められ、空気が漏れだしている。
地上からロープを伝って作業車の「スパイダー」で救援物資を届ける役目を小柄なモーガンが志願。
400キロ進んだところでアクシデント。使用済みの補助電池を切り離すネジが外れない。車外に出て外すモーガン。
あと2キロの所で内蔵電池のパワーが尽きる。
10分休めては動かす、の繰り返しで進むか、残り20メートルのところで完全に停止。出来ることはもうない。
 

その時地上の技術者ウォーレンから連絡。残りの距離を聞く。
あと20メートルと知って安堵するウォーレン。
実は塔の製造は、一日2キロのペースで下方へ伸びており、15分も待てば届く。無事に到着し、7人の命は救われた。
作業を終え、スパイダーで戻る途中、心臓発作で命を落とすモーガン。鳴り続ける警報。

コメント
到達までのハラハラは「はやぶさ」の時を思い出す(瀬名)
クラークとモーガンは一体。宇宙に来られたという達成感と多幸感。
やる事をやり切った。ハッピーエンド。

宇宙エレベーター完成から1500年後、スターホルム人がそこを訪れ感銘を受ける。
だがエレベーターの名に設計者モーガンの名がない。
「カーリダーサの塔」とどうして呼ぶのか?と子供に問う異星人。

コメント
最後の問いに対する答えは「裏方でいいんだ」
技術者の勝利だけではない。
土地と一つになって新しい光景になった。人類スゲー小説の進化。
「センスの良い好奇心」