小説 火の鳥 大地編(4) 四章 「東京」(前編) 作:桜庭一樹 | 私の備忘録(映画・TV・小説等のレビュー)

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日々接した情報の保管場所として・・・・基本ネタバレです(陳謝)

小説 火の鳥  作  :桜庭 一樹 画:黒田 征太郎
             原作:手塚 治虫

四章が思いの外長いので分割部分(24~35)についてのあらすじ。
一 ~ 三章までの超あらすじはコチラ

感想
マリアの告白を引き継いで、時間巻き戻しの発端からを、三田村要造が語る。
幼なじみの田辺保が、火の鳥の首を使って発明した時間巻き戻し装置「エレキテル太郎二号」
二回目の世界で、ちゃっかり夕顔と結婚してしまった要造。この辺りは時間巻き戻しの活用法として面白い。
ただ、それが仇となって保を怒らせたのを要造父が斬り殺してしまう。

このアナーキーな展開にはビックリ。

女流作家の割りに(てゆうか、だからこそ?)やる事が過激。
その保を助けるために慌ててジャンプした三回目の世界で、保に言われていた国の未来に目覚める要造。
事業失敗の逆恨みで殺された父を助けるための、再度のジャンプ。

その頃には、日本軍に情報を流したための足枷に自ら嵌ってしまった。

まあ、ここまで読み進んで「とーんでもない話やなァ」
火の鳥の首を楼蘭王国から持ち出し「エレキテルX号」にかける事で時間巻き戻しを実現させる。
斬新ではあるが、こう何回も巻き戻しをやられるとイライラする。
タイムリープを繰り返す事で、少しづつ状況を改善して行く映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」を思い出す。
振り返ってみれば、マリアの経験した事は、この時間巻き戻しに巻き込まれた結果という事になるか。
この要造の辿る巻き戻しがマリアの記憶と連結して、ようやく先に進むという事だが・・・
もう連載一年を越えて、この四章自身半年続いている。

「一体なにノタクラやってんだよ!!!!」と叫びたい気持ち。

手塚がほとんど手を出さなかった「時間巻き戻し」を、これでもかと繰り返して文字通り「時間稼ぎ」をしている作者。
このタイムリープから早く抜け出して本来のストーリーに進んで欲しいものだ。



あらすじ  [24] 2019/10/5 ~ [35] 2020/1/4

[24] 「洗いざらい吐くのは貴様の方だ!」10/5
24の途中から
四章 東京
その1 エレキテル太郎二号
三田村要造は明治4年(1871年)日本橋で生まれた。
士族だった父は石油ランプの製造販売を軌道に乗せていたが、母が病弱で要造を産んですぐ他界。その後は父と二人暮らし。
「鳳凰機関」については1894年からの10年間を第一次と、1931年から現在まで続く第二次とに分かれる。

全ての始まりは1890年の春。
「ヨーちゃーん」と幼なじみの田辺保が手招きする。
「やぁ、タモっちゃん」と返す三田村要造はこの時19歳。

帝大の法科に進んだものの、大腸カタルで入学と同時に休学。
田辺保が気晴らしにと夜の銀座に引っ張り出した。保の胸ポケットにはペットの二十日鼠。そして保の友人の森漣太郎も合流。
「檸檬茶館」という食堂に入る。要造以外は常連。

洋装の女給が挨拶。夕顔といった。


[25] 「地図を逆さにしたんだ」10/12 
夕顔に、頬に付いたご飯粒を取ってもらい、舞い上がる要造は、彼女を好きになってしまう。当時書生の常で、天下国家の議論が始まる。
開国して37年。西欧諸国との間に交わされる不平等条約。

中国では清がアヘン戦争で英国に惨敗し、日本も安全ではない。
今の日本は荒波に漕ぎだした小舟。

若者は希望ある未来を目指す必要がある。
保が、これからの世界を制するのはエネルギーだと言った。

彼は二十歳で帝大の工科。明かり一つ取ってもロウソクから石炭、石油ランプ、ガス灯から今では電気。
森が引き継ぐ。今まで中国の影響下にあった日本だが、力関係を変えて飛躍する可能性がある。森も二十歳で帝大理科。
君は?と問われて、普通とは上下逆の地図を描く要造。

台湾、朝鮮と、樺太、北海道のルート。大陸からの侵攻の脅威・・・
病み上がりで体調が悪くなる要造。皆が辻馬車を呼ぶ。
なおも話そうとする要造。重視すべきは国防・・・

友人二人に送られて家に帰ると、父が三田村家には珍しい来客を告げた。

大滝雪之丞くん。新聞を賑わしている「大滝探検隊」の隊長。


[26] 「あばよ、おっさん!」10/19
「大滝探検隊」とは、世間のまだ見ぬ場所を旅して話題を集める冒険家集団。体調不良ながらも切れ切れに大滝の話を盗み聞く要造。
火の鳥。西太后が探し求める鳳凰。その鳥の生き血を飲むと永遠の命が手に入るという。未知のホルモン。
タクラマカン砂漠のどこかにいるという話だが、西太后は捜索を諦めた。
前回探検でその端緒を掴んだが、資金不足で断念。

スポンサーがいれば!と叫ぶ大滝。
 

翌日父に聞いたものの、資金援助したかも判らないまま大滝はいなくなり、復学して勉強に励むうちに忘れてしまった要造。

檸檬茶館には保と一緒に毎週通い「夕顔の親衛隊ね」と店の女店主に冷やかされる。

二年後、保の卒業祝いを檸檬茶館でやった時、夕顔の不在に気付く要造。
ある日夕顔の実家から迎えが来て、双子の姉が顔を怪我した事で妹を連れ戻そうとした。

夕顔は、双子が不吉と言われて、貧しい他家に追い出されていた。

迎えの者と女店主が揉めているところへ森が来て「僕と結婚しようか」という話に夕顔が乗り、彼の実家に行ってしまったという。
その三ヶ月後、祝言を挙げたという知らせが来た。一人泣く要造。

二年経った1894年。朝鮮半島で農民反乱が起き、清軍が兵を送り込んだが、国防のため日本も兵を送った。

反乱はすぐ収まり、日本は撤兵したが清軍は居座り、防衛の均衡が崩れた。そこで海軍が艦を出して警戒。
その年の春、要造は卒業して銀行に就職。

父の石油ランプ事業は下り坂になった。

ある日帰宅すると家の回りに人だかり。汚い髭ぼうぼうの行き倒れ。

巡査に知らない人だと言いかけるが「火の鳥・・」のうわごとを聞いて大滝雪之丞だと判った。
父も帰宅して事情が判明。

4年前、やはり父は大滝探検隊に出資していた。
タクラマカン砂漠を渡り、過酷な旅だった様だ。

そこで行き着いた誰も年を取らない都。
マリアさんに出会った。火の鳥を守っていた。だがその人を殺した・・・
もう、火の鳥の力なんて金輪際いらん!、と言って包みを投げ付け、走り去った大滝。


[27] 「随分、両極端な賭けじゃないか!」10/26
砂漠の廃墟で三田村要造の告白を聞く緑郎ら調査隊のメンバー。
マリアが、この男の言う事はウソだと言うが要造は、おまえは訳あって身に降りかかった出来事を忘却したのだぞ、と言う。
「話の続きを聞こう・・・」と緑郎。

大滝雪之丞が捨てて行った包み。

父に命じられて要造が開けてみると、カラカラに乾いた鳥の首。

火の鳥の首かも知れん、と言いその調査を要造に命じる父。
母校の動物学教授に話すが要領を得ない。
そんな時に爆発音。だが周囲は驚かない。

「エレキテルバカ・・・田辺・・・」という周囲の声。
現れたのは幼なじみの田辺保。卒業後官庁に入ったが、出向の形で母校に戻った。電気工学の技術開発。
月に一度は爆発騒ぎを起こすという。

部屋には自動人形も置いてあった。
訊ねた理由を話し、鳥の首を保に見せると興味を示し、しばらく預かりたいと言った保。


[28] 「ともかくこれをご覧あれ!」 11/2
家に帰って父親に、鳥の首を田辺保に託した事を話す要造。

父親は金策に忙しく、それどころではない。

月日は過ぎ、三年後の1897年。

26歳になった要造は、上司から結婚を勧められている。
父はビール製造への投資失敗で更に負債を増やしていた。
ある夜、夜逃げするぞと言って家財道具をまとめ始める父。
荷物をまとめ終わった時、あの田辺保が訪れて来た。


 

大発明!火の鳥の完成だという。
保が「エレキテル太郎二号」というそれは、四角い鉄の箱に鉄の首と頭。胴の発電機モーターの中央に、あの鳥の首が納められている。

胸に目盛り、胴にはレバー。

そして胴の両側には鉄製の羽根。
帝大工科の粋をごった煮にした電気工学のキメラ。

客間に運び込まれた鋼鉄のキメラ。父も驚く。
苦節三年、大発見をして過去への小旅行を可能にしたという。
説明を聞いても判らない親子。保はペットの二十日鼠「エレキテル太郎一号」の首をへし折り、鳥人形の目盛り動かして「さあ、一分前の世界へ」と言いながらレバーを引いた。
一瞬光が部屋を巡る。
二十日鼠はなぜか生き返り、走り回っている。
手品だという要造たちに、火の鳥が持つ限定的な過去への移動能力を説明する保。最高七年まで戻せるという。
寝言はやめろ!何がロマンだ、と罵る父に保は逆上し、エレキテル太郎二号によじ登ってレバーを引いた。


[29] 「泣いてるし、いったい何なのよ!」11/9
「不死鳥よ、飛べ!あーははは!」保の笑い声と共に鋼鉄鳥人形が翼を開く。部屋に立ちこめる煙と臭い。虹も光り出す。
ドカーン! 爆発音と共に地面が揺れた。

その2「いざさらば」
咳き込みながら起きた要造。昔の大腸カタルを思わせる不調。

父が新聞を掴んで飛んでくる。今は1890年の4月。7年前に戻っていた。最高7年まで時を戻せるという保の言葉を思い出す。
向かいの家の番犬、近所の書生、二年前焼けた筈の米屋・・・町は7年前の姿。
父が言う。

暮らしはそのまま。時間が戻った事を知っているのは俺たちだけ・・・
その時、自転車で飛ばして来たのは田辺保。「どうだぁ!」と胸を張る。
一転して保を褒める父に、あっさり機嫌を直す保。
装置の設計図をさらさらと描く保。時の本質をつかめば簡単だという。

専門知識がない要造でも理解出来た。
父が、自分だけが未来を知っている事で大儲け出来ることに気付き、妙な笑い声を上げる。
7年前に戻れた・・・ある可能性に気付く要造。
保が自画自賛している間に考える父。

また時を巻き戻そうと思ったら、火の鳥の首が必要になる。

今首はタクラマカン砂漠の彼方に戻ってしまった・・・
今日の日付を確認すると、大滝探検隊が出発した二日後。

「よし、いいぞ」と叫ぶ父。
銀座まで行き、檸檬茶館に入る要造。

夕顔が、おととい田辺さんたちと来た方ね、と言った。
涙ぐんで、あなたは絶世の美女だ、と言う言葉に大爆笑する夕顔。

こうして要造の、二回目の19歳が始まった。
復学すると、法科は学んだので次は政治を専攻。

学ぶうちに大国の植民地政策に傾倒し、我が国はアジアの覇者、大日本帝国にならねばならぬ、という信念が芽生える要造。


[30] 「君は、終身刑の愛の強奪犯さ」 11/16
要造は政治を学びながら、金曜は檸檬茶館で食事をする日常。
父は、失敗したビール製造への投資はやめて、紙巻煙草の製造販売に注力。「鬼瓦煙草」に全財産を賭けて資産を増やした。
そして二年が経ち、再び1892年の春が来た。

その日を記憶していて檸檬茶館で待機する要造。
夕顔を訪れる、実家からの使者二名。

実家は広島の旧家で代々の長子が「千里眼」を継ぐ家系。だが長子が双子で生まれ、不吉を嫌って姉の朝顔を残して夕顔を捨てた。
だが先日姉が顔に大ケガをしたので、妹と取り換えるため迎えに来たという。


 

「今度は姉ちゃんを捨てる気かい!」と反発する夕顔。
そこに颯爽と現れる制帽学ラン姿の森漣太郎。
あわてて使者と夕顔の間に割って入って、要造が結婚の申込みをしたが、彼女は気付かない。ママに教えられて「えー、要造くんからぁ?」
一回目の世界では森がプロポーズしてそのまま彼の郷里に行ってしまった。
やっぱりだめか、と思った時、森が「いい話じゃないか」と応援。
夕顔もその気になって承諾。

三田村興産の一人息子だから一応「玉の輿」
そこに田辺保が来てその話を聞き、頭を抱えて悩み出す。

二回目の世界で夕顔と学生結婚した要造。
森漣太郎は郷里の岐阜に帰り、幼なじみと結婚したという。檸檬茶館でその写真を見て喜ぶ面々の中で、保は妙に暗かったという。
翌1893年。父の事業が再び傾く。

投資先の鬼瓦煙草は、アメリカ産の葉を使った紙巻煙草に対し、国産品を使っていたが、税率軽減もされず倒産。
創業者の道頓堀鬼瓦は、道頓堀橋から身投げして死んだ。
夕顔は、話がうますぎたと言いながらも檸檬茶館でまた働き出した。

その翌年の1894年、要造は商社に就職し、夫婦で父の借金返済のために働く。
この年の初め、一回目と同じく朝鮮半島で農民反乱が起き、清軍が兵を送り込んだが、国防のため日本も兵を送った。

反乱はすぐ収まり、日本は撤兵したが清軍は居座り、仕方なく日本海軍が艦を出して警戒を続けた。

この年のある夜、父と要造は「破産寸前鍋」と名付けたアラとクズ野菜の鍋を食べていた。夕顔は檸檬茶館。
そこに訪れる田辺保。

土産と言って出された白身と豆腐を喜んで鍋に入れる父。
カッとして時を巻き戻したのは自分が悪いが、二人がやって来た事は何だ、と怒る保。親父は投資、それも失敗。息子は女の尻追い。

国の未来を語っていた君が、なぜ何もしない?
君らが改心しないなら、この火の鳥の力を公表し、君たちも告発すると言い出した保。
特に要造。本来森君と幸せに暮らした筈だったのに。

君は終身刑の愛の強奪者だと言った。


[31] 「そうはさせんぞ! 天!誅!」 11/23
君は、ある愛を盗んだんだ!と言われて身動き出来なくなった要造。
取り返しのつかない思いで告発を受け入れる要造。
保は頷き、生涯最も苦しい日だ、いざさらば!と言って立ち去ろうとする。

その時父が日本刀を振りかざし「そうはさせんぞ! 天、誅!」と保を袈裟懸けに切り裂いた。血がほとばしる。
父は更に保の腹をその刀で串刺しにした。保は絶命。
保の亡骸を抱いて慟哭する要造。

父は目を見開いて大の字に倒れている。
そこへちょうどタクラマカン砂漠の旅から帰って来た大滝雪之丞。

火の鳥が欲しくて乙女を手にかけた・・・
だが血まみれの要造を見て仰天する大滝。
涙を流しながら包みを受け取った要造は、火の鳥の首を取り出し、客間に鎮座している「エレキテル太郎三号」の箱を開けてそれを入れた。
泣きながらレバーを握る要造。

父があわてて胴体部分の目盛りを確認しろと言ったが、保を蘇生させる事だけ考えていた要造は、そのままレバーを引いた。

その3 死んでやるから 
帝大のキャンバスで目覚めた要造。

今、まだ大学生・・・ 講師に年月日を聞いて教室から飛び出す。
今は1892年11月。保の下宿で彼の帰還を待ち、ようやく会うことが出来た。胸ポケットにはペットの二十日鼠。
結婚おめでとう、と祝福する保。

鳥の力の事、一回目で夕顔と結婚出来なかった事も忘れていた保。
安心してしばらく話した後、下宿を辞したところで父が突然現れる。

父も保を探しに来たという。要造との会話を聞いていた。
「要造、貴様も気付いたか?」


[32] 「女をなんだとおもっちょる!」 11/30
時を巻き戻す前に死んだ人間は、次の世界で生き返った時、力のことを忘れている、と父が言う。

火の鳥の事も鋼鉄鳥人形の事も覚えていない保。
父は暗く笑って言う。これで火の鳥の秘密を知るのは俺とお前だけ。
父がそばに居ることで子供の様な安堵を感じる要造。
同時に保を殺した時の姿も忘れられない。

再びタクラマカン砂漠。語り続ける三田村要造を見下ろす間久部緑郎。他の者も沈黙して見守る。
マリアが、自分に八回目以前の記憶がない事を合点した。
猿田博士が問い質す。
一回目と二回目の世界は、今の15回目とは歴史が異なる様じゃ。1894年。日本は朝鮮半島で清と戦い勝利を収めた。だが一回目と二回目で日本は撤退して「日清戦争は起きていない。
要造が不気味な笑いを浮かべる。
ともあれ、話の続きを聞こう、と緑郎。

三回目の世界となって日々を必死で生きる要造。

専攻も以前とは変えた。
父は前の世界の記憶をもとに投資先を増やし、三田村興産は急成長。父は要造に、卒業後は右腕になる事を望んだ。
大滝の率いる火の鳥調査隊は既に二年以上前に出発していた。

後は火の鳥の首を待つだけ。
新たな鋼鉄鳥人形は、要造が記憶を頼りに装置部分を復元。

他は父がデザインした。
完成した「エレキテル太郎四号」は父の怪物性を反映して奇怪なものだった。

日々は過ぎたが内心苦しむ要造。

終身刑の愛の強奪者、という言葉が頭を離れない。
耐えきれなくなり、妻の夕顔に自分と別れてもっとふさわしい男の妻になってくれ、と言った。ショックで気絶する妻。
大騒ぎとなり、檸檬茶館の女主人が怒鳴り込む。
「女をなんだとおもっちょる!おケラか、虫ケラか!」
保も駆け付けて説教。僕より森君の方がふさわしいと思ったことはないか?の問いが理解出来ない保。
果ては森くんまで電報を打って来て戒めた。
自分は君にふさわしくないと思い込んだ、と妻に謝る要造。
ようやく起き上がって、自分は親に捨てられた、あんたに捨てられるなら死んでやるから・・・と言われ、二度とバカな事は言わないと言う要造。

これこそ終身刑か・・・


翌1893年の夏。父は国産煙草が斜陽になる寸前に「鬼瓦煙草」の株を全て売り抜け、別の投資に投入した。

三田村興産は急速に巨大化。商売の面白さに酔う父。
そんな時、先頃倒産した「鬼瓦煙草」の経営者、道頓堀鬼瓦が訪ねて来た。父を恨んでいる様子はない。
「やぁ、坊ちゃん。お父さまはいなさるかい?」


[33] 「お父さんを復活させなくちゃ…」 12/7
道頓堀鬼瓦は前の世界で身投げしている。

要造はあわてて父を起こしに行く。
客間に通され、三味線を重そうにして座っている鬼瓦。
自分の事を自業自得と言いながら浪花節を歌い始める鬼瓦。

神妙に聞く父と要造。
だが歌も進んだ頃「・・・この恨みぃ、忘れないぃ、・・・」と言いかけて鉄板仕込みの三味線を振りかぶり「裏切り者め!」と父の頭に振り降ろした。

そのまま姿を消す鬼瓦。
父の後頭部がぱっくりと割れて中が見える。うわごとを言う父。
三回目の世界ではだめ・・・大滝君が帰って来たらまた時を巻き戻せ。

今度は目盛りを間違えるな。
「お前に火の鳥の力を使いこなすのは荷が重い・・・お前は鳥。鳥は鳥カゴで餌を待て・・・」そう言って絶命する父。

父の死の対応に忙殺された要造。

鬼瓦は身投げしようとしたところを確保され、死ななかった。
もうこの世界で火の鳥の事を知っているのは自分だけ。

その責任に涙する要造。
保が慰めに駆け付けるが、鋼鉄鳥人形を見て驚いている。

火の鳥調査隊の大滝を待つ要造。
二回目の世界の時、保が言った「国家のために」との言葉を思い出し、記憶にある限りの日本に起こる外交問題と、その対応策を書き始めた。そして書いた文書を陸軍省宛てに投函した要造。

年が明け、1894年の正月を迎えた。
お囃子、凧揚げなどの風景の中、田辺保の家を年始に訪れる要造夫妻。兄夫婦が後を継ぎ、親戚も来て賑わう。

妻は保の兄嫁と羽子板で遊び、顔にスミを塗られて笑う。
夕刻、田辺家を辞して家に帰る途中で、後を付いて来る獅子舞いが一匹。それも一人で二足歩行。
家の前で要造が振り向くと
「三田村要造くんかね? 帝大法科大学の」


[34] 「細君の予言を報告しろ」 12/14
獅子舞いの男は陸軍大臣 大山巌。要造が陸軍省宛てに出した手紙を持っていた。その内容が、政治上の出来事の予言として当たっている、と大山は言う。
政府が火の鳥の力について知った!

一人で秘密を背負う重圧からの解放を期待する要造。
だが大山は火の鳥の事など興味はなく、妻夕顔の予言だと断定。

彼女の、広島の家系が千里眼だと調べていた。
妻は自分以外とは話さない、とその場を凌いだ要造。
大山の関心は朝鮮半島情勢。農民反乱後の清の出兵の件。

日本のみ撤兵して緊張が続く。
日本軍が撤兵しなければいい、との判断を参考にすると言って去る大山。

朝鮮での農民反乱が起き、今回日本軍は撤兵せず清の兵との睨み合いを続けた。
夏が過ぎて、日本は清と戦争を始めた。

日本に勝機がある、と要造は信じた。
だが新聞の報道に「あっ」と声を上げる要造。
大英帝国が清と同盟を組み、朝鮮に派兵。

清との戦いに疲弊していた日本軍はイギリス軍に蹴散らされ・・・
その晩、大山が押しかけ、三田村夕顔を国家招集すると言い出した。

帝国の危機。
窮地に立つ要造はとっさに「妻の言葉は僕にしか判らない。夜の睦言の時、本人が無意識に呟く・・・」
大山は納得し、この先を予言せよと言った。


[35] 「重荷なのは、夫のぼくのほう・・・?」 2020/1/4
大山巌が引き上げた後、要造は自分なりの予想で戦術をまとめ、翌日軍に提出した。
それからの情勢については、知るのが恐ろしく新聞も読まない日が続く。
朝鮮半島で敗退した日本は、清から多額の賠償金を課せられた上、英国が山東半島と遼東半島を租借地として手に入れた。

一気に貧しくなった日本。
 

日本政府からの咎めに怯える要造を訪れたのは、火の鳥調査隊の大滝雪之丞。父の死を聞いて焼香に来た。
しみじみと話し、大滝が去ろうとする時、はっと鳥の首を思い出した要造。
思い出して、首をごろっと出す大滝。

楼蘭王国で王女マリアが守っていた、とだけ言って去る大滝。
その首を早速「エレキテル太郎四号」にセットする要造。
その時、女の能面を付けた、帯刀した男が現れる。面を取ると、大山巌。
我が国を陥れたスパイか!と迫る大山。

必死に応対しながら鋼鉄鳥人形の年代の目盛りを動かす要造。

次に飛ぶならどの年代か・・・様々な考えが交錯して決まらない。

もう妻を捨てたいと思う一方で、彼女はもっと幸せになれた筈、という思い。重荷なのは、夫の僕の方・・・?
早くしろぉ! と迫る大山。鋼鉄鳥人形にまたがる要造。

そんな時に剥いたリンゴを持って来る妻。
要造の腹から暗い笑いがせり上がる。ふっ、はっはっはっはっ!
そしてレバーを引いた要造「フェニックス、フライ」