直木賞を受賞された大島真寿美さんの『渦』を序盤だけですが読ませていただいたので、今日はその紹介も兼ねて感想を述べさせていただきます。受賞のほとぼりがさめないうちに、あるいは販売促進の効果も睨んでのこと。この小説はページ総数が361ページもあって、なかなかの分量で読み応えのある作品だと思いました。私は硯、廻り舞台、あをによしまでしか読んでいませんが、それだけで浄瑠璃作者の近松半二の生涯がひしひしと伝わってきました。

 私は日本史に疎いため、こうした作品は非常にとっつきにくい印象を持っていました。もちろん、読まず嫌いです。しかし、実際に買って、手に取って読んでみると、大島さんの描きたい近松の世界がありありと表現されていました。皆さんも近松門左衛門という人物を知っているかと思います。『国性爺合戦』、『心中天網島』、『女殺油地獄』などの作品を世に送り出した偉人です。大坂の上方の浄瑠璃と言えば、この人ですよね。幼い頃に学校で習ったと思います。近松半二という人物の改名であったり、その生活や暮らしぶりが前半に描かれていました。

 大島さんの引き締まった文体、類稀な語彙、しなやかな表現…など直木賞を受賞された才能が随所に盛り込まれていました。今回の直木賞にノミネートされた方々がすべて女性ということで、女性の感性がはばたいた作品だったように思います。まさに女性活躍の現代にはうってつけの作品ですよね。大島さんが私と同じ愛知県出身ということで、親近感も覚えて読ませていただいていました。

 それでも、まだ前半部分しか読んでいませんが、作品の展開力が少し偏平足だったようにも思います。例えば、硯の部分で、半二以外にも、有隣軒や文三郎などいくつかのキャラクターが登場してきますが、場面の設定がひとつらなりで進行するため、読者の興味が息継ぎできずに呼吸困難になるケースがあったように思います。もちろん、それが悪いとは言っていません。なぜなら、ページ総数が300を超えるからです。ただ、私個人の感想としては、場面(シーン)の設定が長時間続くと、読者の興味が減少していき、やがては読書意欲をそいで、最後まで読むといったことから離れてしまう傾向があると思います。そこが気になった点かなと。

 以上のように、私は大島真寿美さんの『渦』を読ませていただいて、直木賞を受賞されたその実力の片鱗を垣間見たような気がしました。大島さんのこれまでの経験が付加されていて、その作品力にしばし心奪われ、浄瑠璃作者の近松半二の生涯を知ることができました。以前にも言わせていただきましたが、私自身が8月中旬からボリビアの女性主人公の小説を書こうとしている矢先に、こうした女性作家の作品を読めたことは大きな収穫でした。大島さんのような、こうした女性の視点が加味された作品を多く読んでいくことが必要だった私にとって、大きな刺激になり、とても参考になりました。これからも色々な文学作品を読んでいこうと思っています。そして、直木賞受賞おめでとうございます。