長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ジャッジ 裁かれる判事』

2019-09-18 | 映画レビュー(し)

時代を特定する要素がないせいか、デイビッド・ドブキン監督の『ジャッジ』はやけに古臭く、まるで90年代の映画のようだ。ひき逃げ事件で逮捕された判事である父と、反発してきた弁護人の息子。1つの事件を通して父子の断絶が修復されようとする本作は愚直なまでのヒューマンドラマだが、ここには9.11やイラク戦争といった同時代性がなく、故になぜ今日語られるべき物語なのか存在意義が弱い。プロットの脇道も丁寧に歩くストーリーテリングの御陰で142分の長尺になってしまった事も垢抜けない印象を強めた。

となればスターの演技を堪能しよう。久々にアイアンマンスーツを脱いだロバート・ダウニーJr.がキレのある反射神経はそのままに、いつにも増して熱意ある演技をしている。自身のプロダクションによる第一回作であり、情熱を傾けられる作品をつくりたいという気概に満ちたものだ。

そんなダウ兄の放つ磁場が良質の演技アンサンブルを形成している。切符のいいオトナの女が十八番となってきたヴェラ・ファーミガはダウ兄の相手役をグウィネスに独占させない艶っぽさだ。うだつの上がらない兄を演じたヴィンセント・ドノフリオも味わい深い。

注目は本作で84歳にしてアカデミー助演男優賞にノミネートされたロバート・デュバルだ。劇中でも度々ネタにされる髪の毛の量もあってか、昔から“おじいちゃん”のイメージがあった彼は本作でリアルな老いをスクリーンに刻み付けた。自身の厳格な哲学を実践してきた父親の老い…デュバル晩年の1本として後々語られるであろう重厚な名演である。


『ジャッジ 裁かれる判事』14・米
監督 デイビッド・ドブキン
出演 ロバート・ダウニーJr.、ロバート・デュバル、ヴェラ・ファーミガ、ヴィンセント・ドノフリオ、ビリー・ボブ・ソーントン
 

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