長内那由多のMovie Note

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『アナと雪の女王2』

2020-01-13 | 映画レビュー(あ)

 日本でも大ヒットを記録した“アナ雪”待望の第2弾は拍子抜けする程こじんまりとした作りだが、ディズニー映画をネクストレベルへと導く重要作だ。美しい音楽と映像、ユーモア、そして姉妹愛の物語には多くのディテールが隠されている。

 新時代の本格ファンタジーを標榜するかのような幻想的オープニングが素晴らしい。アナとエルサを物語へと誘う新曲“All is Found”を歌うのは『ウエストワールド』のエヴァン・レイチェル・ウッドだ。その歌声はかつてアレンデールの民と山奥の先住民が共存し、自然に調和がもたらされていた過去を解き明かす。しかしエルサとアナの祖父が先住民を騙して巨大なダムを作り、火水木土からなる自然のエレメントを怒らせた事で王国に危機がもたらされてしまうのだ

 2019年を語るトピックとして外せないのが環境問題に対して声を上げた若者たちによるムーブメントである。自然破壊は今なお現実を直視しない僕たち大人による負の遺産であり、本作では祖先が破壊した自然の調和をアナとエルサが取り戻そうとする。2019年は『天気の子』オリンピック後に水没する東京を描いており、製作期間が実写劇映画よりも長いアニメ作品が、次の10年において避けては通れない環境問題をテーマとした予見性は記憶しておくべきだろう。

 ここ20年弱のディズニーは自らが培ってきた性別の役割化等、旧態依然の価値観を更新すべく自虐的ともとれるセルフパロディを続けてきた(いささか時間をかけ過ぎた感もある)。ピクサーの合流後、ディズニーの経営トップとして君臨してきたジョン・ラセターがセクハラ問題によって事実上放逐された2019年、『トイ・ストーリー4』がシリーズの遺産に別れを告げ、『アナと雪の女王2』が旧来のディズニーセオリーから脱却した事は象徴的だ。特定のヴィランを排し、“入植者が先住民を騙して文明を侵略する”という環境レイシズムの普遍性1つを取っても明らかにこれまでのディズニー作品と描く深度が違う。

 前作公開時にも指摘されたエルサの同性愛、ないしアセクシャル(無性)は再び示唆されており、彼女のアイデンティティの模索が本作のもう1つのテーマとなっている。本当の自分をさらけ出す恐怖から解き放たれる終盤のナンバー“Show yourself”はまさにディズニーミュージカルの面目躍如といえる名曲であり、歌声をリードする母親役エヴァン・レイチェル・ウッドがバイセクシャルを公言しているのも忘れてはならない要素だろう。

 前作以上に細部まで作り込まれた強固な物語構造は今後のディズニー映画の顔に相応しい。次の10年代、ディズニーがどんな時代を切り開くのか楽しみだ。


『アナと雪の女王2』19・米
監督 クリス・バック、ジェニファー・りー
出演 イデナ・メンゼル、クリステン・ベル、ジョシュ・ギャッド、ジョナサン・グロフ、エヴァン・レイチェル・ウッド、スターリング・K・ブラウン
 

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