土木屋政策法務自習室(案)

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「安全かつ円滑な交通の確保」のための通行規制について考えてみた。

2019年01月19日 11時33分40秒 | 道路法

 道路管理者が行う通行規制は、道路法第46条第1項(第1号・道路の破損等の場合、第2号・工事の場合)を根拠として行います。
 このため、道路管理者は、これ以外の事象を原因とした通行規制を行うことはできないということになります。
 しかし、道路管理においては、道路の破損等や工事以外の事象に対しても通行規制を実施したほうが、結果としていっそう道路管理に有効で通行者にとっても利益となる場合が考えられます。
 以下には、通行規制の要件として「安全かつ円滑な交通の確保」を加えることについて検討します。 


 1.道路法における通行規制の規定
 道路管理者が行う通行規制(「通行の禁止又は制限」をいう)は、46条1項において規定される。

道路法(通行の禁止又は制限)
第四十六条 道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。
一 道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合
二 道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合
(注)2項(道路監理員が行う通行規制)及び3項(水底トンネルにて行う通行規制)は、ここでは論じない。

  1号の場合であれば、道路の破損等により「交通が危険であると認められる場合」と規定しており、道路構造自体の破損や道路に作用する外力によって「客観的に交通の危険状態が生じていることを要する」(道路法解説〔改定5版〕道路法令研究会編著 407頁 大成出版社)。しかし、「現実に路体が崩壊していなければ通行規制できないものでない」(同前「解説」)として事前に予測される事態も含んだ規定であると解されている。つまり、一定の降雨量を超過した場合(実際には「事前通行規制」として運用されている)や、過去の災害履歴なども危険性判断の要素となるものとしている。
 また、2号の場合であれば、車線での工事を行う場合の他、車線以外の工事であっても車線を通行する車両等の荷重を安全に支持できないような場合(路肩・法面での掘採を行う場合など)においては、「どうしても平常どおりの通行を認めることができない」」(同前「解説」)ことから通行規制を行うこととなる。

2.通行規制を行う要件の拡張の検討
 前述のとおり、1号の通行規制(以下「1号通行規制」という)を実施するには「交通が危険であると認められる場合」とする要件を満足する必要がある。
 しかし、実際の道路の通行においては、危険とはいえないが円滑な交通を妨げるような事象が発生し、交通渋滞等本来道路が有する通行機能を損ねる場合がある。
 具体的には、幅員狭小で急勾配の坂道において、冬期に路面凍結や積雪によって大型車同士のすれ違いに慎重な運転が求められるような区間では、冬道に不慣れなドライバーが坂道の途中で停止した後、スリップにより再発進ができずに立ち往生してしまい、渋滞を引き起こすような事象である。


 本来であれば、このような幅員狭小で急勾配の区間は改良工事によって解消することが望ましいが、路外に拡幅のできる余地がなく、またロードヒーティングによる路面凍結防止を行うにしても多額の工事費及びランニングコストがかかるため採用は相当難しい。
 このような事象の解決案としては、その幅員狭小で急勾配の坂道区間は対面通行とはせず、その坂道区間の手前の平坦な位置で車両が待機(停止)するような片側交互通行を行えば、比較的安価に渋滞の原因を解消することができ、片側交互通行とはなるものの円滑な交通に資することとなる他、安全性の確保にも寄与する通行規制が行えることとなる。
 このため、道路管理者が行う通行規制を、「円滑な交通」と「安全性」、すなわち「安全かつ円滑な交通の確保」のため必要と認められる場合に対しても実施できることが望ましい。
 付け加えると、「安全かつ円滑な交通の確保」は道路法においては、17条6項(管理の特例)、28条の2第2項2号(協議会)、29条(道路の構造の原則)及び47条の3第1項(限度超過車両の通行を誘導すべき道路の指定等)において用いられている用語であり、これに基づいて通行規制を行うことは道路法の執行とも齟齬はないものと考える。

3.「安全かつ円滑な交通の確保」のための通行規制と1号規定との適用範囲の比較
 1号通行規制と比較すると下記のとおり表すことができる。

 ・道路に生じた危険を回避するための規制
   ⇒ 1号通行規制
 ・道路における安全性を保持し、できる限り本来の通行機能を維持するための規制
   ⇒ 「安全かつ円滑な交通の確保」のための規制

4.さいごに
 本通行規制を実施する箇所は、交通の確保上、特に必要性が高い緊急輸送路や高速道路の代替路(いわゆる「下道(したみち)」)となる一般国道等の幅員狭小で急勾配・急カーブの区間を想定している。
 積雪寒冷地においては、一定の気象状況(暴風雪警報)あるいは路面状態(積雪及び路面凍結)の悪化によって、高速道路が通行止めとなる場合がある。この場合、高速道路と並行して位置する一般国道等が代替路として通過車両を受け入れることとなるが、高速道路より構造規格の低い一般国道等が、高速道路の通行止めとなるほどの悪条件のもとではその代替路としての十分な能力はない。
 冬季間において高速道路が通行止めとなった際に、一般国道における渋滞の発生原因としては、幅員狭小の急勾配区間における大型車のすれ違い困難及び一旦停止後の再発進不可が多く、過去からの発生箇所も把握されている。
 このような箇所において、致命的な通行不能状態に陥ることを未然に防ぐための措置として通行規制は必要であり、「安全かつ円滑な交通の確保」に対応した規定の新設が必要であると考える。

以上



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