私が考える生きる力を育む体験教育 | はかせの科学日記〜南相馬市に新しい学校を作りたい〜

はかせの科学日記〜南相馬市に新しい学校を作りたい〜

身近なものの中にある科学をわかりやすく解説します。科学に関する疑問も受け付けます。

この度、私の誕生日に際して、たくさんの方からお祝いのメッセージを頂き、大変嬉しく思います。思えば、私が南相馬市で暮らし始めてから7年が経ちました。同時に私が出来ることを仕事にし始めてから6年が経ったことになります。

 

私は6年前に、身の回りにある全てのものが学びの対象であるとする「科学」の素晴らしさを伝えるための活動を開始しました。その活動が少しずつ人々に伝わり、本日の皆様からのメッセージにつながっているのだと思います。

 

さて、科学の素晴らしさを理解するには、全てのものに「ものごとの仕組み」があることを知る必要があると思われます。そのためには、常識や定説に囚われずに、あらゆるものに疑問や疑いを持ち、自らの体験を通して納得する「学び」が欠かせないと言えるでしょう。それには一度、道具や技術から離れた「不便な環境」に身を置き、火起こしや飯盒炊飯のような、基本的なことを体験によって学ぶ必要があると私は思います。ただし、実際には私たちは、そうした不便な機会は、災害などの特別な時以外にはなかなか得られないようです。

 

しかし、ずっと昔の人類の生活を想像してみませんか?今から1万5千年ほど前から、1万2千年前までの1万3千年間という長い間、主に狩猟採集による自然の恵みを大切にしていたとされる縄文時代が終わり、その後に安定的な食料を得る「農耕」を始めたと考えられる弥生時代になった頃から、人々の間には徐々に、富や依存あるいは格差といった、現代社会の諸問題の根源が生まれたと考えられています。また、それによって、人は全てのことを自分で担わずに、社会のごく一部分を担当することで生きることが出来る、そういった時代が始まったのです。

 

人類は、その後の3千年ほどの短い間に、文明を高度に発展させ、産業革命やエネルギー革命を次々と起こし、より便利に、より楽に生きることが出来る社会を生み出してきました。

 

そうした文明の発達の最先端に暮らしている私たちはもはや、様々なことを、それこそ説明書さえも読まずにスイッチ一つで(目的の何かを)成し遂げることさえ出来るようになりました。そこに「ものごとの仕組み」例えば、電子レンジでものが温まる仕組みや、自動的に炊飯器のスイッチが切れる仕組み、洗濯機が最適な洗剤の量を見積もる仕組み、自分の位置を正確に知るGPSの仕組みなど、どれ1つとして、深い理解を必要とする機会はほとんど無いと思われます。

 

そうした長い時代を人はもっと楽をしたい、もっと豊かな生活をしたい、もっと幸せになりたい、そう思って科学を進歩させてきましたが、果たして今後私たちの未来は、さらに便利になればなるほど幸せになっていくのでしょうか。私はそうは思いません。なぜなら、先に述べたように、文明の発達は人を思考から遠ざけ、自然に生かされているという認識をさらに薄れさせる方向に進んでしまうと思われるからです。

 

ところで人はなぜ、農業体験や自然体験に感動するのでしょうか。人はなぜ、何かを成し遂げた(マラソンの完走、仕事、工作、料理など創作物の完成、かくれんぼやおにごっこなどの遊び)時に感動するのでしょうか。私は、それはもしかしたら人は、人間も動物の1種であること、つまり自然の一員であることを再認識出来る瞬間を常に求めていて、自然との一体感や動物的な達成感に触れたことに人は感動しているのではないかと考えています。

 

私は、これまでの自然科学・農業食育・環境保護・歴史文化等の地域資源を活かした体験教育活動をさらに発展させ、いずれは自然と文明(人間社会)との関わりを深く理解することが可能となる様々な教育プログラムを提供する教育機関を作りたいと考えています。

 

ようやく私も新年度からある程度広い面積の畑での農業に取りかかることが出来ることになりました。そうした意味で、畑での農業やエネルギー教育など、不十分な分野を補うために新年度は様々な活動を継続していきたいと考えています。私はそれらが「生きる力を育む体験教育」を形にするために重要だと信じているからです。