ロジャー・ウォーターズ  US + THEM | ヤンジージャンプ・フェスティバル

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昨年鑑賞した映画の感想文も残すところあと2本。

今回は昨年の11月30日に一夜限り、一回限りの上映会が開催されたこちらの作品です!

 

本作はピンク・フロイドの中心人物である、ロジャー・ウォーターズの2018年のツアーを収録したライブフィルム。

この上映会の前日にはピンク・フロイドのトリビュートバンドである原始神母のライブを観に行きましたので、二夜連続でピンク・フロイドの音楽を浴びるという幸せな二日間。

しかも、どちらも最前列という、人生稀に見るラッキーな二日間!

 

とはいえ、映画館の最前列は、実は一番悪い席だよな・・・と思いつつ。

まずはあらすじの紹介です。

 

 

【解説】
ピンク・フロイドがデビューから50周年を迎えた2017年、かつて“ピンク・フロイドの頭脳”と呼ばれたロジャー・ウォーターズは1992年発表の『死滅遊戯』以来実に25年ぶりとなるニュー・アルバム『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』をリリースしている。

レディオヘッドのプロデュースでも知られるナイジェル・ゴッドリッチを起用したこの作品は、世界中で起こっている紛争、危機、差別、環境問題、政治情勢、渦巻く不安感といったものを告発する内容で、ピンク・フロイドやこれまでのソロ・アルバム同様非常に緻密に作り込まれたサウンドスケープもあいまって、ウォーターズの新たな傑作と呼ぶにふさわしい出来となっている。
本作の発表にともなって2017年5月26日・米カンザスシティよりスタートした大規模なワールド・ツアー『US + THEM』は、2018年12月にかけて約1年半にわたり北米、オーストラリア、ニュージーランド、欧州、ロシア、南米、中南米を巡演し、156回におよぶ公演で計230万人を動員している。

巨大なLEDスクリーンを使用した壮大なスケールのショウでは、伝説的なピンク・フロイドの名盤『狂気』(1973年)、『炎~あなたがここにいてほしい~』(1975年)、『アニマルズ』(1977年)『ザ・ウォール』(1979年)といったアルバムからの代表的な楽曲とともに新曲もプレイされた。
このツアーより、2018年6月18・19・22・23日に、オランダの首都アムステルダムのジッゴ・ドームで行われた4公演から選りすぐりの映像をまとめたのが本上映作品『US + THEM』である。

2015年のライヴ・フィルム『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』でもディレクターを務めたショーン・エヴァンスが本作でもウォーターズと共同監督を務めている。最先端のオーディオ・テクノロジーで収録されたこの映像は、人権、自由、愛で綴った音や言葉で五感を刺激し、観るものすべてに強烈な衝撃と感動を与える仕上がりとなっている。
本作は今年のヴェネツィア国際映画祭(8月28日~9月7日)で初上映の後、10月2日と6日限定で、全世界60か国以上の2500館におよぶ劇場にて公開される。世界中で話題となること必至の『US + THEM』がついに日本上陸!

ここ日本では、全国16都市17か所の映画館にて1夜限定公開。贅を尽くした大規模なステージセットと息をのむような演奏を、最先端技術をふんだんに駆使した映像美で見せる、まさしく独創的で先鋭的な映像作品である。

2002年以来ロジャー・ウォーターズの来日公演が実現していないだけに、そのライヴを体感できるまたとない貴重な機会となるはずだ。ピンク・フロイドの代表曲も多数演奏された2時間におよぶフルライヴ級の収録時間ということもあり、たっぷりとその世界観に浸れるのは言うまでもない。

(公式サイトより)

 

今回の上映会。

参加した新宿ピカデリーでは上映前に音楽評論家の伊藤政則さんのトークショーがあったのですが、僕が会場に到着したころには既に後半部分に突入していて、全てを聞くことはできなかったのだけれども

「今回のツアーでの来日をいくつかのプロモーターがオファーしていたが、実現できなかった。」

とか

「今回の上映会でライブフィルムの後に、ショート・ドキュメンタリー・フィルムが上映される意味を考えてみてほしい」

などといった興味深いお話しを聞くことができて、期待値もアップ!

いよいよ劇場が暗転し、目の前のスクリーンにはライブの様子が映し出された!

 

・・・・・のだけれども、最前列ゆえの苦しみで首は痛いし、スクリーンの全貌を見ることはできないしで、少々お疲れモード。

オープニング曲である「スピーク・トゥ・ミー」~「生命の息吹」なんかは大好きな曲ですし、つづく「吹けよ風、呼べよ嵐」あたりはやっぱりカッコいい曲だよなぁ・・・と思いつつ楽しく鑑賞していたのだけれども、その後の「タイム」~「虚空のスキャット」あたりは「あれ?この曲。昨日観た、原始神母バージョンの方がすごくね?」なんて思ったりして・・・・。

そのあとの「ようこそマシーンへ」は好きな曲だから持ちこたえたものの、次に演奏されたロジャーの最新ソロアルバムからの楽曲は、地味な曲調も相まって、すみません。寝てしまいました・・・・・。

 

そんなこんな。

最前列だから首も痛いし、スクリーンの全貌を見ることはできないし、眠いし・・・で「う~む。このまま眠気と戦いつつ2時間あまりを過ごすのか」と思っていたころに始まった「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール(パート2)」。

この曲では、あきらかに子どもだな・・・という体型のコーラス隊がステージ最前列にずらり勢ぞろい。

彼らはお揃いの囚人服のような服装で、頭には布袋を被らされている・・・という、強烈な演出。

 

この子たちが2コーラス目の子どもの合唱パートを歌うんだろうなぁと思っていたら、やはり布袋を外して同じ振付で「僕たちに教育なんていらない!」と歌い始めた・・・といったあたりまでは想定の範囲内の演出。

ところが、その後の間奏部分!

おもむろに囚人服を脱ぎ捨てた子供たち。

そこには「RESIST(抵抗せよ)」の文字が書かれたTシャツが!

その瞬間、さっきまでは無表情で同じダンスを踊っていた(踊らされていた)子どもたちが、生き生きした表情で好き勝手に踊り始める!

 

彼らのそんな姿を目の当たりにした瞬間、全身が震えあがるほどの感激に包まれ、涙がジワリ・・・・。

この曲の持つ精神は、発表から40年経った今でも色褪せないのだなぁと痛感させられた、そんな瞬間だったのでした。

 

さて、大盛り上がりで演奏が終わると、ステージ後方のスクリーンには「誰への抵抗か?」「犬たち(Dogs)に対してだ」のメッセージが表示された・・・と思うと、ブザーと共に天井から巨大なスクリーンが降りてきて、客席を左右に分断。

そして、そのスクリーンが77年発表の『アニマルズ』のジャケットに使われている、バターシー発電所の形になる・・・という凄まじい演出!!

 

こんな代物が登場したからには次の曲は当然このアルバムからの曲。

支配者層を「犬や豚」と表現して痛烈に批判した「ドッグ」。

間奏部分ではメンバーがブタのマスクを被り、ワイン片手に談笑するという演出がされていて、こりゃまたすごい演出だなぁと思っていると、ブタに扮したロジャーが「豚が世界を支配している」と書かれたプラカードを持って立ち上がった・・・と思うと、マスクを脱ぎ捨てて「FUCK THE PIGS!」というプラカードを掲げる!

 

いやはや、ロジャー・ウォーターズ。

あと数年で80歳になろうというのに、世界に対する反骨精神は未だに健在だなぁと驚くと同時に、40年以上もに発表された楽曲で批判されたような連中は、世代を越えて今でも健在だ・・・という事実を突き付けられた次第。

ピンク・フロイドの音楽が色褪せないのは、こういう精神性にあるのだなぁと改めて実感させられた、そんな瞬間だったのでした。

 

つづいて演奏された「ピッグ(3種類のタイプ」では、スクリーンにアメリカの大統領が登場したり、その大統領と談笑する日本の総理大臣やら、各国の首脳の姿が映し出されたりで、痛烈にPigsを批判。

そして、その後に演奏された「Us And Them」では、そんな犬や豚たちの陰で苦しむ人々の姿が・・・・。

 

曲調こそ穏やかなものの、そこで語られているのは、「我々(Us)」と「彼ら(Them)」を分断する、戦争/貧困/飢餓への静かな怒り。

この曲が発表されてから45年以上経った今でも、世の中から争いが無くなることはなく、 富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなるばかり。

さきほどの『アニマルズ』収録曲といい、この曲といい、残念ながら世界は相変わらずさまざまな問題を抱えたままなのだなぁと改めて思い知らされていると、続いて演奏された「狂人は心に」~「狂気日食」では、客席の上に設置されていたスクリーンが取り払われて、巨大なピラミッド(プリズム?)が出現!

これまで壁によって分断されていた観客たちは、巨大ピラミッドの下でいま一つになった!!

 

いったいなんなんだ、この素晴らしい演出は。

これまでは何が歌われているかということをそれほど深く考えずにピンク・フロイドを聴いていたけれども、この作品を通して、彼らが我々に何を伝えたかったのかをようやく理解できた感じ。

昨日(11/29)までとこれから(11/30以降)では楽曲の聴こえ方が変わってくるんじゃないかと思うほどの、素晴らしい映像体験をすることができたのでした。

 

 

それにしても、この作品で映し出される観客たちの年齢層。

まさに老若男女といった感じだったのには驚いたし、全員が熱狂的にライブを楽しんでいる姿は本当に羨ましく感じました。

ロジャー・ウォーターズが来日したときとか、原始神母のライブとかでも、こういう光景が見られたらいいなぁと思わずにはいられなかったのでした。

(2019年11月30日 新宿ピカデリーにて鑑賞)