ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」

少し遅れて、話題の新書。著者は医療少年院などで働いてきた児童精神科医。タイトルや帯にあるように、丸いケーキを均等に切り分けられない子供たちがいるという事実が目を引くが、「最近の子供は学力が低下している」というようなありふれた内容ではない。著者は教育の本質的なあり方を問う。

著者によると、非行少年らには罪を反省する以前の知的な問題があることが多いという。書名にあるように、ケーキを等分できない、から、簡単な足し算引き算ができない、ごく短い文章すら復唱できない、などのケースが紹介される。これは「頭が悪い」「融通が利かない」で済まされる問題ではなく、そもそも認知能力が未発達だったり、見る力や聞く力、想像力が乏しかったりして矯正教育が通じない。

著者は、だからお手上げ、ではなく、適切な支援がなされず非行や犯罪に至ることを「教育の敗北」と指摘している。「障害」扱いされない境界知能の人は人口の十数%いるとされる。だからこそ認知能力を補い、少しでも育てる努力が必要で、小中学生の頃にそうした教師と出会えていれば、社会の中で生きていけるようになる。

教育の観点からも広く読まれるべき一冊だが、同時に、自分の認知能力、想像力が万全か顧みるために読む価値もある。ただ最後に書かれている「犯罪者を納税者に」という視点は、個々の生きづらさを解消しようというまなざしより、全体主義的な視点が感じられ、蛇足に感じた。

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