「右翼」の戦後史

安田浩一『「右翼」の戦後史』

日本の政治は、左右や保守、リベラルという軸では説明が難しい。特に右翼の思想は戦前と戦後で大きく変わり、戦後史の中でも何度も立ち位置を変えている。

国粋主義者であるはずの右翼がなぜ親米を掲げるのか。反政府の民族主義者として民族差別を嫌悪し、政治の腐敗に怒ったはずの右翼が、なぜ政権の応援団になり、少数派を抑圧する存在になってしまったのか。

近代以降の日本の右翼の歩みを、当事者への取材を重ねてまとめた労作。著者は伝統的な右翼思想には理解を示す一方、ネット右翼をはじめとする差別主義者を厳しく批判する。

1945年の敗戦と同時に壊滅した右翼は戦後、反共、反左翼の暴力装置を欲した政権の意向を背景に、暴力団と癒着して復活した。「街宣右翼」が右翼のイメージとして定着し、伝統的な民族主義者としての右翼は衰退していく。やがて親米政権を批判する「新右翼」と呼ばれる存在も出てきたが、左派の勢力が弱まると右派もアイデンティティを失い、活動は迷走し始める。

そうした中で勢力を広げたのが「生長の家」や神社本庁などの宗教右翼だった。「日本会議」は署名や地方議会への請願など地道な活動を重ね、現政権に影響力を持つまでになった。同時に「ネット右翼」と呼ばれる層が拡大し、当初は従来の右翼からは距離を置かれていたものの、今やその境界は曖昧になりつつある。

本書には、石原莞爾の側近だった武田邦太郎や、右翼によるクーデター未遂事件「三無事件」の中心人物でありながら朝鮮人労働者の供養に尽力した古賀良洋ら、愛国者の立場から差別を批判した人々の証言が収められている。その声は現在の“右”からは聞こえてこない。

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