ギャンブル依存症への保険適用

厚労省がカジノや競馬などの公営競技、パチンコやパチスロなどのギャンブル等依存について、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)での議論を経て、来年度から公的医療保険の対象とする方針とした。(*1)

これは、厚労省のカジノを含む統合型リゾート(IR)の開業を睨んだ依存症対策なのだろうが、些か早急すぎではなかろうか。ギャンブル依存保険適用関連のツイートを見ていると不妊治療などへの保険適用の要望など、保険適用の優先順位が違うのではないかと難色を示す意見が多い。

そこで、今回は、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)の報告書「ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について」の気になった部分を検証してみます。



ギャンブル等依存症と物質依存の脳内メカニズム


ギャンブル等依存症では、例えば、ギャンブルを始めたばかりの頃に大儲けする等のドーパミンが大量に放出される経験を繰り返すことで、欲求が満たされにくくなる等の脳の機能の異常(報酬系の感受性の低下)をきたし、欲求を満たそうとギャンブルを反復する。(*2)

行為依存(行動嗜癖)の脳内メカニズムで、ドーパミンがプロセスを強化するのであれば、脳内メカニズム的には、人を本気で好きになったりした時や、事業や投資などでもっと儲けようとする時や、趣味に夢中になるのと何ら変わらないのではないか。然すれば、行為依存(行動嗜癖)は、元来、人に備わっている機能ではないだろうか。

因みに、私にビギナーズラックは降臨せず、パチンコを始めた当初は負けている。のめり込んだ理由を探すと、「とにかく面白くて、あわよくば、金が儲かる」、これに尽きる。その当時に、パチンコ・パチスロ情報誌をコンビニで見つけて情報収集しなかったら、負けた金額はもっと増えていただろう。


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報酬系の異常で意思決定に支障が出る

ギャンブル依存症者の脳機能の異常
出典・ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について(総ー3「外来(その3)(かかりつけ医機能、その他)」) | 中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)

また、報酬系に異常が起きることで、ギャンブルにより得られると期待される報酬の予測にも異常をきたし、例えば、”ギャンブルをここで止めよう”といった意思決定に支障が出る(*2)

意思決定に支障が出るというが、日本のギャンブル依存のメインである、パチンコやパチスロの確率論(独立試行や期待値等)の知識を前提にした行動(遊技)を、初めから正確に認識していても、意思決定に支障が出るのかと疑問に思う。

それは、感情的な予測の意思決定と、数式で計算した期待値を用いた論理的な意思決定では、意思決定に明確な違いがあるからである。取り返そう(儲けよう)とギャンブルをするのに、論理的に負けるのを理解していても支障がでるのだろうか。例えば、遊技中に、「終日遊技して期待値がマイナス2万円」、と判明した場合などではどうだろうか。

カジノはほぼ全てのゲームで「試行回数を重ねる程」負けるが、パチンコやパチスロは台毎の店側の設定によって、1日単位で「試行回数を重ねる程」勝てる台と「試行回数を重ねる程」負ける台が明確に分かれている。

パチンコは釘によって(パチスロは出玉率を最大6段階の設定によって制御している。設定の高低の判別やその精度は機種による。)、勝てる台と負ける台を明確に判別できる。


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ギャンブル依存症の診断方法

そもそも、海外から輸入したカジノをベースにした診断方法では、パチンコやパチスロがメインの日本での運用に適していない。

例えば、「時間や金額を決めてやる事ができない」は、カジノではほぼ全てのゲームで「試行回数を重ねる程」負ける(期待値がマイナス)という前提や、24時間営業という前提があるので正しいのだろう。

しかし、日本のパチンコやパチスロでは、期待値がプラスの「試行回数を重ねる程」勝てる台であれば、やればやる程に勝てるので、「時間や金額を決めてやる事はできない」。「時間や金額を決めてやる」と勝ち金を大幅に減らしてしまう。

他にも、「負けを取り戻さなければ」「もっと勝ちたい」という設問も、ギャンブル依存症という前にギャンブルの仕組み、「なぜ勝てないのか?」を理解するのが先だろう。この設問で「ギャンブル依存症が発症した」と診断するのは些か滑稽である。

ギャンブルでは投資に対しての指標(期待値)があるが、そのような指標がある事を認識していない設問自体が間違いである事を、医療側が認識していないのではないか。新しい診断方法を開発するべきである。期待値などの確率論の理解度は、回復に重要な意味があると確信している。


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健常者群とギャンブル依存症郡

アルコールが脳を萎縮させたり、違法薬物(覚醒剤)であれば、5HTT(セロトニントランスポーター)が健常者より減少していたり、ドーパミンD2・D3受容体が機能不全に陥るなどがあり、物質による不可逆性があり、健常者との差が有意である事は理解できる。

健常者郡の内訳が判らないのだが、ギャンブル依存症郡特有であり、その行為によって依存や機能低下が起こるのであれば、その行為自体に興味があるかどうかが重要ではないだろうか。ギャンブルについての問題の無いヘビーユーザーやライトユーザーらの、同一行為を行っている「健常者郡」を加えて比較した方がよいのではないか。

また、ギャンブル依存症発症以前と以後の、同一人物の縦断的な調査がなければならないはずである。これでは、そのような個人の資質が元来あったのか、ギャンブルによって機能異常になったのかが判らないからである。ギャンブル依存症というとギャンブルをやると誰もがなるというイメージだが、実際にはそうではない。

この比較によって、機能異常や併存障害や金銭問題などと、ギャンブルとの因果関係などが導き出されるのではないか。



世の中で失敗する人達

ギャンブル依存で報酬の予測を見誤るクラスタと、事業や投資で失敗して人生が破綻するクラスタは、その対象が違うだけで、脳科学的には同一傾向なのではないだろうかと、素人ではあるが推測してしまう。この人たちも成功する確率(報酬の予測)を甘く見ているのだろうか。

このような人達が存在するのであれば、「報酬の予測に異常をきたすのはギャンブル依存症特有である」というのは間違いではないかと疑問符を付けざるを得ない。事業や投資など何かに失敗した人と比較すると検証できるのではなかろうか。

ギャンブルは投資額に対する期待値が正確に算出できるので、「報酬の予測」という調査では無く、期待値を正確に認識していても、ギャンブルを続行するか否かの調査の方が現実的ではないだろうか。


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ギャンブル依存症は不可逆的ではない

ギャンブル依存症の直近1年以内の数字を考慮すると、不可逆的ではなく、ギャンブルへの興味が消費し尽くされた時に、可逆的である可能性、もしくは、人間の機能として脳をセルフコントロールしているのではないだろうか。

行為依存(行動嗜癖)では、その行為が偶然に依存の対象になっただけであったり、依存に至る個人の資質(精神疾患:発達障害やパーソナリティー障害)や、環境要因があった可能性を否定できない。

これが保険適用のエビデンスとなるのであれば、パワハラなどで強烈なストレスを受けた被害者が、それ以後に鬱になりやすいというエビデンスで、加害者を傷害事件の刑事罰の対象としても良いのではないか。

閑話休題。保険適用するのであれば、京都大学准教授・高橋英彦氏の2010年の研究(低い当選確率を高めに見積もるワクワク感に脳内ドーパミンが関与予測を見誤る研究(*3))などによって、新薬開発などの完璧な回復方法が確立なされた時ではないだろうか。

私の主観では、この研究は日本国民、ひいては世界中の人々の、クオリティオブライフ(QOL)を高める為の重要な研究であると確信している。



ギャンブル依存症の予防の提案

期待値を認識していて放縦にギャンブルを行わないのであれば、確率論(期待値や独立試行、大数の法則)を小学校のプログラミング履修時ぐらいから教育するのが最適ではないか。これは、プログラミングを教育に導入して論理的な思考を育成するのであれば、確率論の教育も論理的な思考を育成できるはずだと考えられるからです。



ギャンブル依存症に対する認知行動療法と確率論

ギャンブラーズ・アノニマスとの比較
出典・ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について(総ー3「外来(その3)(かかりつけ医機能、その他)」) | 中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)

ギャンブル依存症に対する認知行動療法の効果を検証した25件の系統的レビュー及びメタ解析論文によると、認知行動療法はギャンブル行動を減少させることに有効であり、効果量は6か月、12 か月、24 か月の追跡期間において有意であった。(*2)

先述の通り、カジノは「試行回数を重ねる程」負けるが、パチンコやパチスロは、1日単位で「試行回数を重ねる程」勝てる台と「試行回数を重ねる程」負ける台が明確に分かれており、ギャンブルの質が違います。

この事実を踏まえると、カジノなどでは、賭け金に対しての期待値が常にマイナス(例外有り)という事実を理解させる事と、パチンコやパチスロでは「勝てる台の時は長時間、負ける時は短時間の試行」という定石の基となる知識、確率論(独立試行・期待値・大数の法則)を理解させる事も取り入れるべきです。



ギャンブル等依存症に対する集団療法プログラム

ギャンブルの検証結果
出典・ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について(総ー3「外来(その3)(かかりつけ医機能、その他)」) | 中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)

断ギャンブルの継続率は、プログラム終了後1カ月時点、3カ月時点、6カ月時点のいずれの時点においても介入群が対象群よりも高かった。
また、直近1カ月間のギャンブルの平均回数及びギャンブルに使用した金額について、プログラム終了後1カ月時点、 3カ月時点、6カ月時点のいずれの時点においても介入群が対象群よりも低かった
国際的な研究等において、ギャンブル等依存症に係る治療効果を測定する場合には、ギャンブルの「頻度」と「使用した金額」が指標として使われている。(*2)

確率論の理解があれば、期待値で勝てる台(勝負)が極端に少ない(もしくは全く無い)事に気付く。確率論の理解が無ければ、リラプス(スリップ)が反復するのは容易に想像ができる。

然すれば、「直近1カ月間のギャンブルの頻度」や「直近1カ月間のギャンブルに使用した金額」は、時間の経過と共に次第に減少し、論理的な理解の基にコントロールされたギャンブルであれば、「断ギャンブルの継続率」という項目はあまり意味は無くなる。

そもそも、「ギャンブルを止めなければいけない」という前提条件が間違いである。

また、今回の厚労省の標準的治療プログラムの検証結果では、「直近1ヶ月間の使用した金額」という項目で、還元された金額を差し引かれたのかが気になる。還元された金額が含まれていないのであれば、還元率を低めに80%と仮定しても、介入郡は「平均11,235円の負け」対照群「平均24,299円の負け」となる。

私の主観では十分に趣味の範囲の金額であり、これで依存症なのかと疑問符を付けざるを得ない。



強迫的ギャンブルと12ステップ

12ステップは、1920年代に「キリスト教の信仰を持つ事で断酒に成功した」という体験を基にした、自らが無力であることを認め、自身よりも大きな力(ハイヤーパワー)に助けられて回復するという信仰療法である。

飲酒と断酒を繰り返して底つきを経験する事は、自らが無力である事を認識する為のものであるという。そして、ハイヤーパワーの助けが必要だと信じなければならないという。

これが、ギャンブル版では、「絶対に一生治らない」「絶対にやってはダメ」「ハイヤーパワーを信じなければならい」と、洗脳的で禁欲的でカルト的でありますが、それが一定の効果がある事を否めません。

しかし、これは、カルト的洗脳手法で効果を生む一方で、その手法には当事者との相性があるのも事実である。一生治らなくもないし、絶対にやってもダメではない。クオリティオブライフ(QOL)の観点で捉えると、私には抑圧的に映る。

また、回復施設であるワンデーポートでは回復率が20%台と低く(*4)、ギャンブラーズ・アノニマス(GA)との「ギャンブル依存症に対する認知行動療法」の比較においても有意な差がある。

厚生労働省の2017年のギャンブル依存症の調査ではギャンブル依存症が疑われても約77%が回復している。このような検証結果から12ステップはメインストリームには成り得ない。ここで疑問も生じてくる、約77%が回復しているのに、保険適用は必要なのだろうか。



ギャンブル依存症ビジネス

適当に遊技したい時間に行って、適当な台選びで、適当に遊技して、満足したら適当に帰る。問題を抑える遊技方法や理解すべき知識があるのに、パチンコやパチスロの定石に外れた、確実に総計で100%負ける方法の遊技で問題が起こると「ギャンブル依存症」という。

ギャンブルにある程度精通している側から見ると、それを受け入れる思考停止した日本社会には、呆れる以上の言葉でしか形容できない。問題を抑える遊技方法や理解すべき知識があるのに教えない。これを「ギャンブル依存症ビジネス」と言わずに何と言うのだろうか。

医療側から見ると、問題を抑える遊技方法や、理解すべき知識を教えてしまうと、ギャンブル依存症が減る事で利益が増えずにパラドックスになる。ギャンブルの根幹である、確率論を無視したギャンブル依存症や、強迫的ギャンブルの定義は、悪い意味でのレガシーであり、利的である。

しかし、昭和のような一方通行なマスメディアだけの時代では無く、オーディエンス側からも情報発信が可能であり、利的な「大人の事情」をオブラートで包める時代では無い。「大人の事情」が罷り通り、国民が不利益を被るのであれば、それはまさに、日本の没落を垣間見ている瞬間である。

私達はインターネットにより、時代の分岐点に立ち会っているのであり、この選択を誤ってはならない。

厚労省から支援助成をされている、公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会田中紀子氏の、全てをギャンブル依存症に結びつけるツイートや、ギャンブル依存症簡易チェックツール「LOST」などは、利権をビジネス化する為に問題を誇大化する欺瞞工作に映る。


(*1)参照元・ギャンブル依存症治療に保険適用へ…集団治療プログラムなど対象 | 読売新聞オンライン
(*2)引用元・ギャンブル依存症に対する集団療法プログラムの効果について(総ー3「外来(その3)(かかりつけ医機能、その他)」) | 中央社会保険医療協議会(厚生労働省の諮問機関)
(*3)ギャンブル依存症の神経メカニズム -前頭葉の一部の活動や結合の低下でリスクの取り方の柔軟性に障害 - 京都大学・高橋英彦氏ら
(*4)12ステップをやらないと回復できないのか? | 一歩(ワンポ)通信~ギャンブルに依存している人の支援について日々考えるブログ~ ワンデーポート