長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

逢着

2019年10月19日 09時19分39秒 | キラめく言葉
 列島を蹂躙して台風が去っていった翌朝、目張りをした玄関を恐る恐る開けてみたら、よく知った懐かしい香りが私の鼻先をくすぐった。
 今年初めての金木犀であった。

 季節はめぐる。時もめぐる。

 先頃ノーベル化学賞を受賞された吉野彰博士が、インタビューの中で座右の銘を「ざう の めい」とおっしゃっていた。
 おお!! と私はとてもうれしくなった。
 小学6年生の時の国語の先生が、「昔は“ざう”の銘といったのだけれど、この頃違ってきたのかしら…」と、おっしゃっていたのを、子供心に刻み付け、何かしらのインタビューのたび、マスコミの方々の「ざゆうのめい」という言葉が、ずーーーーーーーーーーーっと気になっていたからだ。「ざゆう」と聞くたび、その違和感に悩んでいたのだ。

 秘かに始めたい ♯座右の銘をざうのめいと呼ぶ運動。

 昭和の学生というものは、語彙が豊富な人に憧れていて、ボキャブラリーを増やすのに日々腐心していた。
 一国の文化度を測るに、専門書が数多く自国の言葉で刊行されている、というのが20世紀に言われていた指標であった。
 21世紀の今日、我が国の趨勢をかんがみるに………かなしいですね。

 さて、言葉の知識を増やすのに、友人に教わったのが、毎晩、夜寝る前に辞書を適当なところで開けてみる、という方法。
 マジシャンの先生方が、無作為にトランプを開いてみる、のと同じ行動(少し違う?)。
 そして、開いた見開きの全頁を(2ページ分)読み、知らない語はノートに書きだして覚える。
 …ということでした。

 毎日はできなくとも、朝のランニングを三日坊主どころか1日でやめてしまう私には珍しく、ずいぶん長いこと、それは習慣化されて、今でも夜更けに辞書をあてずっぽうに開いて読んだりしております。
 なかなか楽しい。知らないことは世の中にいくらでもあって、新鮮な驚きに廻り合えます。

 夕べ、明日のキーワードにめぐり逢うべく、ぱっと国語辞典を開いてみましたところ、知らない言葉がありました。
 【ぼうぞく】
 矢印が、【ばうぞく】を引け、と指示しています。いかにも歴史的仮名遣いっぽい……
 ワクワクドキドキして、さらに引いてみると……古語にて、「下品な様子、無遠慮なさま」とありました。

 これでは今一つ納得できないので、さらに古語辞典へ。
 「放俗」また「凡俗」の転訛らしいことが判明。
 用例として源氏物語の蜻蛉が引かれておりました。
   …人多く見る時なむ、透きたる物着たるは、はうぞくにおぼゆる…

 古語なのに、21世紀の現代、街なかで日々そう譬えたい目に遇うのは不思議です。死語ではなかった。


 二次元の世界から戻りまして、家元の唄稽古、新シーズンのお知らせです。
 ご好評いただいております全くの初歩の方々向けの、
  本日13時より下北沢稽古場にて、「宝船」コースが始まります。
  ♪長き夜の 遠の眠りのみな目覚め…波乗り舟の 音の良きかな
 回文が読み込まれている歌詞の、本稿でもしばしばご紹介している曲です。

 お正月の余興に一つ、和モノの芸を…と目論んでみるのもいかがでしょう。
 たのしいですょ♪

 中級以上の方には、同日17時よりの「秋の色種(あきのいろくさ)」コースが始まります。


 話は戻りますが、同じアトランダムに引いたそもそものページに、逢着(ほうちゃく)、という言葉がありました。
 出会うこと、出くわすこと、行き着くこと、というような意味ですね。

 長唄との出会いが、皆さまにとっての宝鐸(ほうちゃく)ともなりますことを祈りつつ………
 
 
 

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