長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

sunみつ

2020年08月21日 09時55分01秒 | 近況
 …拝啓 外出を思い切るにはちょうどよい暑さの夏も過ぎようとしております…

 思案投げ首、新たなる職探しをも視野に入れて日を送る、若き芸能者の消息も伝え聞かれる令和二年、春、そして夏。
 自分のことで何かと物要りでありましょうに、盆暮れ正月、欠かさずお心尽しのご挨拶を下さる、律義なお弟子さんへの御礼状をしたためておりました。

 なんだか妙にやせ我慢というか、向こう意気というか、存外自分らしい時候のご挨拶が書けてしまったので、勢いづいて新暦八月になってからこの方、開けてもみなかったパソコンを開いてみました。
 人間は暑さに弱いものでござんすね。
 こう立て続けに自分の体温とそうそう変わらぬサウナに入りっぱなしの状態で日々を過ごしておりますと、脳内が混濁してまいります。
 太陽が濃密、略してsunみつ。
 南の島に行ってぼーーっと太陽が磯の汀の彼方に沈んでいく様を見暮らしても、それで万事OKな気も致します。それでも絵をものしたゴーギャンは偉大だなぁ…
 人生は、死ぬまでの暇つぶし…とおっしゃっていたのはどなたでしたっけね。
 弱気な肚とは裏腹に、自分でも思いも掛けぬ大胆不敵なことが口から出てしまう、負けず嫌いな談志師匠だったかしらん。

 亡き談志の前名を襲がれた柳家小ゑん師匠(私が寄席通いをしていた昭和末期、新作派としてプラネタリウムで寄席をなさったりした新進気鋭の落語家さんでした。現在もジャズ通と電気機器・鉄オタ…etc.に磨きがかかり、数年前、池袋演芸場でアキバぞめきを拝聴、堪能いたしました)が、SNSで彦六の正蔵師匠のご本『噺家の手帖』の噂をなさってらして、やれ、懐かしやと、検索してみたら、なんという便利な世の中でしょう、翌日には手元に実物が届いたという、通販流通業界の皆さまの日々のご苦労に頭が下がります。
 古本屋通いを日課としていた20世紀中の自分には想像もつかぬ今日の有様…。
 街に出でて何かしらを探す作業が愉しかった時代を経て、一か所に引きこもり自分の来し方行く末人生のありていを掘り下げる作業に没頭する、人間、逆境もすべからく天国となり得ます。

 さて、1982年3月、彦六師匠が亡くなられて間もなくに一声社という版元からこの世に送り出された御本を手に取り、“芸人の意地”という一話目から滂沱の涙を禁じ得ませんでした。引用させていただきます。

  ……根性と云ってもよいし、心意気と云ってもいいのだが、芸人に意地ッぱりな背骨がとおっていても世渡りに不都合はあるまい。
  自分の田に水を引くようで恐縮だが、私のように才覚のない金に恵まれない噺家が、一生涯じぶんで建てた家に住めず借家で命おわったとしても、たかが寄席芸人だという意地ッぱりな背骨がモノを云って他人が憐れむほど当の私は悲しんではいないのだ。
  寧ろ名誉だとさえ思っている。
  今を時めくTVラジオの定連である若手落語家〈主として咄しでない番組の人気者〉の真似をせずに己れの境地を認識して本当の咄しに精進して行こう〈古典落語というと兎角せけんでは、ただ故人の糟粕を無条件でナメているという解釈だが間違っている〉と貧乏に堪えて生きている若人も私の周囲には多数いる。この人達こそ真に芸人の意地ッぱり立派な背骨を持っている者だといえると思う。
 (1967年初出)

 感涙にむせぶとともに、このように素晴らしい文章は、誰かにもっと読まれるべきである、広めなくてはならない…という生来のそそっかしさと義侠心で皆様にご紹介したかったのであるが、春先中止になった演奏会の代替に、急遽9月に舞踊連盟さまと合同公演をしなくてはならぬ事態となり、時間もさることながら灼熱に痛めつけられた体力もままならぬ。
 昨日までで、やっと120ページほど読み進めたのであるが、鼻濁音の衰退や、マスメディア・政治の堕落に対する意見などなど、つねひごろから自分も痛感する事柄で、果たして55年前の随想であろうか、と驚くほど、世の中は変わっていないのである。

 至極もっともだと、ただただ共感してしまう、ともすれば多分に昔気質である考え方。
 彦六の正蔵師匠の異名・トンガリから改めて拝察するに、マイノリティなリポートを書かずにはいられないお人柄は、やはり世間では少数派なのであろうか。

 しかししかし、彦六師匠のご子息・花柳衛彦先生という、日本舞踊界のすばらしき才能を生み出したことこそ、ハコモノではなく優秀なるソフト、無上の文化的所産ではないかと、私は思うのだ。


        *     *     *


 そんなわけで、文体各種入り乱れておりますが、9月6日日曜日、吉祥寺駅前の武蔵野公会堂にて正午より、武蔵野市民芸術文化協会自主イベント、和を紡ぐ邦楽と舞踊 が、ございます。
 三密にも充分留意の上、令和元年まで行われていた公演とは趣きも異なりまして、観客の皆さまのご協力を頂きながら、舞台を勤めさせていただきたく存じます。
 
 また改めましてご案内いたしますが、番組中に、童謡「紙にんぎょう」から着想を得ました杵屋徳衛作曲作品「Paper Doll」に、新たに衛彦先生が振付して下さり、お弟子様が立方を勤めてくださることとなりました。
 地方は徳衛社中(協力・武蔵野邦楽合奏団/わたくしも参じます)にて、お贈りいたします。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。

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