変な男の子だった。

痩せてて 真っ白い顔をしている。

髪の毛も茶色で くるくるカールしてる。

本当に 外人みたいだ。

だぶだぶの シャツ。

ぶかぶかのジーンズ。

大きな足ははだし。

じろじろこっちを見ている。

 

「まあ、睨み合いはそれぐらいにして、

 胡麻団子をたべない?」

 

あの、明日香さんというおばさんが言った。

暖簾をはねて 向こうへ消えて

すぐまた、お椀を三つお盆に乗せて戻ってきた。

 

「本の部屋で食べる」

 

男の子が言う。

 

「だめ。

 あそこは本を読むだけの場所。

 食べないの?」

「食べる。

 でも、その子とは食べたくない。」

 

明日香さんは テーブルをさっさと拭いて

お椀を 並べると

食器棚から 小さいお急須と湯飲みを三つ出して

また台所へ消えた。

すぐに 出てきて てきぱきと

薬缶や茶筒を揃える。

椅子を一つひいて すとんと腰掛け

お茶を淹れ始めた。

 

部屋中に 香ばしい胡麻の香りとほうじ茶の香りが広がって

類は 思わず明日香さんの方へ近寄ってしまった。

明日香さんは知らん顔で 湯飲みに

茶色いお茶を注いでいく。

 

お椀の中には 白くて丸いものに

黒くてとろっとしたものが 掛かっていた。

これが多分『胡麻団子』

 

類のおなかの 真ん中あたりが

ぐうっとへっこんで、ぎゅるるっと音がした。

明日香さんにも聞こえたんだろう。

 

「座って。」

 

すとん。

 

「本当は、手を洗ってほしいけど、

 類さんは ダンテと似てるから

 わたしの言うことは聞かない気がする。」

 

ダンテがなにかもわからなかったけれど

類は こくんと頷いていた。

 

「だから、これを食べて、飲んで。」

 

すごく 良い匂い。

でも、知らないひとから 物をもらっちゃいけないと

ずうっとまえに、お父さんがゆってた・・・。

 

明日香さんが じっと類の目を見てる。

明日香さんも 変な顔。

白髪でお化粧してなくて 

おばさんだけど、若い方のおばさんなのか、

お婆さんの方のおばさんなのか、よくわかんない。

瞼も唇も薄い。

眉毛も薄い。

鼻が細くて、顎はとんがってる。

 

にいい。

 

急にその薄い顔が動いて

歯が見えた。

ゆっくりとした動作で

お椀の中のものを 食べて見せる。

 

「・・・美味しいのに。」

「明日香さん、魔女の婆さんみたいだ。」

 

男の子が、縁側に立ったまま言う。

類のお腹が また音を立てた。

 

「・・・食べてもいいのに。」

 

はきだし窓の向こうは 荒れた庭。

でも、そこから 透き通った日の光が差し込んで

ほうじ茶の湯気が 白く揺れて見える。

 

 

類は 思い切ってお椀を引き寄せて

銀の匙を突っ込み 白くて丸いものを口に入れた。

 

ふわふわで つるつるで 甘くて 渋くて でも・・・

 

「美味しい。」

「でしょう?」

「ずるいぞ。」

「おいで。」

「いやだ。」

「ご勝手に。」

「明日香さん、ばか。」

「わたしは、馬鹿ではない。

 だから、章介は、今失礼なことを言った。」

「オラは、

 失礼だった?」

「うん。」

「失礼な時は、

 謝るの?」

「そう。」

「・・・ごめんなさい。」

「はい。」

 

 

変な、

二人。

変な、しゃべり方。

 

類は、もう一個胡麻団子を食べる。

噛みしめると 胡麻の味が甘じょっぱい中から

じんわりと 浮き上がってくる。

目を閉じて 味が お腹の中へ納まるのを感じてみた。

 

目を開けると やっぱり明日香さんがじっと見ている。

 

「類さんは、友達はいないよね。

 でも、全然平気なんだね。

 だから、学校へ行かないの?」

 

なんだろう?

なんで、こんなこと聞くんだろう?

 

「大丈夫。

怒ってない。

叱りもしない。

興味があったから、聞いてるだけだよ。」

「学校は、嫌いだから行かないんです。」

「そうか。」

「友達は、欲しくないです。」

「ふうん。」

「・・・欲しくない。」

「そう。」

 

「オラは 友達いるぞ。」

 

急に男の子が 横に立っていた。

びっくりした。

 

「お前と 友達になってやろうか?」

「いやです。」

             つづく。