週末、ドライブばかりしている。

さすがに、大人になった家族が

小さなマンションで 週末ごとに

鼻突き合わせていては、ギスギスもする。

オットとも なんだかんだと 

文句ばかりが多くなる。

 

本当はこんな時は

一人で美術館に行っていたものだけれど、

都心の感染者数の上昇を見ると

ますます足が遠のいてしまう。

 

喧嘩してるオットと

ドライブに行くぐらいしか

出来る事がない。

 

車中、無言。

 

目当ても無いから

相模川を目指してしまう。

曇天から 大粒の雨が降り注いで

中年夫婦の沈黙を

外側から包んでくれる。

 

コンビニに立ち寄って

コーヒーとサンドイッチを買って

車中でぱくつく。

 

もさもさして美味しくもなんともない。

 

お互いの、立場とか、

相手の気持ちのありようも、

わかっているけれど、

どうしても、優しくなれない二人なんです。

などと、

胸の中でつぶやいていたら、

向かい側の道路沿いの大き目の看板が目に留まった。

 

「川魚料理 飄緑玉」

 

あまりパッとしない看板だったのだが

書き添えられた文豪も訪れた老舗、

の一行が気になった。

 

「文豪って誰だろうね。」

 

オットが40分間の沈黙を破る。

 

本当かね?

こんな 田舎に文豪来るかね?

文豪って綽名の

おじさんかおばさんだったりしてね。

 

「行ってみる?」

 

だって、今サンドイッチ食べたところだし。

 

「行くだけ行ってみようよ。」

 

長雨をたっぷり吸い込んだ森を抜けて

細い坂道を下ると

ふいに ひらけた景色は

豊かな水田地帯。

湧水のとどろきが、

いけすに流れ込み

鱒が腹を見せてひるがえる。

 

たった一軒建っている建物が

その店だった。

暖簾は出ているけれど、

人の気配がない。

 

外に出ている品書きに

抹茶のかき氷があった。

 

「偵察もかねて かき氷を食おう。」

 

とオットが入っていくと、

広々とした店内には誰もいなかった。

それでも、店員さんが奥から出てきて

いらっしゃいませと 言う。

 

DSC_0330.JPG

すてき。

 

眺めのいい席に通され

けっきょく、少し食べようと言うことになり

名物の アユの甘露煮の丼と

鱒の唐揚げを頼む。

 

鴨居にかけてある古い写真には

文豪が、確かに写っていました。

 

川端康成先生。

 

疑ってごめんなさい。

 

隣におっさんの集合写真があるなーと思ってたら

なんと、田中角栄先生だった!

まあ~、しょの~~。の角栄!

 

田舎の店とか言っちゃダメなとこでありました。

 

DSC_0326.JPG

窓からの眺め。

稲を分けて 風が走ります。

 

雲が早い・・・。

 

1594447283706.jpg

地味なお皿に乗っかって来た

この名物が 旨かった!!!!

一瞬気を失いました。

美味しくて。

 

旨いか?と問うオットに

目玉だけで旨い旨いと答えて

半分あげると

オットも 旨い旨いと目玉で答える。

 

_20200712_082316.JPG

甘露煮の丼。

この、横についてる味噌汁も

腰が抜けるぐらい旨い。

 

顔を見合わせ

にこにこと

食べ物を口に運んでいるうちに

家庭内の問題も

夫婦間の引っかかりも

どうでもいいやっという気になった。

 

本当は

どうでもいいことなんか

ないんだけれど、

さっきまで、向き合う勇気や

解決する根気が失せかけていたのね。

 

滋味は、力。

 

噛みしめるごとに

楽天的な気分が戻ってくるのが

わかりました。

 

世界に起きてる事が

小さなワタシの家庭にまで影を落とす

恐怖・・・。

 

怖くない。

命を食べてるワタシは

生きているワタシ。

 

生きていれば

なんとかなるさ!

 

突然、そう言うワタシを見て

訳も分からず

オット頷く。

 

 

 美味しいものは

 大切だね。

 

風のみちを 登って

家に帰りました。