お姫様は グリーシの腕の中で身じろぎし

目を開けました。

グリーシは 慌てて姫から離れて

立ち上がりました。

月明かりの下で 青ざめたままではありましたが

お姫様の なんと美しい事。

 

お姫様は 戸惑った様子であたりを見回しています。

 

「ご心配なさいますな。

あいつら、行ってしまいましたよ。

あんな悪者といるより、わたくしめと

一緒に居る方が ようございましょう?」

 

思い切って 話しかけても

お姫様は 何の返事もなさいません。

きっと、まだ、姫様は 心が乱れておられるのだ。

グリーシは そう思って言いました。

 

「むさくるしい所ではございますが

今夜はわたくしの父の家にお泊めいたしましょう。

なんでも 御用をいいつけてください。

なにもかも、おっしゃる通りに居たしますゆえ。」

 

お姫様は まだ、黙っています。

風に金の髪を吹き乱され、見上げる瞳には

大粒の涙。

 

その目を見ると 若者はまた、

息苦しいようになって言いました。

 

「おお、姫様、なんなりと お申し付けください。

わたくしは、あの性悪な

小人たちの仲間ではないのですよ!

正直者の百姓の息子です。

考えなしに 小人たちに付いて行ったまでの事。

あなた様が お国に帰りたいと仰るならば

どんなことをしても、その道を見つけ

お父上のもとへ、お送りいたします。

どうぞ、お望みの事を 仰ってください。」

 

お姫様の 赤いくちびるが、何か言いたげに

動きはするのですが、やはり何の言葉も出てきません。

 

「まさか、本当に言葉を無くされたとは思えません。

だって、今夜 あなた様は あの王子様と

言葉を交わされていたではないですか。

わたくしは 確かにあなた様のお声を聴いたのです。

本当に、あの妖精小人に 

呪いをかけられたのですか!」

 

お姫様は 白い手を持ち上げ

指先で 桃色の舌に触れて

自分は 声を無くしたのだという

仕草をしながら

ぽろりぽろりと 涙を流し始めました。

グリーシも 一緒になって泣き出しました。

 

無鉄砲な若者ではありましたが

グリーシは 心根の優しい男だったのです。

美しいお姫様が このような苦しみに

見舞われたのを見ると

自分も 苦しく 悲しくなってしまうのでした。

 

 

              つづく。

 

 

 

やーー。

母性本能

くすぐられまくるシーンでございます。

そらまめ、泣き虫男子は

ちょっと苦手だけど

このシーンはすき。

自分のためではなく

相手に寄りそう優しさがたまりませんね。

どうするの?

グリーシ!