三十代前半、仕事は極めて多忙な時期だった。クライアントから指名で発注される仕事もあったが、ほとんどがコンペだった。
コンペの勝率は悪くなかったが、ある会社とよく勝敗を分け合っていた。
「ごめんなさい、今回はA社に決定しました」
「えっ、そ、そうですか~ 今回は自信あっただけに非常に残念というか、悔しいですね~」
「また次のコンペで頑張って下さい」
なんて調子で負けたときは、テンションが大いに下がったりしたもんだ。
特にA社は一番のライバルだったので負けると悔しくて堪らなかった。
A社とコンペになるとそのプレゼンには普段の倍以上の心血を注いで取り組んだ。
「今回は御社で決定です」
「やったー!! A社の奴ら今回は相当本気だって聞いたんですけど、うちの勝利なんすね」
「そうですね、A社さんは相当悔しがっていましたよ」
「あっはっは、そうでしょ、そうでしょ、ザマ~みろ」
てな感じで勝つと真底嬉しかった訳です。
ある日クライアントに呼び出された。
またコンペがあるという。
打ち合わせブースで待っていると、20代後半の仲の良い担当者がひとりで現れた。
「滝沢さん、今回のコンペはA社との2社競合です」
「ほ~、燃えますな~」
一騎打ちと聞いて勝負の血が騒ぐ。
「実は仕事ではありません」
「は?」
「女性が2人おりまして、広告代理店の人と合コンしたいって言っているんですよ」
「合コン?」
「忙しい時にすみません。勿論断ってもらっても結構です」
「いやいや、断るなんてとんでもありません」
「で、彼女たちは楽しい話しを期待している訳ですよ」
「まさか、コンペって」
「そう、A社とどっちが楽しい合コンか競っていただくという訳でげす」
「訳でげす?」
「やっぱり、断ってもらって結構……」
「いえ、やりましょう!」
てな訳で合コンコンペが開催される運びとなった。
A社が先にやることになり、その評価は上々だった。そこそこ盛り上がったという。
我が社はその5日後、場所は六本木のタイ料理屋でやることに決まった。
わたしは盛り上げ役にプランニングの菊田(仮名)を連れていくことにした。
菊田のトークはキャバクラで場数をふんでいる。最強の助っ人なのだ。
「菊田、ここは本気で勝ちに行くぞ」
「おう!」
決戦の時は来た。
いかにも遊び慣れした二人の女性が得意先担当者と現れた
「あんたたち、ちゃんと楽しませてくれるんでしょうね?!」
彼女たちの笑顔がそんなプレッシャーを与えてくる
そして合コンという名のコンペが始まった。我々はもうこれ以上ないほどの爆笑トークを駆使し、彼女たちを思い切り攻めた
お笑い芸人がネタを連発するがごとく、ボケたりツッコんだりで汗だくになるほどだった
彼女たちも腹を抱えて笑い、テーブルをバンバン叩いていた
手応えは十分
「おめでとうございます」
担当者が帰り際に言った
「御社の勝利です」
やったー\(^o^)/
菊田と二人でガッツポーズ
「A社は人間的につまらないってことですな」
「これからも仲良くして下さい」と担当者
「勿論ですとも!」
我々は気分よく六本木を後にした
後日、またその担当者から声がかかった。
今度は正式な仕事のオリエンだった
そして今回もA社との一騎打ちのコンペだという
「御社の面白さを今回の仕事にも発揮して下さい」
全力で取り組んだ
だが結果はA社の勝利となった
担当者は言う
「合コンで勝ったからいいじゃないですか」
えー、それはないよー