『スサノオとタケミナカタの真実を巡る旅』。
4話目.タケミナカタが呼んでいる
5話目.タケミナカタの叫び
6話目.神は人の敬によりて…
7話目.最強の武神再び…
8話目.伝説の星の神
10話目.タケミナカタとは何者か?
11話目.日本史上初の王、再び…
12話目.海底に沈んだ神
13話目.コトシロヌシの真実
14話目.ヤマタノオロチと生贄伝説
15話目.諏訪の奇祭の謎
16話目.天武天皇とタケミナカタ
17話目.日本最古の南海トラフ地震
18話目.地球は今も動いている
19話目.ヒスイの国の女神
『翡翠(ヒスイ)』。
富と権力の象徴として、
選ばれた者のみが、
手にすることが出来た、
『神秘の宝石』。
知性を身に付け始めた人類は、
やがて言葉を覚え、
他者との意思疎通をはかり、
狩りや農作業をすることで、
生活をすることを学んでいった。
『生と死』を学び、
その生命や自然の営みこそに、
『大いなる何か』。
所謂、
『神』の存在を、
感じるようになった。
生命を育む大地や海、山、川。
雷や暴風などの自然災害。
『こちら側』は、
生きている人々の世界、
『向こう側』は、
目には見えない、
魂や精霊の世界として認識するようになり、
その神秘的な力によって、
狩りの獲物を産み、
こちら側が、
それを感謝して頂く。
生命を始め様々なことが儚く、
有限である、
『こちら側』の世界に対して、
すべてを超越した、
『向こう側』の、
無限の世界こそが、
真実であるという世界観を、
育てていった。
『向こう側』から与えられる恵みや、
様々な現象に、
人の持つ言葉や祈りの力で、
少しでも、
望むような形に出来るなら…。
その思いのもとに、
『呪術』が生まれた。
『向こう側』の力を引き出して宿す、
神秘の呪具として、
また装身具として、
個人のお守りとして、
選ばれし者だけが、
手にすることが出来たもの、
それが、
『勾玉』だった。
神秘の石こそが、
『翡翠(ヒスイ)』であり、
その翡翠の原産地が、
ヌナカワ姫の鎮まる、
現在の、
『新潟県糸魚川市』。
その『神の石』、
翡翠をこぞって手に入れようと、
争ったものの、
雷や風、雨や雪…、
天の力を巧みに操る、
ヌナカワ姫に翻弄され、
その願いは、
叶わなかったという。
そのヌナカワ姫を、
味方に付けた存在が、
出雲国の王であり、
『日本史上初の王』、
オオクニヌシ。
遠く出雲の地からやってきた、
美しき男神は、
翡翠の国の女神に、
こう歌を贈ったと、
古事記にはその伝説が、
記載されている。
「八千矛の 神の命は 八島国 妻枕きかねて 遠々し 高しの国に 賢し女めを ありと聞きかして 麗し女を ありと聞きこして さ婚ひに あり立たし 婚ひに あり通はせ 大刀が緒も いまだ解かずて 襲をも いまだ解かねば 嬢子の 寝すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば 引こづらひ 我が立たせれば 青山に 鵺は鳴きぬ さ野つ鳥とり 雉は響む 庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥か この鳥も 打ちやめこせね いしたふや 天馳使ひ 事の 語りごとも こをば」。
【荒川意訳】
『八千矛の神(=オオクニヌシの別名)は、
八島国(やしまぐに=日本列島)の方々に、
最適な妻をさがし求めてきたが、
見つからなかった。
そこで、遠い、遠い越の国に
大変賢く美しい女性がいると聞き、
いてもたってもいられずに、
ここまで来てしまったけど。
もう明け方にもなるのに、
刀の紐もまだ解かず、
上着もまだ脱がないまま、
返事もないのに、
姫の寝ている窓の板戸(いたど)を押しゆすぶり、
引きゆすぶり、
立ちすくんでいるなんて、情けない話だろう?
そのうち、
緑の山には「ヌエ」が鳴き、
野鳥のキジはさけび、
ニワトリも鳴き出してきた。
ああ、いまいましく鳴く鳥よ
お願いだから鳴くのをやめておくれ。
このまま朝が来ないように、
いっそのこと殺してしまおうか』
オオクニヌシのその歌に対して、
それまで頑なに、
どの男たちとの交友も拒んできたヌナカワ姫が、
クスリと笑い、
そして襖越しに、
美しく、
透き通るような声で、
歌を返した。
「八千矛の 神の命 萎え草の 女にしあれば 我が心 浦渚の鳥ぞ 今こそば 我鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむを 命は な殺せたまひそ いしたふや 天馳使事の 語り言も こをば」
「青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ 朝日の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕 沫雪の 若やる胸を そ叩き 叩き愛がり 真玉手 玉手差し枕き 股長に 寝は宿さむを あやに な恋ひ聞こし 八千矛の 神の命 事の 語言も こをば」
【荒川意訳】
『八千矛の神さま、
わたしは、しおれた草のような女です。
わたしの心は、
おちつかずにフラフラ飛ぶ水鳥のよう。
今は、自分のことしか考えていない鳥。
しかし、いずれは、
あなた様の鳥になるのでしょう。
ですから、
どうぞ鳥を殺さないでください。
緑の山に日が沈んだなら、
闇に包まれた夜がやって来ます。
その時にまたあなたは、
朝日のようにさわやかに、
やって来てください。
そうしたなら、
私はコウゾ(クワ科の植物)の綱(つな)のような、
白い腕(うで)であなたを抱き締め、
泡雪(あわゆき)のような、
若く白い乳房(ちぶさ)で、
あなたを包むでしょう。
手をぎゅっと握って絡ませて、
足と足を重ね、
思う限りの一夜を過ごしましょう。
ですからどうか、
急くような恋などなさらないでください』
…そして襖が開かれ、
オオクニヌシとヌナカワ姫。
二柱の神は、
結ばれた。
『タケミナカタ』。
後につけられた名であり、
『日本史上初の王』と、
『神秘の石 翡翠の女神』との、
強力な二柱の神の間に、
生まれし子の名は、
伝説の星の神、
『アマツミカボシ』。
その原産地を支配下に
収めることが出来たなら、
この国を支配できる力を
持つことが出来るという、
『ある神の石』の、
化身だった。
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